『ベーオウルフ』は古代の叙事詩にひねりを加えてある

ボストン・ヘラルド
2006年8月11日  E.17ページ
http://theedge.bostonherald.com (要約以外は有料)

ジェイムズ・ヴァニール

『ベーオウルフ&グレンデル』
レイティング:R 指定
評価: B+

聖尊者ベーダ*。それは『ベーオウルフ』の時代だ。

とうとう他の誰かさんが、シーマス・ヒーニーの1999年の『ベーオウルフ』の称賛された翻訳がベストセラーであると気付いてしまった。

つい最近、ジョン・ガードナーの1971年の小説に基づき、20トンもの背景が呼び物となったジュリー・テイモア指揮のオペラ『グレンデル』が、ニュー・ ヨーク市で初演された。12月にはロバート・ゼメキスが、アンジェリーナ・ジョリーが怪物の母の声をする、新しくアニメ化された『ベーオウルフ』を発表す る。

今、我々には劇場版がある。ストゥーラ・ガナーソン監督のアイスランド・サガ『ベーオウルフ & グレンデル』は、英国俳優のジェラード・バトラー(ここでは『オペラ座の怪人』よりもいい)が、最古の現存する英語叙事詩で不滅となったスカンジナビアの 伝説的な戦士ベーオウルフとして主演している。

すばらしい配役の中には、フロスガール王にスエーデン人のステラン・スカルスガード、端正な魔女にカナダ人のサラ・ポーリー、血を求めるグレンデルにアイ スランド人のイングヴァール・エッガート・シグルドソンがいる。広大な原始のアイスランドで撮影され、この映画は慎ましいながらもーーしかも、時には見ご たえがあるーー西洋文明の正典の中で最古の物語の一つを英語で語るという試みに成功している。

キリスト教が異教のスカンジナヴィアの文化に食い込もうとしている時代に、ベーオウルフと彼の戦士の一団はグレンデルとして知られる襲撃してくる怪物のト ロールから、だらしのない老君主を助けて人々を守ろうとデンマークのフロスガール王の館に到着する。その怪物は、この物語でははっきりとわかる人型をして おり、それはまたグレンデルの父親が最初に短く現われて、グレンデルの憎しみを正当化し、物語にオイディプス的な要素を与えようという試みをも特徴づけて いる。

『ベーオウルフ&グレンデル』は、この叙事詩が、ホモ・サピエンスがわずかに残っていたネアンデルタール人と共存し、我々の伝説やおとぎ話のトロールが、 それらを遠く思い出させるものかもしれない「[旧石器時代の] 洞窟熊の一族」の時代に起きたことをほのめかしている。

ベーオウルフは「怪物」を殺しに行くだけではなく、ポーリー演ずるセルマの性的な好意を彼と争う。映画はためらいがちに、グレンデルの「一族」が今日まで 我々 の遺伝子の中に存続しているかもしれないとほのめかしてさえいる。これは、我々の政治家たちのある振るまいを、むしろ説明してくれるだろう。

(『ベーオウルフとグレンデル』は暴力と性的イメージを含む)

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*ベーダ:英語ではビード。672/3年〜735年。祝聖日は5月25日(もとは27日)。ラテン語で書かれた『イングランドの教会と人々の歴史』Historia ecclesiastica gentis Anglorum で有名なアングロ・サクソン人の学者・歴史家・神学者。「尊者」'the Venerable'(まだ列福されない人に対する尊称;聖者号の一番下)と呼ばれる。大聖グレゴリウスや聖アンセルムが出てくるまでは、最も知られ影響 力があった。聖ボニファキウスは「聖霊によって灯された教会の灯」と呼んだ。ダンテの『神曲』「天国篇」で触れられている唯一の英国人である。


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