Esquire 2009年8月号

ジェラード・バトラーについて知らなかった300のこと

この男の映画は総売上が世界中で10億2千万ドルに上る。
・彼は望むままにほぼ誰とでもデートする。
彼は今月もっとたくさんの映画に出る。
・彼は本当に本当に素敵な家に住んでいる。
我々がライターに言ったのは、彼が・・・

ジェリーと いう名前だということだけだ!

我々の一番開けっぴろげなレポーターの一人で、我々のハリウッドに取 り憑かれた世界に馴染んでしまって汚されてはいない男を、この男にインタヴューするよう送り込んだ。彼にはファースト・ネームと住所だけ伝えて、それ以外 は何も教えなかった。カルが彼のことを耳にしたことがないということについてはかなり確かだった。そして、こういうことになったのである。

文:カル・ファスマン / 写真 サム・ジョーンズ

車を止めると、編集者に手短にメールを送った。「こいつは良い家を持っている、それは確かだ」玄関は、まるでヨーロッパにいるような気分にしてくれる。そ こでは、扉が400年ものだったりするのだ。こいつは何をやっているんだろう。ベルを鳴らすと、女性が応答し、ジェリーのアシスタントだと言う。実に心が こもっている。彼女は中のカウチに案内してくれ、彼を呼びに行った。腰を下ろして、周りを見回す。ピンボール・マシーンと玉突き台がある。リビング・ルー ムにピンボール・マシーンと玉突き台を持っているような奴を好きにならずにいられるだろうか。

彼がやって来た。大きな奴で、興味を引く顔だ。破れたTシャツを着ている。これでさらにくつろいだ。

G:「やあ、元気かい?」
C:「お目にかかれて素晴らしい。カルです」

我々は握手をした。ここまでは、とても良い。

C:「あなたにはユーモアのセンスがありますか?」
G:「いいや、そうでもない。どうしてだい? 冗談かなにか言って欲しいのかい?」

この訛り。オーストラリアか? ニュージー・ランドか? 普段はこういうことはとても得意なんだが。スコットランド人かな?

C:「この住所に来て、ジェリーと話をしろと言われたんです。あなたについて知っているのはそれだけなんですよ」

ジェリーは首を傾げ、彼の顔は相反する表情に分かれた。目は疑わしげに細くなったのに、にやにやしている。

G:「オー・・・ケイ」
C:「でも、ぼくらはいい感じですよね。世界中を回って旅をしている間にインタヴューすることを覚えたんです――列車に乗って、人々に会って。ほとんど金 はなかったから、切符を買って、これはと思う乗客の隣の空いている席を探したものです。信頼できそうな人で、一緒に家に連れて行ってくれそうなくらいこっ ちを信頼してくれそうな人をね」

目を細めていたのが消え、にやにやが大きくなってきた。

G:「で、どのくらいこれをやっているの?」
C:「10年くらいかな」
G:「すると、ぼくらは今列車に乗っていると想像している訳だね」
C:「その通り」
G:「一杯やるかい?」
C:「いいですね」
G:「何でも好きなものをどうぞ――ウォッカがいいかい、ジンがいい?」
C:「あなたは何を飲むんです?」
G:「ぼくは飲まない。でも少しも気にしないよ」
C:「じゃあ、水にします」
G:「何か飲もうとしていたじゃないか――」
C:「いや、訳を教えましょう。これまでやった最悪のインタヴューは、保守派のコメンテイターのウイリアム・バックレイとのものです。バックレイは世界一 のすごい語彙を持っていて、もし相手を気に入らなかったら、ずたずたにしてくれる。だから、ちょっと不安だったんだ。集中しなくちゃいけないとわかってい た。前日は食べていなかったんだ。彼の玄関に午前11時に着いて、36時間食べていなくて、カミソリみたいにトゲトゲしていた。中に入ると、彼が手をこす り合わせて訊いたんだ。『スコッチをちょっとどうかね?』さあ、スコッチなんか飲めるか? 鼻から先にカーペットにぶっ倒れるよ。だから、『水を少し戴け ますか』と言った。これを決して忘れないだろうね。バックレイの鼻がゆっくりと宙を向いて、こう言ったんだ。『オ〜〜〜ウゥゥゥ』それでインタヴューは終 わりだったんだ。彼はそれをやり遂げたんだけど、そこにはいなかったんだ。だから教訓を学んだんだよ。もし昼食に揚げたシロアリを食べるんだったら、テー ブルにぼくの食器を用意してくれ、ってね」
G:「だけど、君に飲み物を勧めたのに、飲まないじゃないか。すると、インタヴューは失敗ってことだぜ」

