プリアンプの出力段
プリアンプまたはコントロールアンプにはパワーアンプが接続される。
パワーアンプは概ね1V前後の入力で最大出力が得られるので、プリアンプに要求される出力電圧もその程度である。
プリアンプの入力側は、フォノイコライザーの出力が200mV程度、その他の外部入力も概ねそれくらいであるが、これは音楽などの平均レベルの値であって、ピーク値ではない。一方CDプレーヤーなどのデジタル機器の出力は2Vと表示されることが多いが、これは最大のビット数を使いきったときの値で、これ以上はあり得ないというピーク値であることに注意が必要だ。音楽の種類にもよるが、平均値は200mV〜500mVほどと、他の機器との大きな差はない。
パワーアンプの入力1V前後というのは最大出力になるときの値であり、プリアンプの入力200mVは平均値なので、ほぼそのままでレベル的には合うことになるが余裕がない。
通常は、平均値の200mVを最大値の1Vにまで14dBを増幅し、これを利得余裕、音量コントロールの絞り代と考えて設計する。
パワーアンプが半導体の場合、その入力インピーダンスは真空管式のそれに比べて一桁以上低く、10kΩ程度が普通なので、その重い負荷に耐えて1V以上の出力が得られなければならない。
以上からプリアンプの出力段は、利得14dB、10kΩ負荷に対して1V以上の出力が低歪で得られることが条件になる。入力側は音量コントロールを前置し、入力インピーダンスは、真空管式のイコライザーや外部機器を考慮すると100kΩ以上が欲しい。
これらを考慮しながら、どのような回路がよいのかを比較してみた。
最大出力は目視でクリップが認められない値、 周波数特性は100kHzの1kHzに対する偏差
@SRPP | Aカソードホロワー | Bカソフォロ+K・NFB | Cカソフォロ+電圧NFB | D12DW7 | E2段増幅 | F2段増幅+K・NFB | |
電圧利得 | 14dB | 19dB | 14dB | 14dB | 16.5dB | 17.2dB | 14dB |
NFB量 | 5dB | 4dB | 18dB | 13dB | 11dB | ||
最大出力 | 30V | 25V | 25V | 20V | 25V | 20V | 25V |
最大出力時歪率 | 5% | 3.8% | 2.8% | 3.5% | 0.09% | 3% | 3% |
10V出力時歪率 | 1.5% | 0.95% | 0.48% | 0.6% | 0.015% | 1% | 0.8% |
1V出力時歪率 | 0.14% | 0.1% | 0.05% | 0.08% | 0.002% | 0.13% | 0.07% |
出力インピーダンス | 5kΩ | 550Ω | 550Ω | 5kΩ | 5kΩ | 1kΩ | 1kΩ |
周波数特性 | -1.4dB | -0.5dB | -0.5dB | -0.5dB | -0.5dB | -0.3dB | -0.3dB |
@SRPP回路
比較的よく使われている回路である。12AU7を用いたときのデータは、表の@に示すように10kΩ負荷で、あつらえたように14dBの電圧利得となった。
SRPPの特長として、リニアリティがよく30Vと大きな出力が得られるが、NFBが掛けられていないため歪率や出力インピーダンス、周波数特性では他方式に劣る。
30V以上では波形の上下がクリップし第3調波が増えるが、これはプッシュプル動作をしている証しであろう。
30Vもの出力電圧は必要がないので、特性上のメリットはないかもしれないが、抵抗、コンデンサー等の部品数が少なくてすむのは、音質上で有利に働く可能性はある。
NFBを掛けるにはPG型、この場合には出力端子から入力端子へ戻せばよいが、入力インピーダンスの低下と、音量コントロールを前置したときに、コントロールによってNFB量が変わる問題に対処しなければならない。
A出力段カソードフォロワー
カソードフォロワーから出力を取り出す2段増幅である。段間は直結にしてパーツの増加を防いでいる。
表のAに示すように電圧利得は19dBになった。 さすがに出力インピーダンスは@よりも一桁低い。歪率も@より低くなったが、この歪を生じているのは、ほとんど無帰還動作の1段目である。
その1段目の電流NFBを増加させたのがBである。
B1段目電流NFB追加型カソードフォロワー
1段目カソードに4.7kΩを追加して電流NFBを掛け、電圧利得を14dBに合わせた。
NFB量は5dBであるが歪率はかなり改善されている。
@に比べてすべての特性面で勝り、推奨したい方式の一つ。
個別のNFBだけで構成され、ループNFBは掛かっていないので、NFB嫌い?にも好適なのでは。
4.7k
C電圧NFBを加えたカソードフォロワー
Bの方式でNFB用のカソード抵抗を高くしていくと、1段目P、K間の電圧利用率が低下する。
対策として2段目プレートに1kΩの抵抗を入れて出力の一部を取り出し、これを1段目に返すループNFBを試みたもの。
2段目の電圧利用率が下がったため、最大出力が少々低下した。
最も目に付くのは出力インピーダンスが5kΩと高くなったことで、カソードフォロワーのNFB量が、プレート負荷との分割で減少したのが原因。また、負荷が低くなるほど出力インピーダンスは高くなるが、これも分割比に起因する。実用上はともかく、注意点である。
D12AU7を12DW7にしたCの回路
NFB量を増やすとどうなるかの試みで、12AU7を12DW7に換装した。
12DW7は一方のユニットが12AX7相当、他方が12AU7相当の複合管で、1段目の利得上昇が目的である。
結果は18dBのNFBを掛けても電圧利得は16.5dBと少々オーバー。更にNFB量を増やすには2段目プレートの1kΩを大きくしなければならない。
このままの状態での結果は、表に示すように歪率が劇的に低下した。
ここまで必要かどうかは目的によろう。
Eストレート2段増幅
単純な2段増幅で、専らループNFBに頼って出力段を構成しようとするもの。
帰還抵抗10kΩのときのNFB量は13dBで、まだ総合利得は過剰であるが、帰還抵抗は出力段の負荷になり、この場合10kΩは負荷の10kΩと並列になるため最大出力は低下していて、これ以上帰還抵抗を小さくはできない。
その他の特性では特に問題はない。
Fストレートの1段目に電流NFBを追加
Eの問題点を解決するため、1段目のカソード抵抗を大きくして帰還用の抵抗値を高くしたもの。
1段目の利得が下がった分、ループNFB量は減って11dBとなった。総合利得は14dBに収まった。
最大出力も25Vを確保、総合的によい特性といえるが、周辺の抵抗、コンデンサーの数の多さが気になるかもしれない。