でも、どうして見たいのかを説明しなくては納得していただけないとしたら、こういう
訳です。
まず、これが古英語で書かれた最古の現存する長編作品を原作とし、
その作品の世界を
よく映像化していると思われるからです。
寒風吹きすさぶアイスランドで撮影され、『ベーオウルフ』の世界を体現する
自然美に
も溢れています。
2005年9月にカナダのトロントで行なわれた国際映画祭においては、
10分以上のスタンディング・オヴェイションを受け、
批
評家たちの評判もすこぶる良好でした。
また、今年になってからの、米国パーム・スプリングスでの映画祭での批評家の評も
「ストーリーが素晴らしい」などと非常に評判が良いのです。
もちろん、主演のジェラード・バトラーの演技は、彼のこれまでの作品を見てくれば、
決してがっかりさせられることはないでしょうし、また主人公のベーオウルフにふさわしいと思われます。
実際、2006年2月1日付けの Tiger Weekly 誌に寄せられた
Keely
Kristen
氏の論考は
「
ベーオウルフには米国配給会社が
必要である」と題されています。
米国の配給会社が買い渋っているのは、
2007年公開予定の自国
のアニ
メ版が予定されていることが
おそらく影響していると思われます。同じテーマのものを続けて並べたくないのか、
あるいは多国籍の映画(英・カナダ・アイスランド)よりも、自国のハリウッド製で
大物俳優を声優陣に起用している映画を売ることを優先しているためでしょう。
ご承知のとおり、米国での公開*が決まらなければ米国追従の日本での公開はまず絶望的で
しょう。そのためになんとか公開して欲しいという嘆願集めをしたいのです。米国のファンたちも Fox
に嘆願メールを送ったりしているようです。まだどこにいつどのような形で送るか、といった具体的なことはこれから詰めなくてはなりませんが、まずそういっ
た声を上げることが必要だと思います。個人的にメールなどを映画配給会社に送ることはもちろんいいでしょう。映画雑誌などに見たいという声を送るのもいい
で
しょ
う。でも、みんなの熱い思いをまとめて、これだけ公開を切望している人たちがいるのだということを、ぜひとも映画業界に知ってもらいたいのです。
(*
公開歴のページにも載せてありますが、カナダに続いて6月から限定的とは言え、米国の8つの大都市で公開されました。10月からはニュージーランドの
27、8の劇場で公開されました。)
こ
のストゥーラ・ガナーソン監督による映画が基にしている『ベーオウルフ』という作品は、8世紀頃に書かれたと思われる作者不明の、英語で書かれた最古の
長編作品です。英語といっても、アン
グロ・サクソン語という今のわたしたちにはとても読めないものですが、幸いに日本語訳が出ています。岩波文庫に『中世イギリス叙事詩 ベーオウルフ』とい
うタイトルで入っています。しかし、これは作品そのものの構造自体が複雑であるうえに、日本語自体がまるで歌舞伎の台詞を思わせる雰囲気ですので、なかな
か読み通すのが難しいと思います。しかし、ローズマリー・サトクリフという英国の作家が書いた児童向けとはいえ優れた作品が翻訳されています。『ベーオウ
ルフ 妖怪と竜と英雄の物語―サトクリフ・オリジナル〈7〉 』 井辻
朱美訳(原書房)。これにより物語を概ね知ることができます。映画では、この作品の前半部分を扱っています。ただ、グレンデルの設定が
もっと現代的な視点からの解釈、すなわち人間と妖怪の戦いという視点よりは、違う部族間の軋轢(他部族・異教徒をトロールとみなす)、フロスガール王に父
を殺されたグレンデルの復讐といった視点になっています。ベーオウルフ自身も、英雄としての自身のありかたに苦悩するといった原作にはない視点があ
るようです。
また、この作品はトールキンの『ホビット』そして『指輪物語』(映画「ロード・オブ・
ザ・リング」の原作)が下敷きとしてい
る物語世界でもあります。作者のトールキンはオックスフォードの古代中世英語英文学の教授でしたし、『ベーオウルフ』は専門で、その研究に画期的な光を当
てました。ですから、ベーオウルフ
という名は熱い指輪ファンの方々にも馴染みのある名前です。また、若い人たちには、ゲームやあるいは田中芳樹氏の『銀河英雄伝説』に出てくる宇宙船の名
とし
て、耳に馴染みのある名前です。ぜひともこうした人々にも呼びかけて、『ベーオウルフとグレンデル』を日本公開して欲しいとい
う嘆願の力になっていただけたならば、とも思っています。
以下に、Keeley
Kristen 氏の記事の拙訳を載せておきます。訳注は[
]に入れました。見出し以外の本文中の太字にした所は、わたしが勝手に強調したものです。
* * *
2006年2月1日 Tiger Weekly
ベーオウルフには米国配給会社が必要である
キーレイ・クリステン記
このような雄壮な冒険物語はどこから始めたらよいだろうか。
物語を語り直すことにすら躊躇しているのだが、まあやってみよう。
大学生の間に英文学の講義を取ったことがあるなら、『ベーオウルフ』の叙事物語は学んだでしょう。ちゃんと聞いていてくれたら良いのだが。もし聞いていな
かったとしたら、それは損失だよ。