そこで、二人して笑った。

彼はわたしを階下へ案内し、一番座り心地の良い場所を探した。

G:「ここはぼくの映画館さ」
C:「だけど、スクリーンはどこなんです?」
G:「スクリーンは降りてくる。壁はみんな詰め物をしてある。見事なもんだよね」間。「実際にぐるっと案内するつもりはなかったんだ」

階上のバルコニーが最高の場所だということで意見が合った。ロスの素晴らしい景色が見える。ジェリーがボタンを押すと、日よけが降りて来た。彼のアシスタ ントは、フォーチュン誌に載っている500社を経営してでもいそうなオーラを持っているが、果物の皿と水を置いてくれた。

C:「あなたが何をやっているにしても、うまくやっているという印象がします」

ジェリーは、わたしが本当に彼が何をやっているのか知らないということを理解できないようだった。

G:「ぼくは何か大きくて大げさなことよりも、もっとエネルギーを得ようと努力した。ママが来てバルコニーに立った時は素晴らしかった。息子は良くやった よ」

ちょうどその時、「ママ」と書かれた小さな風船が我々の真ん前の木の上に上がって来た。

「一体どこからあの風船は来たんだ?」と彼は言う。「ぼくの人生では最高におかしなことが同時に起きたりするんだ」

C:「あなたはどこの出身なんです?」
G:「ぼくがどこの出身なのかも知らないのか。信じられないなあ。ぼくは・・・ぼくはどこの出身だ? ぼくはグラスゴーで生まれた。でも、家族はペイズ リーという小さな街の出で、木綿工場やペイズリー柄で有名な所だよ。一時期は工場が街の80%を雇っていた。前進し上昇する街もあるけど――こんなこと 言ったらペイズリーにいた時の友だちを失うんじゃないかな?――ペイズリーは少しも飛躍できなかったというだけにしておこう」

C:「あなたの子供時代に、何者になるかわかった瞬間はありましたか?」これは彼が何になったのかを見出すいい方法に思える。

彼は立ち止まって考えた。
C:「例を挙げてみましょう」とわたしは言った。「ムハンマド・アリが子供の頃、彼はよく通りの角に立って、彼に向かって兄弟に石を投げさせた。その時彼 は、ちょっと頭を動かすだけで、石をやり過ごしたものだった。それがまさに後年彼がボクシングのリングでパンチを避けるのに使ったスタイルだったんだ」

G:「そういう極端な所まで行ったかどうかわからないな」と彼は言った。「ぼくは子供の頃、頭の中で映画のシナリオをずいぶんと演じていたよ。道を歩きな がら、軍隊にいるふりや、ラジオで喋っているふりをしたり、機動作戦をやったりするふりをしていた。映画で演技したり、ファンタジーの中に暮らすことをす ごく夢見ていた。ぼくは影響力のある夢をたくさん見た――そのうちのいくつかはもの凄いよ。一つは地下のトンネルにいて、列車が背後に迫って来る夢なん だ。ぼくは逃げようとして部屋をたたき壊し、それから窓によじ上った。ママはぼくの脚を引っ張って引き戻さなくてはならなかった。目が覚めると、心臓が爆 発するんじゃないかと思った。こういう夢を見ていたんだよ。現実離れしたものもあるよ、惑星や宇宙をスケートボードですり抜けるとかね。目が覚めると、こ ういう夢を操作して、コントロールできたらなあと思うんだ。

