プッシュプル位相反転回路の比較

 

 プッシュプル・アンプに必要な位相反転回路にもいろいろあるが、ここではそれらの特長、欠点などを比較検討してみる。

   

 

@6FQ7

PK分割

A12AX7

PK分割

カソード1.8kΩ

B12AX7

PK分割

カソード1kΩ

C12AX7

PK分割

ブートストラップ

D12AX7

PK分割

PFB

利得(1)   負荷1MΩ(dB)

       100kΩ

 23.5(18.5)

 23.5(18.5)

    36

    36

  36(29)

  36(29)

   39.5

   39.5

  (39.5)

  (39.5)

利得差(1):(2)         (dB)

    0

     0

     0

     0

    0.5

最大出力(1) 負荷1MΩ(V)                 100kΩ

   30

   25

    20

    18

    25

    20

    20

    18

   18

   18

歪率       出力 1V(1) ()

負荷100kΩ          (2)

              出力20V(1)

                          (2)

 0.06(0.05)

 0.06

 1.2 (0.8)

 1.2

   0.075

   0.075

   3

   3

 0.08(0.03)

 0.08

 1.5 (1.2)

 1.5

   0.02

   0.019

   0.4

   2

   0.12

   0.12

   4

   4

周波数特性        (1)  (dB)

1kHz:100kHz     (2)

    0

    0

    1

    0.5

   1

   0.5

   10

   1

  20

  14

出力インピーダンス   (1) (kΩ)

                        (2)

    2.1

    2.1

    9.2

    9.2

     5

     5

     5

     5

    5

    5

  
















   ・周波数:       1kHz

 ・最大出力:      目視で目立った歪が認められない出力

 ・カッコ付きの数値: 初段にカソードNFBがある場合

 ・周波数特性:       1kHzに対する100kHzでの偏差

 ・*:           0に調整可

 

@AB PK分割型については、前段となる電圧増幅段を含めてのデータである。また、増幅段と反転段とは直結とする場合が多いが、ここでは各段の動作を明確にするため直結にはしていない。

 

 プレート側はプレートフォロワ―動作であり、カソード側はカソードフォロワー動作であるとするのは誤り。出力側のデータは出力インピーダンスを含めてすべて両者等しい。ただし負荷が両者で等しいことが条件で、この条件を満たさないときの影響は両者で著しく異なるので注意が必要。カソード側の出力がNFB(50%)となるので、出力インピーダンスは低く、入力インピーダンスは高い。


CD いわゆるハイゲインPK分割型には、Cのブートストラップ型とDのPFB(正帰還)型とがある。電圧増幅度を上げる方策である。
ブートストラップは、直列NFBを打ち消してゲインを上げようとするものであるが、前段の内部抵抗が低いと打ち消し不足であまりゲインは上がらない。ここでは3.5dBに止まっている。
 前段の出力電圧が低くてすむ分、歪率は低下するが、プレート側とカソード側で歪率、周波数
特性に差の出るのが欠点かもしれない。前段に、内部抵抗の高い5極管を使うのがブートストラップには効果的である。

 

 PFB型では、帰還量の選択によって効果は変わる。この例でのPFB量は10dBであるが、前段のカソード抵抗による電流NFBが6dBかっているので、差し引き4dBのゲインアップにしかなっていない。しかしアンプ全体のループNFBを掛けたときとの比較では、カソードの電流NFBは外せないので10dBの上昇とみてもよい。歪率と周波数特性はよくない。

 ブートストラップ型とPFB型を併用するのも有用だ。PFBにより前段の内部抵抗を上げることによって、ブートストラップが効果的に働くようになるからである。10数dBのゲインアップも可能になる。
              

    

 

E6AU6

差動

F6AU6

SG結合

G12AX7

差動

H6FQ7

カソード結合

I6AU6

自己平衡

J12AX7

自己平衡

利得(1)    負荷1MΩ(dB)

                  100kΩ

  39.5

  35

  39

  34.8

  28.3

  26.4

  17

  15.6

  44.6

  40

  34.6

  32

利得差(1):(2)        (dB)

   0

   0

   0

   1

   0.2

   0.5

最大出力(1) 負荷1MΩ(V)

                 100kΩ

  50

  35

  50

  38

  25

  20

  30

  28

  50

  30

  25

  20

歪率   出力 1V(1) ()

負荷100kΩ     (2)

              出力20V(1)

                         (2)

  0.04

  0.04

  0.75

  0.75

  0.055

  0.15

  0.8

  5.5

  0.025

  0.025

  2.8

  2.8

  0.02

  0.01

  0.9

  1

  0.25

  0.25

  5.2

  5.2

  0.3

  0.3

  8

  8

周波数特性         (1) (dB)

1kHz:100kHz      (2)

  3

  3.5

  4

  4

  1

 −1

  5

  5

  3

  0.7

  0.5

  5

出力インピーダンス (1) (kΩ)

                       (2)

  95

  95

  32

  32

  37

  37

  14.5

  14.5

  76

   1.2

  27

   3.3

 

E 増幅段と反転段のカソードを結合し、この点をバイパスしないで高インピーダンス化すると、増幅段の電流の増減によって他方の電流を逆方向に増減させて、シーソー的に反転段に同じ出力が得られる。ここで入力電圧はカソード電圧によって打ち消されるので、利得は6dB低下する(両出力を合せてみれば利得低下はない)。ループNFBは、通常反転段のグリッドに加える。
 高インピーダンス化には、定電流ダイオードを挿入して2管で5.4mAに設定した。5極管だけに大きな出力電圧が得られているが、出力インピーダンスは抜群に高い。

F スクリーングリッドをバイパスしないと、信号により電流は増減するのでここからも出力は取り出せる。また信号を注入すればプレート電流をコントロールできるので、入力用の電極にもなり得る。増幅段と反転段のスクリーングリッドを結合して定電流化すれば、差動回路として動作させることができる。

 定電流ダイオードにより2管で1.5mAに設定した結果、歪率と出力インピーダンスのほかはEの場合とほぼ同じ結果が得られたが、反転側の歪率がよくない。スクリーングリッドのリニアリティと、定電流ダイオードの定電流特性にそれぞれ原因があると考えられる。出力インピーダンスはカソード結合のときよりも低くなった。

 

G 3極管の場合で、カソード電流は2管で1.5mAとした。カソードの高インピーダンスに持ち上げられて出力インピーダンスが3極管としては高いが、トータルとしてはよい特性である。

 

H 出力管を直接ドライブするのに使われている差動回路だが、カソード抵抗を高くしないとバランスが悪く、高くすれば最大出力が低下する。カソード側に負電源を加えて実質的に電源電圧を高くして対処することもできる。通常前段とは直結にする。

 

IJ オートバランスまたは自己平衡型と呼ばれる回路。反転段は100%のP−G型NFBにより利得は1で位相だけが反転する。増幅段側は無帰還、反転側は多量のNFBにより、出力インピーダンスに著しい差のあることを承知しておくことが必要。周波数特性も揃わない。
  

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