Total Film 2008年8月号

ただのロックンローラさ・・・だけど、好きなんだ・・・*

銃、女、変人・・・ガイ・リッチーが英国の掘り出し物をひっさげて、2008年をものに せんとして第一級の形式に戻って来た。並ぶもののないやり方と、監督自身による撮影で、トータル・フィルム誌は、犯罪が実際にどうして儲かるのかがわか る。
*このタイトル 'It's only RocknRolla…but we like it…' は、1974年のローリング・ストーンズの歌 'It's only rock 'n roll, but I like it' から来ています。

オーブリー・デイ記

「ど う思う? もうまっすぐかい? これでどう? 今度は?」

トータル・フィルム誌はガイ・リッチーとパブに腰を下ろしている。とても寒い伝統的な英国のパブだ――分厚いカーペット、暗い木のバー、壁にはチャーチル と女王の写真。唯一現代的なのはバーの下の食器洗い器とタバコの煙がないことだ*。リッチーは、彼の背後にある10余りの小さな額入りの写真の 1枚をまっすぐにしようという間違いを犯している。問題は、そもそもそのどれ一つとして初めからちゃんと並んでいなかったことだ。1枚を直すと、あとのは もっと曲がって見える。彼は別の1枚をまっすぐにし始めた。上手く行かない。次いで、別の1枚。まだだめだ。一瞬、度を超した強迫神経症的な振る舞いがの ぞいた。それから、肩をすくめた。彼は腰を下ろした。「こんなこと始めるべきじゃなかったな・・・」と彼はにやりとした。我々は今日ここに映画(ピク チャー)の話をするためにいるのだ。だが、壁の写真(ピクチャー)についてじゃない。リッチーはトータル・フィルム誌のために数枚のポートレートを撮るこ とに同意していた(『ロックンローラ』のキャストので、この数ページに渡って目にしているものだ)。そして、それがどうなったか確かめたいのだ。我々はぼ そぼそとつぶやいた。「結構。素晴らしい。心配ない。君たちが何を求めているのかわかったよ」と彼は安心させるように言った。撮影は、もちろん彼の新作映 画をプロモートするためだ――[リッチーの妻マドンナが主演した]『ス ウェプト・アウェイ』[2002] での難破漂流した奥方、そう確かに奥方だ、と、『リボルバー』[2005] の後で、脚本家兼監督はもっと馴染みのある領域に戻った。彼はこの最近の[失敗した]2作への反応のせいで一休みしていたのだと率直に認 めた。
*英国では屋内での喫煙は全面的に禁止になった。

「おそらくわたしは人々が受け入れられるだろうと思っていたことについて、野心的過ぎたんだろうね」と、彼は恨みも後悔もなく言った。「それを頭で理解し ようとするというよりも、ただわかるんだ。映画を作っている時は、どういう映画を作っているのかということについて明確でなくてはいけない。そして、今は それがはっきりしていると思う。時々、人々のために作るのではなく、自分のために映画を作るが、究極的には人々のために映画を作ることと、自分のために映 画を作ることとを一致させたいと望む。『ロックンローラ』に関しては、10秒以内に、わたしは自分が目指している所の天気は暖かいとわかったんだ。言って いることがわかるかな。この前の2作では、自分1人で丘を登っていて、たくさんの人を引きずっているような気がしていた。それに対して、これ[『ロックンローラ』]では、丘を降りているのはわたしで、多く の人が一緒に行きたがるんだよ!」彼は笑った。「だから、気候の違いを感じるのさ」

その結果が、この何年間で最も楽しいリッチーの映画だ。スマートなプロット、スタイリッシュな監督、そして――とりわけ素晴らしいのは――楽しい犯罪行為 で、そもそも彼がどうしてあんなにも成功したのかを思い起こさせてくれる。

ストーリーは、不正な土地取引を計画しているロシア人の百万長者ユーリー(カレル・ローデン)、その大金の一部を手に入れたがっている保守的な暗黒街のボ ス(トム・ウィルキンソン)、彼の右腕アーチー(マーク・ストロング)、死んだと信じられている麻薬で頭がいかれたカリスマ的なロックスター(トビー・ケ ベル)、彼に先んじている二流の犯罪者(ジェラード・バトラー)を巡って展開する。ことの成り行きに色気を与えているなんてものじゃないのが、セクシーだ が堕落した会計士のタンディ・ニュートンと、新しいボンド・ガールのジェマ・アータートンで、さらにジェレミー・ピヴェンとクリス・「ルーダクリス」・ボ リッジズがちょっと顔を出す。