G:「ぼくの心の問題は、それが極端から極端に走ることなんだ。役者になるという夢想に耽っているとたちまち落ち込んだ。いいや、そんなことは絶対に起 きっこないさ。ぼくは映画を作っている所とは世界の反対側にいる16歳の子供だった。スコットランド人の役者は本当に演技をすることはない。ショーン・コ ネリーがいたけど、それだけさ」

俳優か。彼を何かで見たことがあるだろうか。6ヶ月前まで、本当に映画をたくさん見たことはなかった。

G:「ぼくは役者になるつもりはなかった。弁護士になるつもりだった。ぼくは労働者階級のちょっと上で、中産階級のすぐ下の一族の出で、素晴らしい価値観 を持つ立派な一族だ。ぼくが法学士の学位を得る機会を持つという考えは惹かれるものだった。ぼくにとって惹かれるものであると同時に、一族にとってもとて も惹かれるものだった。わお〜、家の一人が大学で法律の勉強をしているなんて!」

C:「法律から映画作りに転向した瞬間があったの?」
G:「ああ。首になった日さ」
C:「何があったんです?」
G:「ぼくはいつもちょっと厄介な運に巡り会うんだよ、法学校でさえもね。法学会の会長への地位を奪い取ったんだ。ぼくは一番学業ができたわけじゃない。 やった勉強量を考えたら、法学校を出たのは驚くべきことだね。しかも、優等学位でだよ」

G:「少し休学して、アメリカに行ったんだ。物事が少し狂って来たのはこの時だ。何かとてもやむにやまれぬ、暗くて元気で楽しいけれども害になることが 取って代わった。突然、外へ出て、旅して回り、気違い沙汰と、冒険とパーティと、女と、その他のそれについて回るもののある人生を送れるとわかったんだ ――自暴自棄も含めてね。家から離れ、自分の前にこれまでと同じ規律や構造を持たないということは、自分がやりたいことは何でも出来るということだから、 そうしたんだ」

G:「しばらくは、毎日飲んだくれている3人のアイルランド人とヴェニス・ビーチで一緒のアパートに暮らしていた。完璧だったね。ぐでんぐでんになって ね。ぼくは片手間仕事を始めた。仲間たちがある日やって来て、カリフォルニアで州の農産物品評会を回るカーニヴァルで働く仕事を得たと言うんだ。この年は 学校を離れて、いろんなことをやったね。ロスからマイアミ、ロスからシカゴ、マイアミからシカゴへ車を運転した。そして、バカらしいことで、逮捕されてば かりいた――基本的に飲み過ぎただけなんだ。抑制がきかなくて、ぼくは若い、これが人生だ、という考えで正当化していた。ただ暴れまくっているのがぼくな のさ。ある時逮捕されて、本当に手錠をかけられたんだよ。ほかの8人の連中と繋がれて歩いていた。しかも、厳密にいうと、ぼくはまだグラスゴーの法学会長 だったんだ」

G:「ロス郡の刑務所にぶち込まれるハメになってさ。ぼくは、501ときっちりした革ジャンと長髪で、自分はジム・モリソンだと思いながら独房にいたん だ。こんなことを話しているなんて信じられないな。やめたほうがいいね」

彼は微笑んだ。

G:「ちくしょう、でもいい話だよ。そこでぼくは戻って大学の最終学年を終えなくてはならなかった。それは卒業して、ただ理論を学ぶだけじゃなく、仕事を 学ぶ年だ。本物の法律事務所で働くために努力するんだ。ぼくが戻る頃までには、大きな仕事はみんな無くなっていた。一つの事務所を除いてね。その事務所に は200人の志願者がいるのに、4人しか採らないんだ。

