白神山地

白神山地
1999.sep

白神山地。ここは1993年12月に屋久島と共に世界自然遺産に登録された地です。
高校生の頃から、是非行って見たいと思っていた白神山地に大学2年の頃、行きました。
初めて見る白神岳をとりまく白神の山々は、どっしりと構えており、人々が生活する場所に山があるのではなく、
山があって人々がまわりで生活している、そんな感じがしました。




白神山地世界自然遺産の看板 白神山荘からの夕陽
白神山地世界遺産の看板 白神山荘から見た夕陽

白神へ

 電車を乗り継ぎ、はるばる白神へやってきました。
青森と秋田の境にどっしりと横たわる白神山地を見るやいなや感動してうるうるしてしまったのを今でも覚えています。

 初日は移動だけで、白神岳の麓、陸奥黒崎駅の近くにある白神岳ガイドハウス 白神山荘に宿泊しました。
 夕飯を頂いた後、翌日の登山に備え、ガイドもされている宿のご主人と登山計画を立てていました。
水場や急登の場所などを地図でチェックしたり、今年(1999年)はブナの実の豊作年であることなど、いろいろな話を伺いました。

 そんな事をしているときに、その日の早朝、山荘を出ていった登山客2名が日帰りで戻るはずなのに戻らないという騒ぎになりました。宿のご主人が、外も薄暗くなってしまったなか、懐中電灯と熊よけの犬を連れて探しに行って、しばらくそわそわ待っていると、一人の女性を背負い、あわせて2名戻ってきました。慣れない登山なのに日帰りで白神岳を登ったがために、帰り道に膝が笑ってしまって降りれなくなってしまったそうです。登山は登りよりも下りの方が足に負担がくることを頭に入れておかなかったのかもしれません。
その騒ぎを見て、まだ登ったことのない翌日の登山が少し怖くなりました。
でも、翌日はいよいよ白神山中に分け入るのでドキドキする気持ちでいっぱいでした。  


白神岳

白神岳登山口  白神山地の主峰、白神岳(1231.9m)。ここは海抜0mから登山できます。朝食を軽く済ませ、出発です。

 まずは、白神岳登山口まで約3km登って行きました。登山口が大きくぽっかりと口を開いています。まだ、入山届を出していない人は記入する場所があります。世界遺産に登録されてから、登山客が増加したものの、届けを出さずに核心地域に入っていく人が多いそうです。届けが必要な地域があるので事前にチェックしてから登山に望みたいものですね。



登山口近くのブナの巨木
登山口近くの立派なブナの木

 登山口から一歩入ると、今まで歩いてきた場所とは別世界の、ハルゼミが賑やかに鳴き沢山の生き物の気配を感じるようなところでした。
約100m入ったところに早速、ブナの巨木が聳え立っています。並んで抱きついている私の姿からも、その大きさが分かるかと思います。

 その後、男坂と女坂に別れた道を行きます。最初は、ブナ林ではなく戦後伐採されたあとに成立した2次林 ( >>ブナについて) や、国の拡大造林政策により植林されたスギやアカマツ林の中を歩いて行きます。

 途中、スギの幹にツキノワグマの爪痕を見つけました。さらに案内板にも爪痕が。いつだかこの場所に、ツキノワグマがやってきたのだと思うと、怖いと同時に、森の生き物の棲み処にお邪魔させてもらっているのだな、という気持ちになりました。
気持ちを引き締めて進んで行くと、青森ヒバが出てきた辺りで、水場に着きます。
この水場は、最初で最後の水場なのでしっかり補給し、いよいよ本格的にブナ林の中の急登が始まります。
丁度、水を補給しているときに、キツツキのドラミング音が聞こえてきたので、クマゲラかと探しましたがそう簡単には見つかりませんよね。

ブナ林 ツキノワグマの爪痕
登山口近くの立派なブナの木 ツキノワグマの爪痕

 ぐいぐいと急登を行き、息切れがしてきては、体がすっかり休まないように荷物を背負って立ったまま休憩をとり、再び頂上を目指します。途中、第1の急登を登りきり、マテ山分岐点に出ます。そしてしばらく行くと、ブナ街道と呼ばれるなだらかで気持ちの良い尾根に出ます。宿のご主人が話していたように、豊作年なのか、足元を見るとブナの実がよく落ちていました。ブナの結実には豊凶があります。その結実量は、ブナの実を食べるクマなど生き物たちにも影響を及ぼすため、重要です。ブナの生える尾根は、心地の良い風が通り、更に下を見るとブナ林の壮大な景色を眺めることが出来ます。

