第3回 ドラクエとiPhoneの指し示す未来(2009.9.3)





最近、電車の中で30代くらいまでの若いサラリーマンやOLが熱心にニンテンドーDSを操作している姿が眼につくようになりました。
見るとはなしに覗いてみると、たいていが「ドラゴンクエスト\」を戦っている最中です。

その他の人たちはどうしているのか、と見回すと、PSP(SONY製プレイステーションポータブル)を操作しているフリータ系、もしくはオタク系が少々。そして何より携帯電話でメールもしくはネット・サーフィンをしている人たちが大多数といったところです。
昔のように漫画雑誌を読みふけっている人は数えるほど。

ざっくりとですが、昼間から帰宅時間帯の京浜東北線の乗客がしていることは、携帯ゲーム機操作10%、携帯電話操作50%、読書5%、仮眠中35%...というところでしょうか。

わざと音楽鑑賞を外したのにはワケがあって、昔のようにウォークマン型のプレイヤーを「武装する」スタイルが消滅しているからです。
今は「何かをやりながら音楽を聴く」で、しかも「専用プレイヤーではなく兼用機で聴く」ということ。
もちろんiPod系の専用プレイヤーは健在ですが、小型軽量化しているのでもはや「音楽を聴いてやるぞ、と武装する」のとはほど遠いのが現状。しかも
前述のとおり「ゲームをしながら、携帯を操作しながら、読書しなが、寝ながら」聴いている様子です。

恐ろしいのは兼用プレイヤーで、みなさんご存じのとおり今どきの携帯電話はほぼすべて音楽プレイヤー機能がついています。その頂点にあるのがiPhone系でしょう。また、ワンセグやクレジットカード機能等も搭載しているということは「携帯電話」ではなく、確かにDoCoMoがいうように「端末」なのでしょうね。もはや「ケータイ」のない生活は考えられない状況です。

前置きが長くなりました。

最近、IT業界では「クラウドコンピューティング」という言葉が流行しつつあります。

富士通のサイトからその意味を抜き出すと...。

【クラウドコンピューティングとは?】
cloud(雲=ネットワーク)の向こう側に存在するITリソース(サーバ・ストレージ・ミドルウェア・アプリケーションなど)をネットワーク経由で利用するIT活用の新しいコンセプトです。

【クラウドコンピューティングの利点】
・ハードウェアやアプリケーションの準備が不要
・必要な時に必要なだけすぐ使える
・無限のコンピュータパワー
・サービス同士が容易につながる
(http://jp.fujitsu.com/facilities/psc/services/cloud/)

...ということになります。

小難しいことがいろいろ書いていますが、ひとことでいうと「パソコンを使わずに"ITをする"」ということ。

極端な話、パソコンがいらないのです。

逆説的になりますが、「なぜパソコンが必要か」を考えると理解できます。
パソコンがないとソフトが動かない。パソコンがないとプリンタに印刷できない...からですよね。

しかし、どうでしょう。

携帯電話でソフトが動けば...。

携帯ゲーム機でソフトが動けば...。

プリンタを直接動かせれば...。

...パソコンはいらないじゃないですか(!)

実は、知らないところで世の中はその方向に進んでいます。
それに近い実例がもう身近にあるンですよ。

例えば、みなさんがお持ちの携帯電話ですが、DoCoMoならiモード、というようにネット接続機能がありますよね。
「乗換案内」や「NAVITIME」を使って「経路検索」をしていませんか?
そのときに改めてソフトを入れたり機械をつなげたりしてないですよね。

つまりパソコンを使わずにインターネットを使った情報処理をしているワケです。

また、携帯電話のカメラで撮った写真をSDカード等に保存したりしますが、最近のプリンタ装置はSDカード等のスロットを持っていて、パソコンを介さずに写真をプリント出力できたりします(制限事項はありますが)。

やろうと思えば、今の段階でも「パソコン抜き」で結構なことができます。

でもパソコンを使っていますよね。
なぜでしょう。

いろいろ理由はありますが、主なものは以下のようなことではないでしょうか?

・ハードウェアの制限:画面が小さい、文字入力が面倒
・ネットワークの制限:接続時間がかかる。接続料金がかかる。
・ソフトウェアの制限:動く機能が限られている。もしくは少ない。

...etc.

でも、これらは致命的でしょうか?