G:「面接を受けたときは、本当に見込みがなかった。その前の日に試験を受けて、その晩はみんなちょっとばかりしっちゃかめっちゃかだった。ぼくは翌朝起 きて、エジンバラまで行かなくてはならなかった。面接に間に合わなかったんだけど、事務所は『いや、いや、君を待つよ』と言ったんだ。そこで、列車に乗っ て――なんて言うべきかな?――やる気を出すためにちょっとお助けを使って、着く頃までにはぼくを黙らせようがなくなっていた。結局見事な面接をやって、 仕事を得た。でも、スーツを着てネクタイを締めると、どうしようもなく惨めになった。仕事では他にもあった。自分でコントロールできないことが。もしぼく がその仕事に向いていないなら、今ここに坐っているべきじゃない。スコットランド中部のどこか小さな街でまるで並の弁護士になっていたかもしれない。

G:「ぼくはスコットランドの法律家の間でとても悪名高くなって行った。司法修習生として首になるのはじつに難かしいことなんだ――2年間の終わりに資格 を与えなければ良いんだから。でも、実際にぼくは資格を得る1週間前に首にされた。そうなるとわかっているべきだった。エジンバラ・フェスティバルが続い ていたんだ。フェスティバルをやり過ごすつもりはないとわかっていた。クレージーだからね――コメディ・フェスティバル、ミュージック・フェスティバル、 ダンシング・フェスティバル、そして何よりも、ドリンキング・フェスティバルだ。街は赤く輝いていた。ぼくは『トレインスポッティング』の上演を観に行っ た。主役が場面を演じ、後ろに下がって語り、それから場面に舞い戻る。主役を演じていた奴は素晴らしかった。信じられないような雰囲気だった。そしてぼく はその中にいたくてたまらなかった。これこそぼくが生きたい人生だ。ぼくにはこれができる。できるとわかっている。でも、もう過去のことだ。過ぎてしまっ た。ぼくは25歳だ。その機会を失してしまった。一週間後、ぼくは首になった」

ジェリーは、母親に話をした時どれほど恥ずかしい思いをしたかを語ってくれた。何もかも失われてしまった。夢を除いては。翌日彼はロンドンに行った。

G:「小さな劇場プロダクションで働いているキャスティング・ディレクターを知っていた。彼女はすごく率直だった。『演劇学校を出るために必死に努力した わたしの親友の何人かは仕事を得られないのよ』と彼女は言った。そこで、ぼくは電話販売をし、ショッピング・モールを歩き回って自分が何を売っているのか もわからないのに、人にコンピュータに関心を持たせようとしていた。それから、このキャスティング・ディレクターが、スティ−ヴン・バーコフのやる芝居で 役者にページを渡す手伝いをしても良いと言った。バーコフは、彼のアヴァン・ギャルドや、肉体的スタイルでロンドンではちょっと有名だったが、それからど んどん常軌を逸してきて嘲られるようになって来た。いずれにしろ、ぼくは階下のコーヒー・ショップでバーコフに出くわして、こう言った。『これをぜひとも 聞いていただきたいのです』彼は言った。『いいとも、やりたまえ』

G:「ぼくはすべてをやった。その後、キャスティング・ディレクターが涙を流さんばかりになってぼくの所に来た。彼女は『あなたは彼がこの2日間で見たな かで最高よ!』と言った。歩いて帰る帰り道は、ぼくの人生で一番幸せな瞬間だっただろうな。活力が自分の中にあるときは、鎮められないんだよ。ぼくはペー ジを渡す係から主役を得ることになったんだ」

C:「トイレを使っても良い?」
G:「どうぞ。ぼくの部屋のを使うと良い。場所を教えてあげよう」

我々はテーブルを通り過ぎた。その上には『エスクヮィア』誌の最新号が載っていた。表紙はミーガン・フォックスで、作品は見たことがないが、とても魅力的 な女優だ。

G:「これを見てくれよ。ミーガン・フォックスの後に、『エスクヮィア』誌の表紙にぼくを見たい人がいるかね?」

からかっているんだろう、とわたしは思った。だれもこれがカバー・ストーリーだなんて言ってなかったぞ。こん畜生めという感情がわたしの腹に溢れかえっ た。道理で、編集者が3時間のインタヴューを求めた訳だ。

