Angeleno
2009年10月3日

明かり、ゲーマー、アクション、男!

ピ−ター・リッチモンド

この筋肉! あの思い悩む眼光! ジェラード・バトラーは、ハリウッドに ハンキーを回復したことで一番有名である。今秋、偉大なるスコットランド人は'Law Abiding Citizen' でプロデューサーとして、また残忍なスターとして筋肉と頭脳を誇示している。


地下鉄から街路への階段を上がっていくと、ジェラード・バトラーが1ブロック向こうからいきなり思いがけず睨んでいた:死んだような目をし、険悪で、脅か す。彼の近未来の破壊的な祭典である『ゲーマー』のポスターでは、バトラーの凝視は、彼の威嚇する空間に入り込んだあらゆる通行人に残忍に立ち向かう。そ こで、数分後にダウンタウンのマンハッタンのホテルのレストランで会った男が、くだけた服装で、3日伸ばした髭を生やし、ジーンズとスニーカーを履いた人 物だとわかるとほっとした。彼は、すぐさまあなた方を自分の世界に迎え入れ、過ぎ去った日々の一風変わった話を長々としてくれるのだ。

バトラーは、他の我々息をしている者たちと同じように自然に話を語る。そして、そのほとんどが、ジェラード・バトラーの映画の中の話なのではないかと思え てしまうのだ。

何をしたですって? 床の上の奴を踏みつけている6人の男たちを止めさせるためにパブでのもみ合いの中に入っていったですって? 二人の見知らぬ連中が瓶 を叩き割って喧嘩をしているのを止めに突進したですって? ヴァンのタイヤが燃えているのを見て、近くのバスの消化器をつかんで、車の下に飛び込んで火を 消したですって?

「そういう状況では、ぼくはそのことを考えもしないんだよ――ただやってしまうんだ。後になって考えるんだ。『一体、何を考えていたんだ』ってね」彼の甲 高い笑い声が人気のない部屋の剥き出しのレンガの壁にこだました。午後の半ばで、バトラーはその朝5時まで彼の次の主演作でジェニファー・アニストンの相 手役である The Bounty の最終日の撮影をしていた。

それに、あなたは初めての映画『クイーン・ヴィクトリア/至上の恋』の休憩中に、本当に川に飛び込んで、子供が溺れるのを助けたのですか?

「ああ、あのお陰で実際にぼくの母からの共感を得たんだ。息子は大丈夫だ、まだ英雄的な資質を持っていると思い出させたんだよ。ぼくたちは当時辛い時期を 経験していたんだ。ぼくの酒が最悪の時で、すごく落ち込んでいたからなんだ」彼はこの12年酒を飲んでいないし、酒をやめた時点の話をするのを避けている が、彼の移り変わりをほのめかしてはくれる。「ぼくが、肉体的にも状況的にも恐ろしい事態になって、どれだけ多くの転換点があったのか話を始めることはで きないけど、特に感情的にも心理的にも――何度となくこう思ったんだ。『これ以上に悪くなりっこない」ってね。」

結構だ、それじゃあ更に昔へ戻ろう。あなたは法学部の会長で、一流の事務所で訓練を受けたのに、皆はあなたの常軌を逸した仕事のやりようにうんざりして、 業務を行う資格を得る1週間前にクビにしたのですね?

「内面深い所ではわかっていたんだ、法律の勉強は・・・本当にやりたいことじゃないって」コーヒーをかき混ぜながら、考え込んで言う。「ぼくは狭い通りを ずっと歩いていた。その時点では、自分の皮を身につけてはいなかったんだ・・・もっと深い目的や目標、ぼくの本当に目指すものとの接点がなかった。それは 確かに法律じゃなかったからね」

真に目指すもの:それは、あなたが今やっていることですか?

「そうだよ」バトラーは言う。すると彼の目がぱっと開いて、顔全体がにっこりと弧を描いた。「ああ、そうだよ」

2007年にトップ10の総収益を上げた映画の1つである『300<スリーハンドレッド>』でペルシア人の群れを殺戮し、目を見張る特殊効果からなんとか 注意をそらして、ジェリー・バトラー(友人たちに彼が呼ばれたがる名前)は髭と8つに割れた胸筋の陰から姿を現し、数ヶ月の短期間で3つの主役をものにし た。8月のロマンティック・コメディ『男と女の不都合な真実』(期待はずれの評にもかかわらず売り上げは成功)、そして9月にはSFスリラーの Gamer 、そして今度は Law Abiding Citizen([法を遵守(じゅんしゅ)する市民])ではジェイミー・ フォックスの相手役で、普通の人が反社会的行為を行う復讐者となる。