「すごいキャストだよ」と、ジェラード・バトラーは、我々がロンドンのソーホー・ホテルで追いついた時に認めた。「でも、何がすごいって、すべてのキャラ クターが人を惹きつけるってことさ。ガイはこれでは以前よりもずっと上手くやった。ぼくは他の映画もとても好きだったけど、この映画ではどのキャラクター についても、彼らに共感せずにはいられないんだよ。なにしろ、連中がみんなどこから来たのかわかるからね」今もなお『300』の成功に浴している俳優 は、ガイ・リッチーの映画を作るということは、誰もがする選択ではなかったと認めている。「絶対に違うね。でも、それなら、『幸せの1ページ』(ニムの 島)だってそうだった。あるいは、撮ったばかりのロマンティック・コメディ(『P.S. アイラブユー』)だってそうだ。あれは、よくよく考えて選んだんだ」それにも関わらず、彼は監督に何を期待したら良いのかよくわからないでいた。

「ぼくは、雑誌で他の人の生活について良く読んでいるような人じゃないんだけど、時にはある考えを持ってしまうこともある。そして、ぼくはロンドンに来た 時、ガイ・リッチーと仲良くなるとは本当に思っていなかったんだってことは言わないといけない。でも、仲良くなったんだ。彼は本当に面白くて、素晴らしい 個性を持っているけど、高慢さはない。それは、『わたしがそう言ってるんだから』っていうようなものでは決してなかった。彼は、映画にとって正しいもの である限りは、他のアイディアに対して信じられないくらいオープンだったよ。それに、とても落ち着いているんだ――彼は誰に対しても、不快なことや残酷な ことを 言ったことはない。ぼくはそれがとても好きだ」

リッチーは、これ以上「ロンドン訛りもどき」という批難を受けたくないから、スコットランド人のバトラーを配したのだと冗談を言う。しかし、この俳優は、 『ロックンローラ』には訛りを変える以上の特徴があると感じている。

「これと彼の初期の映画とで、ぼくが気がついた違いがあるとしたら、彼の中身が少しばかり大人になっていて、映画監督としても成熟したということかな」 と、バトラーは言う。「彼は相変わらずあの一風変わった所やあのスタイルがあるけど、あの未熟さの一部はなくなっている――相変わらずなにもかも魅力的 で、早くて、クレージー・ファニーだけどね」

「進化しているといいんだが・・・」と、リッチーは思いに耽った。「明らかに『ロック、スットック・・・』や『スナッチ』に関しては、これはそのジャンル への回帰だと見られるだろう。だが、これにだって、ある<現在性>があると思う。わたしなりに、現代のロンドンを反映するようにした」『ロックンローラ』 のアイディアは、ニュー・ヨークからの帰りの飛行機の中で、3万フィートの上空で最初に思いついた。

「ロンドンについて語っている雑誌の記事を読んでいたんだ。それは、ここに6ヶ月住んでいるアメリカ人からのものだった。この15年でロンドンがどんなに 変わったかということを人はあれこれ言っていた。金と人の流入。つまり、世界の首都としての地位をどんな風にニュー・ヨークから奪ったかというようなこと だ。それは、様々な点で目にする。15年前は、ここにはサービス文化はなかったから、伝統的に質の悪いホテルに泊まっていたものだろう? イングランドは それで有名だからね! でも、もう質の悪いホテルで有名じゃないし、15年前には笑い者だったロンドンはひょっとすると、食事では世界でも最も崇められる 都市の一つだ。だから、単にすっかり変わったので、描くものは何もないんじゃないかと思った。その記事では実際こう述べていたと思う。『どうして誰かがそ れについて映画をつくらないんだ』ってね。

「そこで、思ったんだ。『よし、何かやってやろう――最近の経験の後なら――作るのはかなり簡単だ。だが、何かわたしが愛すると同時に自分が生まれた都市 の変化を反映するものだ』」

「彼がどこから思いついたのか完全にわかった」と、数日後にマーク・ストロングは言った。我々はロンドンのはずれのスタジオに坐っていて、スタイリストや その他の人たちがせわしなくあたふたしたり、一服しようとバルコニーを探したりしていた。