遅かれ早かれ聞かなくてはならない。

C:「これまでなんという映画に出て来たんですか?」

間。

G:「『オペラ座の怪人』」
C:「あなたは『オペラ座の怪人』に出ていたの?」

わたしは「あなた」という語の自分の口からの出方にびっくりした。彼 を信じていないみたいじゃないか。

G:「ああ」
C:「どの役?」
G:「怪人を演じた」
C:「あなたはオペラの中のように歌えるの?」
G:「アンドリュー・ロイド=ウエバーのために『ミュージック・オヴ・ザ・ナイト』を歌いに行った時、たぶん4回歌のレッスンを受けていた。あれは多分ぼ くが経験した中で一番神経をすり減らした経験だったな。でもぼくはその役を得た。ぼくが見事にやったと思う人もいるし、冒涜だと思う人もいる」

C:「他に何をやったんです?」
G:「『300』をやった。『300』は知っているよね」
C:「いや」
G:「ぶったまげたなぁ」
C:「ちょっと待って! 待って! 一種のアニメ化した戦士たちのあの映画? わたしは見ていないが、息子が大好きだ」
G:「ぼくは主役のレオニダスをやった。知っているはずだよ。からかっているんだな。かまわないよ。ぼくはちょうど――わお」
C:「見たことがないんです。でも、あれが大当たりだったのは思い出した。ポスターを覚えていますよ――あの図体の大きな戦士たちだ。あのイメージから際 立っているのが何だかわかります? 髭を覚えていますよ」
G:「ぼくが髭の奴さ!」

C:「オーケー。怪人、『300』。他には?」
G:「『P.S. アイラヴユー』だ。ヒラリー・スワンクとのロマンティック・コメディだ。美しくて愉快だよ。リチャード・ラグラヴェネーズが脚本を書いて監督したんだ。彼 は『マジソン郡の橋』を書いた。なんでこんなこと話してるのかな。君は知ろうとしないのに」
C:「それは知ってますよ! クリント・イーストウッドにインタヴューしたんですから。彼はあれに出てましたよね?」
G:「うん。君はたぶん世界一の映画通で、ぼくはこれが出てくると屈辱を味わうことになるんだ」
C:「いえ、わたしは6ヶ月前にロスに越して来たんです。追いつくために、ほぼ毎晩映画を見ています。『エスクヮィア』誌の、誰もが見なくてはいけない 75作の映画リストを見ましたか? ミーガン・フォックスの号に載っています」
G:「まだ見ていない。見るつもりだったんだけど、ミーガン・フォックスをやり過ごせなくてね」

ジェリーは、その号を取り上げた。

C:「何ページかに渡っていますよ」とわたしは言った。

ジェリーはじっくりと見ている。

G:「『300』は絶対このリストに載っているはずだ。『300』抜きじゃ本物のリストにならない。見なくてはいけない映画があるとしたら、それは 『300』だ」

彼は最初のページを見た。明らかに『300』はそのページにはなかったが、ジェリーはまあいいさと頷いて、ページを繰った。

G:「ここにいくつか偉大な映画があるぞ」

明らかに、『300』は次のページにもなかった。

G:「こん畜生め!」

ジェリーの様に楽しげに「こん畜生め!」といえる人はこの地球上にそうそういない。彼はページを繰った。

「こん畜生!」

「こん畜生!」

「こん畜生め!」

「この野郎!」

ページが尽きた。

G:「『暴力脱獄』[1967] ――ぼくのお気に入りの一つだ。これはすばらしいリストだよ。でも、どうしてここに『300』を入れずにいられるんだろう? こん畜生め」

