ジェラード・バトラーはダニエル・クレイグと共通する所が多い。30代半ばで名声を得、やはり体格の良い英国人で、新しくもっと若いジェームズ・ボンドを
演じる競争者でもあった。
しかし、腹筋を輝かせて波の中から出てくる代わりに、バトラーは皮のパンツを身につけて堂々たる存在感を、大ヒットしたアクション『300』の名高いスパ
ルタの戦士、レオニダス王にもたらした。
今グラスゴー生まれの俳優はニュー・ヨークに設定された『P.S.
アイ・ラヴ・ユー』でロマンスに戻った。彼は魅力的な女たらしで、ヒラリー・スワンクの亡くなったばかりのアイルランド人の夫で、一連のラヴ・レターを通
して墓から戻ってくる。
彼の妻の愛情を求める潜在的求婚者という点からすると、ジェフリー・ディーン・モーガン(『恋の解剖学』[2005]
のデニー)とハリー・コニックJr. という形で、彼にはかなり手強い競争相手がいる。
「『オペラ座の怪人』以来実際にたくさんのロマンティックな役のオファーがあったんだ」とジョエル・シューマッカーの映画で仮面の陰で感情をくすぶらせて
いたバトラーは言う。「問題は、ただできるからやるのか、ふさわしいものが来るまで待つかなんだ。ただロマンティックだからというのでやりたくはなかっ
た。ぼくが読んだロマンティック・ストーリーの80パーセントは吐き気を催すよ」
そもそも、バトラーはこのロマンティック・コメディにスワンク、キャシー・ベイツ(彼女の母)、リサ・クドロウとジーナ・ガーション(彼女の親友)の相手
役として演じなくてはならないから惹き付けられたのではなく、リチャード・ラグラヴェネーズの脚本を信頼したからなのだ。
「リチャードは(スワンク主演の)『フリーダム・ライターズ』を書いて監督した。これでは彼は、アイルランド首相(バーティ・アハーン)の娘セシリア・ア
ハーンの小説を脚色して、ものすごく楽しくて悲痛な台本を書いたんで、ぼくはやるのが待ちきれなかった」
バトラーの重要な場面は映画の冒頭にあって、そこでは愛し合う人々がよくやる夫婦喧嘩の一つをしているときに、スワンクと同じようにわたしたちは彼の魅力
に惚れ込む。2人の愛ははっきりとわかる。わたしたちは、その場面の記憶を彼女と同じように映画を通じてずっと持ち、彼女が彼の親戚を訪ねてアイルランド
に戻り、2人のロマンティックな最初の出会いを思い出すときに彼女の悲しみを感じるのだ。
「ぼくの経歴の中で、人々はぼく越しに右を見たり左を見たりしているけど、ぼく自身を見てはいないんだ」とバトラーは言う。「これまでなかったほどずっと
『P.S.』ではぼくらしくしているよ」
バトラーは愛すべき女たらしでもあるようだ。かつてはスピードというバンドで「落ち込んで小汚い歌手」であり、俳優で脚本家のスティーヴン・バーコフにカ
フェで見い出されたときはほとんど法学の学位*を終えかけていて、彼が演技してみるように勧めてくれた。
[*
ジェリーは大学は優等で卒業しており、これは学位ではなく、弁護士資格のことです。]
射抜くような緑の眼と、だんだんとつのってきた男らしさでスクリーンでセクシーだという印象を与えるようになり、バトラーはしばしば私たちを驚かせるキャ
ラクターに惹かれているので、彼が良い奴なのかワルなのか判断するのは難しい。確かに彼はアンジェリーナ・ジョリーの『トゥームレイダー2』で彼女を裏切
る前に完全に魅了する。
バトラーはアクション映画『ベーオウルフとグレンデル』 (2005)
の撮影に大変な努力をした。『300』の成功に続いて、クイーンズランドで撮影した家族向けの『ニムの島』ではジョディー・フォースターと共演した。つま
るところ、バトラーは007を演じ損ねたことを気にしていない。
「ぼくはアクション映画をたくさんやったから、他の連中みたいにアクションの役には興奮しないんだ。一つぼくの経歴の長所だと思うことは多様性で、それに
対してボンドは歴史的にある一点に固定してしまう。
「また『300』をやってずっと興奮した、これまでやったことのないものだし、ぼくと他の6人のボンドとの違いを説明してそのあと腕時計とサングラスを着
けて1,000枚の写真を撮られるよりもかえっていい。多分もっと金持ちになっていただろうけど、もっとうんざりしただろうね」