これは波動などというものではない。一人の男の津波だ。そして、バトラーは露出過多にすくんでいることを認める。「 Law Abiding Citizen が公開された1ヶ月ほど後には、ぼくは自分の姿を見ると気分が悪くなるだろうね」と彼は笑う。「でもね、ぼくは自分の姿を見るのが大好きなんだ。だから、 自分の姿に気分が悪くなるとしたら、他の人がどう思うか想像もつかないよ」

おそらくこういうことだろう:それは、長いこと階級を上がってきた多才なスコットランド人が、真のAランクの頂点に達する時だ。「彼は長続きする次の主役 になる機会を持っていると思う」と Law Abiding Citizen の監督F・ゲイリー・グレイは言う。「ジェラードはこの業界に入る前に人生を送っていて、それが彼の演技に深みを与えているんだ。[ハンフリー・]ボガートは人生の遅い時期になってから始め て、受け入れることができる真に迫ったものをスクリーンにもたらした偉大なる主役だ。ジェラードにはそれがある」

実は、バトラーは子供の頃から演技をしている。頭の中は空想だらけの子供の時、母が渡したメモにあるその日の食料を買うために、バトラーはグラスゴーから 数マイルの危険なペイズリー地区を通らなくてはならなかった。「 あれはまるで『ウォリアーズ』の映画の中の地に入って行くみたいだった。ぼくはあそこに行って、英国空軍特殊部隊のまねをし、怪我をしたり殺されたりせず に出入りしようとしていたものさ。あの通りでは、結局は牢獄入りになった連中がすごくたくさんいるんだ。ほんとうに、いかれた地区だったよ・・・まるでぼ くの人生は子供の頃は悪夢みたいだったように聞こえるけど、すばらしい家族の出なんだ。ぼくには素晴らしい母がいて、熱愛しているよ」

バトラーの父は、バトラーが幼児の頃に家族を連れてカナダに渡ったが、マーガレット・バトラーは3人の子供を連れてペイズリーに戻った。「母は父の無茶苦 茶なやり方にすっかり嫌気がさしたんが」彼の母は、秘書学とビジネスの勉強に夜学に通い、ついには20年間専門学校で教えた。(彼の父は、バトラーが16 歳になるまで消息不明だった。6年後彼は亡くなった。)

バトラーの豊かな心には学校の勉強は楽なもので、[名門の]グ ラスゴー大学で法律を学ぶほどだった。思いがけず、彼が法律事務所をクビになったその週に、彼は『トレインスポッティング』の舞台上演を見ていて、信号は 青になった。1年後、1回ちょっとその他大勢で舞台に立ったことがあるだけで、バトラーはその同じ芝居のオーディションで、台本から完璧に台詞を言った ――そして、その場で主役を与えられた。

その1年後、(『シェイクスピア・イン・ラヴ』の)ジョン・マッデンが『クイーン・ヴィクトリア/至上の恋』で彼を監督した。相手役はデイム・ジュディ・ ディンチとビリー・コノリーで、バトラーはそれ以来過去10年間に30の出演作をひっさげて、トップへの道をぐいぐいと進んでいる。彼は、クロマニヨン人 (『アッチラ』『ベーオウルフ』)から、衝動的な暴力(『ロックンローラ』)や感動的なもの(『PS. アイ・ラヴ・ユー』)まで何でも演じて来た。ジョエル・シューマッカーのあまり賞賛されていない『オペラ座の怪人』でミュージカルまでやった。この作品で は、バトラーは彼の短く遥か昔のロック・バンドでの日々を生かして、あの忌まわしい仮面の陰から歌っている。

だが、批評家たちに骨抜きにされた映画においてさえも、バトラーは無傷で生き残った。まるで、他のわたしたちと同様に、連中は世界中の鎧と衣装をもってし ても、39歳の俳優が自分自身の皮にどれほど気持ちよく収まっているのかを隠すことができないと感づいているかのようだ。彼の自然な表情は、彼がしょっ ちゅうスクリーンでまとう暗殺者のしかめた顔とは反対だ。

バトラーの反応は、人生にユーモアを見るということだ。そのルーツは、苦労を耐えている家族の中で、みんなに平静を保たせる子供でいようとした衝動と、彼 の故郷の歴史的な人生における宿命観にあるという。「スコットランド人はどんな状況でも笑い方を知っているんだ。自分たちを、死を、社会的・経済的な不正 取引をも笑い飛ばすやり方を知っている。困難の中で育ち,それをからかうことを学ぶんだ。そうでないと、相当惨めだからね」

「ぼくが笑う時には、笑い以外は何もかも消えてしまう。その瞬間、愛でいっぱいになるんだ。そして、もし君が何か言ったりやったりして、その笑いを引き起 こした当人だとしたら、人生は最高だね。とにかく、ぼくにとってはね」