「ロンドンで生まれ育ったんだ」と、彼は続けた。「そして今、このまるで共通点のない悪党たちのグループがいる。コートを着た昔風のギャングがいる――俺 のキャラクターのアーチーみたいなのがね。通りには若いトルコ人がいて、潜ったり飛び込んだりしている。それから、この全く新しい金ってやつだ――こ の裕福なロシア人さ。誰かが話してくれたんだが、明らかに、1千万ポンドを超えるロンドンの家の80パーセントは、現在ロシア人が買っている。それから、 美術品も売られている。美術品てのは常に帝国の後を追って行くからね。80年代半ばに日本人が強かった時、彼らはあらゆる美術品を買っていた。今はロシア 人がそれを全部買っている。この間、あのルシアン・フロイド*の 描いた何千万ドルの「ビッグ・スー」(ベネフィッツ・スーパーヴァイザー・スリーピング)** はアブラモヴィッチが買ったという噂じゃなかったかい?」
*心理学者ジグムント・フロイトの孫。1922〜。ベ ルリン生まれだが、1933年に家族とともに英国に移住した。39年には市民権を得る。2005年には、彼の描いたファッション・モデルのケイト・モスの ヌード肖像画が、390万ポンド(約7億7千万)で落札されて話題になった。
**1995年の裸婦像。ニュー・ヨークのクリスティーズで 3,400万ドル(約36億円)で落札され、存命中の画家の作品としては史上最高の値をつけた。この作品のモデルとなった肥満の女性のギャラは20ポンド (約4,000円)だった。


ストロングは『リボルバー』以前にリッチーと仕事をしたことがあり、それが彼が『ロックンローラ』のために戻って来た主要な理由だと認めている。「リッ チーと仕事をするのが大好きなんだ。彼のセットは本当に肩が張らなくて、気楽で、気持ちがいい。彼は自分が何を求めているのかわかっている。セットでの緊 張感という点から仕事をする奴もいるみたいだ。そいつらは、その階層制度、セットに付きものの騒ぎが必要なんだ。ここは、ただ・・・気楽だった。でも、こ の前の作品では『四苦八苦した』って彼が言っていることはわかるね。何もかも感じたよ・・・」

彼はふさわしい言い回しを探して、ちょっと口を切った。「問題となっていることがたくさんあったようだ。今回は、彼はずっと早く動いていた。彼と撮影監督 のデイヴィッド・ヒッグスは上手くやっていた。それは、『そのことは心配しないで良い。それは撮らないでおこう。ライトをそこに当てていてくれ、さあ、や ろう、先へ行こう』だったよ。彼は、『これをこうしたい、これはそうでなくてはならない』ということにもっと関わっていた。誰もが彼のためにショットを セットするというよりも、人手が多かった。そして、彼は『いや、わたしが求めているのはこれだ』と言わなくてはならなかった。彼はそれをやり遂げるにあ たっては、はるかにてきぱきしていたし、もっと幸せそうだったよ」

「セットでは確かにとってもいい雰囲気だったわ」と、電話の呼び出しにどうにか出て来たジェマ・アータートンは裏付けた。明らかに、カツラ合わせの最中 だ。(「明日『007/ 慰めの報酬』[2008] の撮影をしなくちゃならないの」と彼女は説明した。「でも、わたしの髪は今色がだめなのよ・・・」)

「ガイについてわたしが感心したのは、とてもエネルギーがあるってことね。わたしのキャラクターはとてもコミカルだから、彼は本当にそれに入り込んでいた の。彼女はとてもおバカで、彼は彼女のまねをしていたわ。それに、わたしのキャラクターはわたしがセットに来るまでは存在しないから、わたしたちは即興で やって、あれこれ付け足して、彼は本当にそれに開けっぴろげだったの。初めのうちは、わたしは1行だけのはずだったんだけど、知らないわ・・・」と彼女は くすくす笑った。「彼はわたしが面白いと思って、付け足したのよ! 熱しやすく、冷めやすいのね。彼はとても状況に身を任せるんだけど、それがすごくすっ きりするのよね。仕事をする相手として素晴らしいわ。それに、とても素早いの!」

リッチーのセットでの手早さは、トム・ウィルキンソンによっても裏付けられた。映画の「ビッグ・バッド」(の1人)が、トータル・フィルム誌に彼の日曜を 邪魔することを許してくれた。「我々はいつも時間前ということはないにしても、時間通りに終わっているから、俳優たちはみんなそれが気に入っている! し かし、もっと適切に言うと、彼はいつだって自分が求めていることがちゃんとわかっているようだ。彼がそれを手に入れたら、それで終わりさ」