そこで「ドラクエ\」の登場です。
(ハードはニンテンドーDSiの前提にしましょう)

DSやDSiを知らない、「ドラクエ\」をやったことがない方のために少しだけ説明します。

ドラクエはRPG(ロールプレイングゲーム)の草分けですが、基本的には「世界を舞台に冒険の旅をする」ゲームです。
この「世界」はもちろん架空の世界ですから、ゲームをする側には未知の世界で、当然、どこに何があるのか判りません。
主人公たちは「基本的に徒歩」でこの「世界」を走り回るので、もし画面が小さくひとつだけだと主人公たちの回りだけしか見えず、非常に判りにくいことになります。(DSiの液晶ディスプレイは3インチ強ですから、携帯電話とたいして変わりません)

この点を、「ドラクエ\」はどう克服しているか。

ニンテンドーDSiのDSはダブルスクリーンの意味も含まれています。
上下にふたつ配置された、もうひとつのディスプレイに地図を表示し、主人公たちの位置を輝点で示しているのです。
つまり、メインウィンドウと補助ウィンドウで補完し合っているわけです。

ゲームの操作はキーボード...ではなく、タッチパネルとタッチペンで行います。(それと物理的なボタンが5個くらい)

また、「ドラクエ\」の機能ではないですが、タッチパネルとタッチペンがあれば「手書き文字入力」ができます。DS用の脳トレソフトで手書き入力を活用したものが多数発売されています。

加えて、DSiには「音声入力」機能もあります。さすがに使用できるソフトは
少ないようですが立派な入力方式です。

つまり「画面が小さい、文字入力が面倒」という点は、インターフェイスの問題だけなので(慣れは必要ですが)、克服可能なのだと思います。
画面がひとつしかなくとも、レイアウト表示と切替られたりすれば良いのではないでしょうか? もちろんiPhoneクラスの5インチ近いディスプレイを持つものであればウィンドウをふたつ表示しても良いと思います。
ちなみにPSPは画面がひとつですが、ワイドかつ5インチ超えの大きなディスプレイなので、DSiが上下なのに対して左右にメインと補助ウィンドウを配置するソフトが多いようですね。

(最大の敵は「老眼」かなァ。携帯ゲーム機も携帯電話もハッキリ見えないから嫌いだ、といわれればそれまで。眼の良い人は老眼鏡をかけ、近視の人は眼鏡を外して...と、そこまでしてやりたくない。でも10年くらいしてまだパソコンを使っていたら、それは「老人のしるし」なんてことにになってたりしたら余計に悲しい...。パソコンのディスプレイすら見えなくなったらもう...)

また、今回の「ドラクエ\」はDSの無線LANを前提としたWi-F(ワイファイ)i機能をフルに活用できるようになっています。
Wi-Fiというのは高速無線LANの規格で、PSPなども追従しているもの。ゲーム機同士は通信費用がかからないし、無線LAN経由でゲームサイトに接続しても「通話ではない」から当然無料(プロバイダ契約は必要)。

「ドラクエ\」では「すれ違い通信」と「マルチプレイ」、それと「新規クエストの追加等」ができます。

「すれ違い通信」というのは、他人の持っているアイテムを無線LANで交換できる機能で、自分の持っていない「宝の地図」をもらおうと、秋葉原のヨドバシカメラの専門コーナーには毎晩、サラリーマンが溢れているそうです。
(ドヒャ、立派な「データ交換処理」機能ではないか)

「マルチプレイ」は何も「ドラクエ\」だけの専売特許ではなく、携帯ゲームなら普通にあるもの。何人もが無線LAN経由で特定の相手のゲーム機を訪問し、文字どおりマルチでゲームをすること。
(ゲゲッ、「遠隔コントロール処理」だよ、大企業の大規模オンラインでしか見たことないのに...)

「新規クエストの追加等」は今回の「ドラクエ\」の目玉になるようです。
2009年7月の発売以降1年間に渡り、毎週、「新規の冒険(クエスト)」がゲーム機に無料配信されるそうです。併せて希少アイテムも。下手をするとメインのストーリーよりおもしろいかも。
(なんだって、「新規プログラムのデータ資源配布処理」だよ、コレ。しかも高速無線LANを使うだなんて...!)

...ということで、「電話回線」ではなく「高速無線LAN回線」を使用すれば、「電話回線のデメリット」である「接続時間がかかる。接続料金がかかる。」を難なく解消できるのです。

でも野外となると、今はネットカフェだとかマクドナルドに行かないと無線LANが使えない。移動中は絶対に無理じゃないか、どうしてくれる。

..という方のために「WiMAX(ワイマックス)サービス」が開始されたことをお知らせします。(もう開始されてるンですよ)

WiMAXとは、(株)朝日新聞出版発行「知恵蔵2009」によると以下のとおり。
無線による高速通信に関する国際規格「IEEE 802.16」の通称。現在パソコンなどで使われている無線LAN(IEEE 802.11、通称Wi-Fi)に似た特質を持っているが、通信距離に大きな差がある。Wi-Fiが半径数十mまでの「近距離通信」であるのに対し、WiMAXは半径数kmでの「中距離通信」であり、用途は大きく異なる。

つまり、高速無線LANのくせに携帯電話のように野外での使用ができるワケです。もちろん携帯と同様、マルチアンテナ技術を使って基地局を山のように作れば広域対応になる。
移動中にも「ドラクエ\」の追加クエストが受信できる! ...ということだけが主旨ではなかった(笑い)。

これで「・ネットワークの制限:接続時間がかかる。接続料金がかかる。」は完全にクリアですね。

それでは「・ソフトウェアの制限:動く機能が限られている。もしくは少ない。」はどうでしょうか?

