第5回 新素材「グラフェン」と政権交代(2009.09.07)





最近、グラフェンという新素材が話題になっています。

2009/09/07付けの日本経済新聞によれば、グラフェンとは以下のとおり。
「グラフェンは炭素原子がシート状に連なった材料で、2004年に英国マンチェスター大学のチームが発見した。現在の半導体に使うシリコンより100倍超も電子を流しやすく、安定性や強度にも優れる。薄くて大電流を通す透明電極や超高速のトランジスタ素子などに応用が期待される。」

これがあると何が変わるか、も同紙記事にあります。

「発電効率40%台という現状の2倍を実現する太陽電池に道を開く」
「シリコンを大きく上回る動作速度を持つ半導体素子が実現できる」
「宇宙空間へ物資を運ぶ宇宙エレベーターという未来の輸送技術に使う構造材としての期待もある」

ピンからきりまで応用の効く、いわゆる「夢の素材」ということのようです。
ただしやはりネックはあって、大量生産が難しいらしい。そうなるとコスト高になってしまいますから、世界中の研究期間が生産技術の向上を目指しているようです。

うまい話には裏がある...ということで日本の政権交代に話題転換です。
(かなり強引ですが)

雑誌「日経ビジネス」2009年09月07日号の記事に「政権交代 政策と企業はこう変わる」にいろいろと面白い話が載っています。
主旨を下記に示します。

・民主党の基本路線は本来、「構造改革」だった(1998年)
・ところが小泉純一郎元首相の登場で自民党が「構造改革」に大きく舵を切る(2001年)
・小泉自民党は郵政民営化を旗印にした総選挙で300に迫る議席を獲得して大勝利(2005年)
・小沢一郎前民主党代表は、衆院千葉7区の補欠選挙を皮切りに方針を転換、「格差是正」を前面に打ち出す(2006年)
・小泉退陣以降、自民党は安部・福田・麻生政権の変遷の中で「構造改革」を「格差是正」に方針変更する。この時点で、自民党と民主党の政策差異がなくなってしまう。

日経ビジネスは結果として、「であれば「新しい民主党に一度政権を任せてみたい」。有権者がそう感じるのは自然な流れだったと言える。 」としています。

さて、問題はその後です。記事はこういっています。

「今後、民主党はどこへ向かうのか。」

今となっては、これは「日本はどこへ向かうのか」と同じことになりますよね。

ここで民主党の掲げたマニフェストが問題になるということです。
「月額2万6000円の子ども手当や高速道路無料化、農家への戸別所得補償」...どういいわけをしても、これはバラマキです。
(別に自民党の肩を持つつもりもありません。定額給付金等含めて、自民党自体も実効性に疑いのあるバラマキをもうとっくに実行していますから)

これは素人が考えても「財政破綻」ですよね。「格差是正」が早いか「財政破綻」が早いか。

日経ビジネスの記事はこう結論付けています。

「民主党によれば、一般会計と特別会計を合わせた総額207兆円という予算の組み替えや、ムダな事業の中止で財源を手当てするという。新たな年金制度には、さらなる財源が必要だ。(増税しないというマニフェストを守り、かつ景気対策をとらねばならない)となれば経済成長による税収増は不可欠なものになってくる。実際、再度の路線転換の準備は静かに始まっている。 」

えッ「再度の路線転換」?
ズバリ「民主党は再び「改革路線」へと舵を切るのか。」ということになる。

実は衆院選挙前からこの点はかなり指摘があった点です。
「無駄を減らせば財源は確保できる」とする民主党に対して、自民党のみならずマスコミ各社も疑問を呈していました。
選挙直前のテレ朝「サンデー・モーニング」で、司会の田原総一郎氏が鳩山由紀夫代表に
下記のように突っ込んでいました。

「鳩山サン、あんたは真面目で良い人だ。民主党はマニフェストで無駄を減らして財源を確保し、増税はしないといっているが恐らく守れない。そうなったら消費税を増税するしかない。そうなればあんたは真面目だからその責任を取って首相を辞任する。そう決めてるんだろう?」