ある人は7世紀か8世紀頃、別の人は10世紀頃に書かれたと信じている『ベーオウルフ』は、[正典語としての]ラテン語に対する民衆語(古英語)で書かれ
た最古の現存する文学の傑作である。
作
者不詳の『ベーオウルフ』は、イェーアト人の家系の出で、友人でデーン人の王であるフロスガールに頼られた神話的な英雄のことを物語っている。デーン人は
ここしばらく、怪物的な生き物グレンデルの大変な脅威と反乱を耐え忍んでいた。そして、王は国民の安全と彼の愛する館ヘオロットの安全を怖れていた。
グレンデルの出自は、兄のアベルを殺したカインにまではるかに遡り、彼とその母親は神話的な巨人族で、そのために普通の剣、つまりデーン人の剣は受け付け
ないと言われている。
グレンデルの猛威とデンマークの法と慣習破りがますますひどくなってきたので、フロスガール王はデンマーク王国を救うことができると信じられている唯一の
人物、伝説的なイェーアト人の英雄にして戦士の貴公子ベーオウルフを頼んだ。
フ
ロスガールの嘆願を聞くとすぐに、ベーオウルフはその難題を受け、人殺しのトロールを食い止めるために出発する。それにより、グレンデルが夜な夜なヘオ
ロットを恐怖に陥れるのは、フロスガールから受けた不正への復讐なのだと知る。ベーオウルフが探求の間に自身の責務に葛藤を感じるようになるにつれ、自ら
の人生がわかってきて、自分の中にもグレンデルと似たものを見る。そしてそこに、この伝説的な物語の葛藤の中心があるのだ。
とうとう、この叙事詩が大画面向けに翻案された。
アイスランドのストゥーラ・グンナルソン監督は、大半はテレビのディレクターをしているが、映画監督を目指し、わたしの読んだ所からすると、彼はわれわれ
の古代スカンジナビアの傑作を生き返らせたかのようだ。
一つだけ問題がある。映画配給はまだこれからなのだ。
残念ながら、
アメリカはアニメ版を作ることにした。これは戯言だ。なぜなら『ベーオウルフ』のような古典をアニメ化することは物語の感情と激しさを
取り去ってしまい、[14世紀英国の作者不明の傑作]『ガウェイン卿と緑の騎士』や[古代ギリシアのホメロスによる]『イリアッド』と『オデュッ
セウス』、あるいはまだましとしても『指輪物語』三部作全部をアニメ化するようなものだからだ。
アメリカの映画会社は、アンジェリーナ・ジョリー、レイ・ウィンストン(『キング・アーサー』のボース)、ジョン・マルコヴィッチ、アンソニー・ホプキン
スといった大物を声優陣に配する契約をした。公開は2007年の予定である。
グンナルソン版の方は、優れた才能の国際的な出演者を集めたと言おう。
戦士ベーオウルフに選ばれたのは、
スコットランドの大スター、ジェラード・バトラーで
ある。彼の最初の映画は、『Queen Victoria 至上の恋』[原題 Mrs
Brown]あるが、躍進的な役はテレビのために作られた映画『騎馬大王アッティラ/平原の支配者』[原題 Attila the
Hun]でフン族の王アッチラを主
演した。この映画における演技が彼を国際的な大スターにした。
近年、彼はアンジェリーナ・ジョリーと『トゥームレイダー2』で相対して共演し、また『オペラ座の怪人』の映画版で主役を演じた。
彼の演技スタイル
に馴染んでいる者はだれでも、ベーオウルフの神話的な役柄にこれ以上の選択はないとわかるだろう。
お
そらくもっとわくわくするのが、フロスガール王を演じるために選ばれた俳優である。スゥエーデンのステラン・スカルスガードは、国際的な才能の中で最も経
験があり謙虚な俳優の一人だ。彼は『グッド・ウイル・ハンティング/
旅立ち』で、尊敬される数学者ジェラルド・ランボーを演じ、アントワン・フーカーのアーサー王の最新版ではセルディックとして、サクソン人の王にして戦士
ならかくあらんと信じられるありとあらゆるものの典型となっていた。
トニー・クランもまたグンナルソンの映画に出演しており、1999年の『ベーオウルフ』の米国の翻案である『13番目の戦士』にも出ているので、だれより
も先んじていると言っても良いだろう。
サ
ラ・ポーリー(『ドーン・オブ・ザ・デッド』)はセルマとして出演し、アイスランドのイングヴァール・シグルドソンがグレンデルを演じる。彼の演技は
[『ロード・オブ・ザ・リング』でゴクリのCG像の下演技をした] アンディー・サーキスと同じくらい力強く、比較し得るものだろうか。
わかるかもしれないし、わからないかもしれない。グンナルソンの映画はすでに英国、アイスランド、カナダや世界の他の地域で公開されているが[公式サイト
によるとまだカナダでの一般公開しかされていないが、プレミア上映は行われている]、これまでの
ところ、米国の配給会社が取り上げてはいない。
プ
ロモーションを促す助けになるには何ができるだろうか。映画の販促ウエブ・サイト http://www.kenesa.com/beowulf-
grendel/campaign.htm では全てのアメリカ人にフォックス・サーチライト・ピクチャーズに手紙を書くようにというキャンペーンが進行
中である。
あなたが古典文学のファンであるのと同じく映画狂なら、参加して、この国がこの映画の配給をするように、あなたにできることをするようお勧めする。