これはさすがにまだ完全に解決されたわけではなく、まさに各IT企業が「クラウドコンピューティング」として今後、開発に取り組んでいくものです。
ただし「遠い未来ではなく、極めて近い将来」に実現されるだろうことを述べさせていただきます。

というのも、この「ソフトウェアの制限」は実は、ハードウェアの制限をベースにしているからです。前述の「インターフェイス」ではなく、「性能」なのですが。

つまり携帯電話や携帯ゲーム機の性能(スペック)がパソコン並みになれば、恐らく難なく解決されてしまいます。そして恐らくそうなります。
iPhoneを始めとするスマートフォン(高機能携帯端末)の延長線上にこれがあると思います。
パソコンと同じソフトが動く環境ができれば良いのでから、技術的に大きな問題はないはずです。

携帯ゲームは? というと、PSPは持っていないため知りませんが、DSiについていえば、インターネット用ブラウザを装備しており、ネットサーフィンが可能です。実際問題、ニンテンドーショップにアクセスしてネット経由でゲームを買ったり、修正用プログラムのダウンロードサービスを受けたり、DSiだけでできてしまう状況です。
同じく時間の問題でしょう。据え置き型のゲーム機(WiiやPS3、XBOX)ではとっくにやっていますしね。

ただしモバイル機器での普及の前段階として、パソコンそして据え置き型のゲーム機等でクラウドコンピューティングが花開くはずです。

各IT企業で考えている「クラウドコンピューティング」製品は、インターネットエクスプローラ等のブラウザを経由してユーザにサービスを提供する方式から始まるはずです。

つまりネットワーク機能を使用したWeb版のソフトウェアで仕事をするようになります。
いちいち、ソフトをインストールする必要も、データの格納場所や特別にプリンタを用意しなくとも良くなる、つまりパソコンに依存しないソフトウェアの使用形態が当たり前になります。

今はまだ企業向けでしょうが、個人向けにはマイクロソフト社が来年前半にリリース予定の「office web」あたりからこの流れが始まる気がします。
(http://www.microsoft.com/japan/presspass/detail.aspx?newsid=3726)

そうなると、どんなことが起きるのでしょうか?

近い未来のある日...。

出張先から会社に戻ろうと新幹線で移動中に、お客さんから社給携帯に電話が入ります。

「電車の中みたいだが、今、大丈夫かい?」
「ええ、通路にでましたから」
「あのさ、いい忘れたのだけど例の報告資料を2時間後に欲しいんだよ」
「ちょっと無理ですね、新幹線の中ですし。携帯電話はバッテリ切れ寸前だし、社の連中もこの時間だと誰もいませんよ」
「明日の朝、専務に説明したいんだよ、頼むよ」
「そうはいったって無い袖は振れませんよ」
「きみ、移動中に携帯ゲーム機で暇つぶししてるだろう?」
「なんでそんなこと知ってるんですか」
「知ってるよ、RPGがどこまで進んだか、ウチの女の子に自慢してただろ?」
「RPGではなく、自己研鑽の英会話のソフトでして...」
「すぐブラウザを起動してEXCEL-Webでチャチャチャと作ってくれりゃいいんだよ。データは会社のイントラネットに接続すれば手に入るだろ?」
「...携帯のバッテリが切れそうなんですけど」
「できたらeメールで送ってくれりゃいいから。おっと今どきのWimaxは電車がトンネルに入ってもつながるから心配するなよ」
「ああ、バッテリが...」
「セキュリティ処理は専用Webサービスを使ってくれよ。個人情報漏洩なんて洒落にならないからな」
「個人のゲーム機を仕事で使うのは社則違反でして」
「またそんな。きみンちの社則で業務中の個人用通信機器の所持がご法度なのを知ってるンだ。つまりきみが今持っている携帯ゲーム機...いや高機能携帯端末が”社給機器”なのは察しがついている。社給機器でゲームなんかやっていいンだっけ?」
「いや、自己研鑽の...。分かりましたよ、2時間後に資料を送ります」

...ひどい未来になりそうです。
                                                                                                                              −以上−