鳩山氏は「勝つ前からそんなこと」といって言葉を濁していましたが、可能性はありますよね。

一応、経済学部出身なのでもう少し深入りすると、今後の日本経済の先行き不安のひとつにデフレ・スパイラルへの突入があります。

デフレーションはご存じのとおり「物が余って物価が下がる」ことです。
逆がインフレーションで「物が足りなくて物価が上がる」こと。
ついでにスタグフレーションは「不況のくせに物価が上がる」ことです。

今回のデフレ・スパイラルは「デフレの悪循環から抜けられなくなる」ことで、つまり物が売れないので価格が下がる → 価格が下がると収入(企業も個人も)が下がる → 収入が下がると物を買わなくなる(貯金に回す。必需品しか買わない) → 物が売れないので...。ということです。
このままでは経済破綻という最悪の状況です。

経済学には「貯蓄のパラドックス」という言葉があります。
ひとことでいうと「すべての人(企業)が貯蓄に走ると、経済が破綻する」という意味。
「貯蓄」は個人的には美徳なのですが、経済学的には「悪徳」なのです。
「金は天下の回り物」といいますが、回らず(流通せず)に「貯蓄」されてしまうと「死に金」になってしまい、経済活動が沈滞するのです。

「馬鹿だな、親の財産をスッカラカンにしちまったぞ、あの二代目は」というのは、世間的には「悪徳」ですが、経済学的には「美徳」です。破産するほど使うことでお金をたくさん世の中に回すことになるからです。
「枯れ木がないと森が潤わない」わけです。

目下の急務は、リーマン・ショック以来の世界的不況の中で、「枯れ木」をどう作るのか、です。
落ち込んだ経済を活性化するには、誰かがお金を使って世の中を活性化しなければなりません。
しかし誰も自分が「枯れ木」にはなりたくない。
そこで国家が「自分が枯れない程度に大きなお金を使う」ことになる。
これは何も民主党だけの専売特許ではなく、自民党も同じ視点を持っていたわけです。
ただし「お金の使い道」が異なります。

細かい話をすると、政府の財政政策と日銀を主体とした金融政策をどう推進すべきか、ということになるのですが、そこまで行ってしまっても仕方がない。
別の観点から見てみることにすると、自民党の目指したものが「金持ちへの資金投入」であるのに対し、民主党の展開しているのが(御幣を恐れずにいえば)「金持ち以外の一般国民への資金投入」であるということです。

例えばここに1,000億円あるとします。このお金を一部の大企業や銀行に渡すのと、1,000万人の一般国民に渡すのとではどちらが経済的に効果があるのか(景気が良くなるのか)ということです。これは答えがあってないようなもので、不確定要素があり過ぎて、やってみなければ判らないのですが、政府だの与党だのはそうはいえません。

自民党は「一部の大企業や銀行に(公共投資だの何だのを使って)渡す」ことで多くの雇用やビジネスや技術革新が起きる方が景気回復になる、と考えているわけです。
「格差是正」に舵は切っても、この根幹は崩していなかったので、民主党のバラマキを非難した次第です。
これに対して民主党は「一般国民の家計を救済しなければ景気は良くならない」という観点から、「月額2万6000円の子ども手当や高速道路無料化、農家への戸別所得補償」をやるわけです。「いつまで経っても景気が良くならないのは家計を助けていないからだ」という理論。

上記のとおり実態は「やってみなければ判らない」わけですし、やって駄目なら「戻す」ことになることは眼に見えています。
ある意味、見切り発車です。

それでとりあえずバラマキを行う。
ところが民主党案だと、バラマキを行うけれどどうも財源が怪しい。

しかし民主党案にしろ自民党案にしろ、重要な点は「いずれにしろ政府が財政発動をする」ことで、財源を減らすことに違いはないということです。そしてそのいずれにしろ「財源不足」が懸念されているわけです。

そう考えていくと、誰がどうやろうとも、少なくとも「構造改革」に舵を切りなおす可能性大のような気がしますね。
こと民主党にとってすれば、マニフェストを守れず消費税増税、その結果として自民党復権というのが最悪のシナリオですから、そうなる前に「構造改革」を官民一体で進めざるを得ない。特に企業からの税収をアップさせる方向に進まざるを得ない。