C:「では、今晩借ります。わたしが見るべきものは他に何をやりました?」
G:「ええと、『Dear フランキー』は宝石だよ」
C:「それらを全部見ます」
G:「でも、どれも見ないんだったら、少しもぼくを傷つけたりしないよ。だから、見なくちゃいけないと思わなくても良いよ」
C:「わたしはいつも、俳優に会った後は、その俳優の映画にもっと関心を持つんです」
G:「じゃあ、君にはジェリー・バトラー週間になるね。もし良かったら、ぼくのリビング・ルームで見ても良いよ。あれは素晴らしい部屋だ。あっと、ぼくの 出ている映画でなくても良いからね。君は戻って来て、あそこで見たい映画を全部見て良いよ」

我々が互いに何も知らない者同士だということがはっきりしたので、ジェリーがわたしにいくつか質問した。

G:「女性はどう? 世界中を回って、素敵な女性に出会った?」
C:「ええ。見ての通り、わたしを二枚目俳優と間違える人はいません。でも、世界の反対側の小さな街に行くと、魅惑的になるんです。いきなり、わたしはハ ンサムなんです。それは素晴らしかったですね」
G:「素晴らしい。君はそんな風に奥さんと出会ったんじゃないよね?」
C:「そうです。ブラジルで浜へ行くバスの中で彼女と出会ったんです」
G:「からかってるんだろう。奥さんはブラジル人なのかい?」
C:「そう」
G:「この野郎!」
C:「結婚したことはあります?」
G:「いいや」
C:「わお」
G:「わかっているよ。みんなこうなんだ。『それはすごい。君はまだ若い。』でも、ここ数年で、こうなってきた。『わお。本当に? どうして?』」

C:「わたしが言うとおかしく聞こえるでしょうけど、あなたが何者かを知るのは難しいに違いないですね』
G:「おかしなことを知っているかい? 去年は、ぼくが付き合っているとされるおそらく10人の別々の女性との噂が立った。1つは本当かもしれないと思 う。 たくさんの仲間と歩き回ることはできるし、それはいかしている。でも、女性が関わったとたんに・・・」
C:「すると、あなたが一緒にいるのを目撃された女優は、自動的にそう思われる?」
G:「必ずしもそうじゃない。でも、新しい噂は、ジェニファー・アニストンだ。2週間したら、彼女と映画をやり始める。彼女が独身で、ぼくも独身のせいだ ろうね。ぼくたちが話をした時間の総計は、トロント映画祭での約4分間だ。翌日には、こういう話になる。ジェリー・バトラーとジェニファー・アニストンが トロント映画祭で親しくなった、ってね。親しくだって? ぼくたちは立っていて、40人の人たちに囲まれていたんだよ」

ジェリーは次の約束のために着替えに行った。わたしは、キッチンに向かい、彼のきちょうめんなアシスタントにさようならを言いに行った。彼女の仕事はわた しを蹴り出すことだ。

今から数ヶ月後、わたしはジェリーが何者なのかわかるだろう。わたしは今ロスに住んでいる。そして、彼はこれから出来る大作をたくさん抱えている。かなり セクシーなキャサリンン・ハイグルとの『男と女の不都合な真実』。それから、Gamer だ。これは、『マトリックス』(初めて見たばかりだ)と American Idol との中間のようだ。Law Abaiding Citizen は、ジェリーが製作をし、ジェイミー・フォックスが主演だ。それに、おそらく7歳の娘を How to Train Your Dragon に連れて行くのに引っ張っていかれるだろう。加えて、ジェニファー・アニストンとのコメディ、Bounty Hunter がある。

突然、音楽が家を包んだ。大音響だ。骨でそれを感じることができる。『オペラ座の怪人』のサントラだ。ジェリーの声がスピーカーからとどろき、『ミュ− ジック・オヴ・ザ・ナイト』を歌っている。彼がキッチンに入って来て、一緒に歌い始めた。

深く歌の中に入り、歌詞を半分ばかりも引き延ばしている。冷蔵庫の横に立っていると、彼の声とレコーディングが完全に重なった。

歌が終わった。我々は気持ちのいい沈黙の中に立っていた。

アシスタントが言った。「車が待っています、ジェリー」

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