『300<スリーハンドレッド>』の監督ザック・スナイダーは言う。「いいかい、彼は目を見張る俳優で、すごいカリスマを持っている。『それ』は言葉では 言い表せない映画スターの資質だ、それが何であれね。でも、彼は一緒にいて気楽な能力もある。映画やハリウッドや何であれどんなことも介在させないんだ」

「彼は本当に付き合うことのできる人物で、気持ちよくお喋りをできる人物だ。そして、一緒に仕事をしたどの俳優についてもそう言えるわけじゃないよ」とグ レイが同意する。「けれど、スイッチを入れると、スイッチが入る。彼がやり遂げよう、ちゃんとやろうと一心になることは並外れている」

Law Abiding Citizen のセットで、この一心さはさらなる局面を加えた。これは、彼が長い間のマネジャー、アラン・シーゲルと経営する制作会社、イーヴィル・ツインズの最初の映 画で、グレイによると、バトラーは製作面をとても真剣に捉えているという。かれが脚本を買ったとき、バトラーは主役を演じるようフォックスに話をもちかけ た。妻と子供が強盗に殺された後、牢の中から一連の殺人を画策する男である。フォックスが慎重と見ると、バトラーは殺し屋の役を自身で引き受け、フォック スは彼の敵対者の地方検事になった。

「ジェリーは彼の翼を創造的に広げるチャンスを得た」とグレイは言う。「彼は誰にも劣らず剣を取ることができる・・・(だが)ここでは心理学だ。『羊たち の沈黙』のアンソニー・ホプキンスととても良く似ている」

しかし、伝統的なバトラーのジャンルの真のファンは心配することはない。LAC では、物が爆発し、人々はぞっとする死に方をする。一方、バトラーはちらりと笑みを浮かべるが、それはとりわけ不吉なやり方でだ。バトラーはセットに戻ら なくてはならないので、40歳に近づこうとする独身男には避けられない質問に取り組むべき時だ。タブロイド紙は彼とアニストンとの恋の噂に大騒ぎしてい る。そして、今日は『ゲーマー』を呼び物にしている同じチャイナタウンのビルがデザイナー・ブランドの水の屋上広告をしていて、アニストンの巨大な顔が目 立っている。この偶然に触れると、バトラーは微笑んで、携帯を開いて彼が撮ったそのビルの写真を見せてくれた。彼はそれをメールと共にアニストンに送っ た。「君はいつもトップにいる」笑顔の絵文字が続く。「尊敬の印だったんだ」と彼は言う。

じゃあ、彼女と付き合っているんですか?

「いや。ノーだ。シンプルだろ。そして、否定しないだろうね。だって、いずれははっきりと捕まってしまうだろうから。でも、ノーさ。彼女は素晴らしい女性 で、死ぬ程大好きだ。でも、彼女とは付き合っていない」

では、どうして結婚していないのです?

「過去数年、2つの恋愛関係があった。そして、見事に口を閉じてもらっている。多分、用心して、決まり文句にしがみついて、ふさわしい人を見つけていない と言うべきだろう。今の所、結婚するのは難しそうだ」

彼はまたはっきりと落ち着くのに問題を抱えている――文字通りに。

バトラーは[米大陸の]両岸に家を持っている(マ ンハッタンのチェルシーの近くと、ロサンジェルスのロス・フェリス)が、明らかにどちらでもろくに過ごしていない。「映画を撮り終わると、どこかへ行きた い、冒険したいというどうしょうもない気持ちになってしまうんだ。インドで1ヶ月過ごしたところだ。アイスランドにも行く。北極に行くことも考えている。 そして、こういうことをやったら、次の瞬間には別の映画に入っている。映画を撮っている時は付き合ったり、誰かと会ったり、何かを発展させる時間はあまり ない。ある人たちはぼくよりも恋愛関係にいるのが上手なんだろうね」

では、すでにあらゆる映画のジャンルに取り組んでいる男にとって、何が先にあるのだろうか?

彼の答えは素早く、しっかりと、確実だった。「自分を鼓舞し続けたいんだ。誤解しないで欲しい――あらゆる瞬間に鼓舞したいわけじゃない。けれど、それが 目標だと気づいているし、それが起きればわかるし、それがどんなに素晴らしい味かも知っている」

彼が大きな黒いSUVの後ろに乗り込む前の別れの握手は気持ちよく柔らかく、自然だった。そして、彼は行ってしまった――甲高い笑い声の響きとグラ スゴー猫の笑顔をいつまでも残像として残して。
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[訳後記]
ジェリーの笑顔を『不思議の国のアリス』に出てくるチェシャ猫のにん まりと笑うのになぞらえているのですね。それと、「ハンキー」という言葉は出て来る度に、日本語に当てはまる言葉がなくて苦労します。「たくましくセク シーな魅力をもっている男性」と辞書にはありますが、これに該当する日本語ってあるのでしょうか?

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