「財源不足」を補うための落としどころが結局、「構造改革」であることは政権交代しても変わらない。

そうなるとどうなるのか。
つまり「景気対策」と対になって「国家の構造改革」と「企業の構造改革」が同時進行する。国は無駄をなくし、企業は税金を多く収められるようにする。
そうすれば財源が確保できて、景気対策(不況脱出)も経済復興もうまくいく。
そうなれば、国民の所得も増えて景気も良くなる、めでたし、めでたし...ということ。

こううまく行ってくれないと国民生活は本当に困ります。しかし政府(民主党政権)も馬鹿ではないし、何より世界最高水準の「中央官僚」たちが機能する。何とかなってくれるのではないか...。
ただし、もしまたリーマン・ショックのようなことがなければ...。

でももしまた海外発の不況が襲ったらどうするのか?
景気回復に失敗すれば、またも政権交代??

...様子を見るしかないですね。いずれにしろ、すぐどうこうなるわけではありません。

しかし一般国民はどうしようもないのですが、実は企業は考え始めています。
国に後押しされるまでもなく構造改革を進めて「体質改善」をしようとしているようです。

どう体質改善しようとしているかというと、目立った動きとしてM&A(吸収合併)とそれに伴う海外市場の開拓に軸足を移しつつあります。
その目的は、スケールメリットの確保と市場拡大です。

これはどういうことか、というと「こっちで失敗したら向こうで取り返す」ことができるようにしようということです。
今回の世界的不況は、アメリカ発ですが、日本の場合はかなり特殊な落ち込み方をしました。
つまり下記の順序性があったのです。

・リーマン・ショックでアメリカのすべての市場が壊滅的打撃を受けた。
・アメリカ市場の壊滅により、アメリカとの貿易を中心とした企業(自動車産業)が大きな打撃を受けた。
・アメリカ市場の壊滅により、アメリカへの投資を中心とした金融機関が大きな打撃を受けた。
・打撃を受けた企業と金融機関は、打撃を最小限に留めるために経済活動を縮小した。
 (企業は生産を減らし、金融機関は融資を停めて資金の回収を進めた)
・打撃を受けた企業と金融機関は、国内の経済活動の中心を担う会社だったため、これらの経済活動の縮小に伴い芋づる式に国内産業が打撃を受けた。

ここまで整理すると、日本経済にボトルネックがあることに気づきます。

アメリカ経済への依存と、依存している主体が一部の企業と金融機関に偏っていることです。

90年代のバブル崩壊と今回のリーマン・ショックと、2度に渡って煮え湯を呑まされたかたちになった企業と金融機関は、どうするか。

金融機関としては何度煮え湯を?まされようがアメリカ市場に勝る金融市場はないので、会社としてのスケールメリットをさらに大きくしようとして対応するものと思われます。その上でリスクヘッジのためにヨーロッパやアジアに進出をかけるでしょう。

企業としては、アメリカでの地固めをし直しつつ、アメリカ一辺倒ではなくアジア全域とヨーロッパを視野に入れた市場拡大を図る方向に進むものと思われます。また同時に生産拠点を海外に移すことで、よりグローバル化し、負荷分散を進めて行くものと思われます。

恐らく大企業がまずグローバル化し、中小企業が追従もしくはそれについていけずに大手に吸収されるものと思われます。いずれにしろ企業間のM&Aは激化するものと思われます。

長々と小難しいことを書き連ねてきたことには理由があります。
次のひとことがそれです。

国家の構造改革と企業の構造改革が同時進行すると、国民の所得はどうなるのか。
雇用の確保と賃金の上昇は望めるの?

