ヨーロッパの鉄道との付き合い30

 

 私のヨーロッパ鉄道旅行の事始めは30年程も前のことになる.その前にドイツ製の鉄道模型に手を出していて,あげくに,実物の走る様を体験しなければと思い立ったのだ.行ってみて,当時の日本の鉄道旅行との格差にカルチャーショックを受けた.あまりにも優雅で楽しく美しく,鉄道が単なる移動の手段ではないことに気がついたからである.

 当時に比べるとヨーロッパの鉄道も変貌をとげた.フランスのTGV,ドイツのICEなどのいわゆる新幹線系が主流になって情緒がなくなり,昨今は車両メーカーの整理統合が進んだ結果,車両が画一化されて面白味が薄れてきた.もう一つ加えると,東洋人の顔が猛烈に増えたことだろうか.

 そうではあっても車窓までもが一変したわけではない.都市化が進んだり,氷河が後退したようなところはあるにしてもなお,トンガリ帽子の教会,緑の牧場,白銀の峻嶺,紺碧の湖を展開し続けてくれているのだ.

 私が特に好きなのはスイス,オーストリアなどの,いわゆるアルプスの鉄道である.車窓は素晴らしいし,そのシステムも面白い.標高3500m近くにまで登る電車,とてつもない急勾配をケーブルに頼らず自力でよじ登ったり,SLに押し上げられる登山鉄道,そして息を呑む橋梁など,繰り返し訪れてはカメラに収めている.

 旅行はほとんど一人である.宿泊地も決めていず行き当たりばったりである.鉄道を追いかけるような旅では,同行者がいたとしても互いに迷惑するだけだろう.言葉をどうするのかとよく聞かれるが,フィンランド語からギリシャ語,ポルトガル語までできるわけがない.だから勉強もしない.英語のカケラだけで強引に通すのである.無理が通れば道理引っ込むというではないか.

 旅行費用を少しでも補おうと,成果を鉄道専門誌に掲載したり書籍にまとめたりしている.多くは『鉄道ジャーナル』誌に21編,書籍は6冊のほかに共同執筆ものや,模型関係などもある.

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