「ああ、彼は早かったね」とトニー・ケベルは同意した。アータートンと同じく、彼も今はジェリー・ブラッカイマーの 'Prince Of Persia' の準備をしている。「いいかい、しばしば映画では、ぶらぶらと過ごしたり、でれっとしていたりすることが多いんだ・・・でも、実質的には、ライトの取り替 えが あったり、カメラにフィルムを入れ直したりするたびに、『3、2、1・・・』って聞こえる。文字通りのカウントダウンだよ。そして、誰もがさっと仕事に取 りかかる。そして、『本当にでれでれしていたい奴なんていないんだ』ってわかるのはいいことさ」と、彼は笑った。「撮影監督 は別だ――連中はいつだって、『このアングルはどうだ?』ってのが大好きなんだ。でも、一番やりたくないことは、とてもエネルギーを使うシーンをやって、 その後ライトを替えている間、20分間坐っていることだよ。物事のペースというのが本当に大事だった」しかし、必ずしもすべてのシーンがそのようにスピー ディだったわけではない。

「水パイプのことかい?」と、ケベルは映画の冒頭近くの一場面について言った。そこでは彼はとてつもなくLSDを吸い込んでいる。「ああ、あれのために 28テイクくらいやったよ! タバコを詰め込んであったんだが、終いにはすっかり青ざめちゃって、おばあちゃんが天国から見下ろしているのが見えるように 思ったね」彼は憤慨したふりをした。「だのに、映画を見たら、それをやっている所はちらっとしかないんだぜ!」

ケベルのキャラクター、ジョニーはタイトルの「ロックンローラ」で、――ケベルの言によると――「ヤク漬け」だ。愉快で、魅力的なのだが、時たま精神的に おかしくなる。そして、確かに、実在のやせこけたバンドリーダーなどではない。

「みんな『ピート・ドハーティを元にしているのかい?』って言うんだよ。でも、そいつは知らないんだ。あんな風な奴は誰一人知らないんだけどさ、脚本がと ても良く書けていたから、ある台詞をどういう風に言おうかと思いつくたびに、ガイや他のクルーが笑うみたいだったんで、それが正しいやり方だと思えたん だ。一番大変だったのは、役のために体重を落とすことだった。12ストーン[約72キロ] から、10.4ストーン[66キロ] に落としたんだ。『マシニスト』[2004]*かなんかみたいなんじゃなかったけどね。クリス チャン・ベイルには敬服するけど、この役には必要なかった。それでも、1日1食しか摂らなかったよ。ちょっとのカロリーで――生きて行くのに十分なだけ だ! いつも心が誘惑されて、世界で一番の甘党になった!」
*クリスチャン・ベイルは不眠症の主人公を演じるため に30キロも体重を落として、がりがりになった。

何一つネタバレせずに、映画の終わりは将来のアドヴェンチャーに向けてドアを閉じてはいないと言っても大丈夫だ。そして、リッチーは「もし人々が1作目を 見に行くなら」、キャラクターたちを綿密に決めたプロットがさらにあることを認めている。

「2作目はもう書いたし、3作目のプロットも決めてある。実を言うと、ある時点では、3作を1回で撮ってしまいたかった。実はこういう種類の映画は好きな んだ。坐っている所からとてもよく見えるからね。だから、撮影所全体を観察していたよ」

キャストは、続編に参加しようと意気込んでいるようだ。

「ぼくは普通は2作目とか3作目にはあんまり乗り気じゃないんだけど、これは長編じゃないし、とても面白かった」と、バトラーは言う。「もし、またやりた い映画があるとしたら、これみたいなのだろうね。最初のは大爆発だったよ」

「続くと良いな」と、ストロングは言う。「ガイとトビーもそうだというのは知っている。『ロックンローラ』が完成してしまい込まれた後、とても素晴らしい 時があったんだ。電話口に呼び出してきては、第2作の脚本からのダイアログを電話で伝えてくるんだ。いつでも、一番都合の悪い時だった――ガイが電話して 来る と、俺は第2作のダイアログを10分間聞いたんだ。そして、公平を期するなら、実にファンタスティックだよ!」

リッチーがもっと作る時間があるかどうかは、問題になってくるかもしれない。彼の名前が様々なプロジェクトと結びつけられているからだ。それには、『特攻 大作戦』[1967] のリメイクや、コミック・ ブックの翻案『ロック軍曹』、シャーロック・ホームズの「リイメージング」も含まれている。

「今後5年間はとても忙しくしているつもりだ」と、彼は微笑んだ。「そして、作ることになるのがかなり確実なのが6、7作あると思う。わたしは、かなり早 く映画を作ると思うんだ」 大手映画会社の「獣(けだもの)」でも? 彼はにやりとした。「そう、大手の映画会社の『怪 物』 とは仕事をしたことがないんだから、ちょっと早まったかな・・・1年かそこらしたら、また来た方がいいね。その時には、もっとそのことを知っているだろ う!」

『ロックンローラ』は9月5日公開で、次号で批評する。

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