結論から述べると、一時的には「雇用は減る。賃金は下がる」と思います。
長期的に見て「増える、上がる」か否か、は今後の構造改革と世界経済の成り行き次第。

なぜ「減る、下がる」かといえば上記を見るとおり、構造改革には財源確保を考えなければならないほど「お金がかかる」からです。

国家も企業も構造改革を進めれば収入は増えるでしょうがすぐにではありません。
そうなるまでの投資と時間は必要ですし、財源を確保できない場合には、借金を抱えた上で改革を進めなければなりません。
仮に構造改革が成功しても、景気回復から経済成長へ向けて、恐らく従来以上にお金がかかるはずですし、そうし続けなければなりません。
(国家的には年金問題と国債問題という火種が尽きませんし)

つまり当分のあいだ国民に還元するお金などなく、逆に消費税増税は時間の問題。
その他、公金も下がる要素なし。
企業としても長期に渡って資金が必要ですから、社員に対する還元(賃金上昇)は二の次になりますし、効率化の観点から雇用の爆発的な拡大は抑制されるはずです。事実、景気動向に関係なく賃金と雇用は下がり続けています。

公金・税金は上がり、賃金は上がらない → 実質的な賃金値下げ。あるいは雇用回避。
しかも海外と連携した仕事が、業種を問わず増えていくと思います。

社員にすれば低い賃金に、権限なしの思い責任と海外赴任の負担増大。雇用は拡大せずに失業のリスクが付きまとうといった状況がまだまだ続きそうです。

また我々の次の世代が働く頃(近い将来!)には、恐らく海外赴任が当たり前になり、第三次産業、第二次産業は空洞化し、第一次産業も限りなく空洞化に近い状況になるでしょうね。

我々の親の世代は「田舎を出て都会に暮らす」状況でしたが、次の世代は「国を出て海外で一生を終える」人たちが増えるのではないでしょうか。

若い人たちにはもしかしたら良いことかも知れませんが、それも経済的な支えがあればこそ。
かつて20世紀前半まであった日系移民の方たちのように経済的に苦しい状況で海外に暮らすようなことがないよう、祈るばかりです。

また、「構造改革」が優先され、「格差是正」が結局、絵に描いた餅に終われば、却って「格差拡大」に向かう気がします。
さらに昔の「過密過疎」が日本から世界に拡大され、日本に若い人がいなくなるのでは?
考えたら切りがない...。

切りがないのでこの話はここまで...。



「宇宙空間へ物資を運ぶ宇宙エレベーターという未来の輸送技術に使う構造材としての期待もある」

これは冒頭のグラフェンという新素材の用途のひとつです。

かつて経済的に飽和状態に陥ると、人類は海(海外)に出て行きました。
ヨーロッパの大航海時代しかり、アメリカ新大陸発見しかり、明治維新しかり。

次は間違いなく宇宙でしょうね。

現在、宇宙へ赴く際の輸送手段は打ち上げロケットに頼っています。
現在68億人に達している人類が近い将来、資源や環境、資本や土地に行き詰って宇宙にその活路を見出す可能性があるといわれています。
そのときにネックとなるのがこの打ち上げロケット方式です。
地球の引力圏脱出に必要なロケットの加速に伴う大きなGを考えると子供や老人はロケットに乗れませんし、成人でも特別な訓練が必要である状況では、とても宇宙への経済進出などできません。

そこで一躍、注目されているのが「宇宙エレベータ」です。

発想はいたって簡単です。

静止衛星というのがあります。赤道上空に地球の自転速度と等しい速度を保ち、見た目は静止したように見える静止軌道にある衛星のことで、気象衛星などはその典型です。

その静止衛星から真下にハシゴを降ろしたらどうなるか、ということです。

ハシゴにエレベータを付ければロケットや特別な訓練など無用で宇宙に到達できる、Gをかけずにゆっくり宇宙まで上がれば良い、ということで、世界中で検討が始まっています。

ネックは宇宙まで届き、かつ自重とエレベータを支え、気象の変動にも耐えられる強度を持つケーブルの素材でした。今までは実用化できる素材がなかったのですが、グラフェンが発見されるとたちまちその候補に上ったのです。

この分ではどうやら次の「次の世代」あたりでは実現されそうですから、宇宙に資源を求めたり製造施設を建設したりする企業はこれを用いて地球を出て行くかも知れません。

孫の世代は「ちょっと出張してくる」といってエレベータで衛星軌道に上がり、その後に宇宙ステーションからシャトルでルクランジェ・ポイント(月と地球の重力均衡点)の新素材開発工場や月面の資源採掘プラントに向かうかも知れません。

たまには明るい未来も夢見てみましょうか...。                                                                                                   −以上−