 標高約1100mの辺りで森林限界となり、低木やかん木が生える場所に出て展望が更に開けます。
再び、短い第2の急登を登ると花畑の広がる場所に出ます。もうこの辺りでは、頂上の避難小屋やトイレの建物が常に見え、ゴールを目指してもうひとふんばり、と力が入ります。目の前を、名前は忘れてしまったのですが、珍しいカミキリムシが歩いていました。
重い荷物を背負いながらの急登はきついものの、山上の花々に、昆虫、野鳥を目で追い、あっという間の4時間でした。

向白神岳を望む 尾根道
向白神岳を望む 山頂近くから見た尾根道

 尾根からは、白神山地の核心地域や白神岳より少し標高の高い向白神岳(1243m)も見ることができます。この景色を大パノラマで見ると、疲れも一気に吹き飛んでいきます。
ここの花畑の花は、山頂近くに祀られている白神大権現様の献花で、盗掘すると神罰があると伝えられています。この花畑を抜けると、頂上です!
海抜0mからの登山は登りきった時の喜びがひとしおです。


>>白神岳の由来



白神岳山頂

白神岳山頂
右が避難小屋、左はトイレ

 頂上に着くと、避難小屋と、トイレの建物があります。避難小屋は総青森ヒバ造りの二階建てです。ここで1泊する事にしました。

 避難小屋に入ると、木の良い香りがします。昭和60年に出来たということですが、何故か入った途端に安心感を感じました。きっと、厳しい冬の風雪に耐えてきた威厳からでしょう。小屋の2階に荷物を置き、シュラフを敷くとどっと疲れが出て、ひと眠りしてしまいました。

 その後、小屋から50mほど下ったところにある湧き水を汲んで夕飯に使うことにしました。
夜になると真っ暗になってしまうので、早々、夕飯を作り、食事した後、小屋から少し行った山頂に行きました。

日本海に沈む夕日 幻想的な雰囲気を醸し出す月
日本海に沈む夕日 幻想的な雰囲気を醸し出す月
神々しい朝日 流れる雲海
神々しい朝日 流れる雲海

丁度夕陽の沈んでいく瞬間で、本当に美しかったです。夕陽と共に、反対側からは月が出てきており、どちらも息をのむほどの美しさで、両方見たいのでキョロキョロしてしまいました。こんな贅沢があっての良いのでしょうか。
山頂には沢山の人がいましたが、夕陽が沈む瞬間「おお〜っ」と歓声があがり、みんなで笑いあっていました。

 太陽が沈むと、急に冷え込んできたのでしばらく、星空と月を見た後、避難小屋に戻りました。
すると、下から、すごい荷物の人がやってきました。その方は、鍋や野菜、クマの肉、調味料、酒などを担いで、小屋にいる人達にホルモン鍋を振舞うべくやってきた地元の方でした。
疲れて眠ってしまっている人はそっとしておいて、食べたい&飲みたい&語りあいたい人が寄り集まってこっそりと避難小屋の2階で鍋をつつくことになりました。もちろん私も混ぜてもらうことに!

 作って頂いた鍋はピリ辛の味付けに、クマの肉やもつ、野菜を入れたものでした。初めて食べるクマの毛が少しついた肉はかたくて、噛みちぎっている自分がクマのような気分でした。でも、ピリっとした味付けに、強い日本酒が良く合い、どこからきたとか、どんなことをしているとか、いろんな話をいろんな人として、本当に楽しい晩餐でした。今でも、あの時のことは忘れませんし、また、あの方に合いたいとも思います。
 登山客のみんなと触れ合いたい、地元の食材を是非味わってもらいたい、との思いで時々こうして重い荷物を背負ってやってきているそうです。こういった人がいることに心から感動しました。
 世界遺産地域・白神山地というこの場所で、豊かな自然、美しい景色がただでさえ訪れるものを感動させているのに、その上、この土地に住む人がまた素晴らしい心の持ち主なのだと思いました。だからこそ、世界遺産として守られるべきものなのだとも感じました。

 特に何か利益があるわけでもなく、ただ、みんなとふれあい、ただ、語り合いたいから。いろいろ感じることの多い出来事でした。


 翌朝、少し早起きをして日の出を見ることにしました。下を見ると、雲海が広がり幻想的です。夕陽も月も、そして朝日も見られるとは、なんとも贅沢な旅です。
朝日を拝んだあと、朝食をとり、下山しました。

 下山していると、山の下から雲が流れてきて、幻想的な景色を見ることができました。
自分より低い位置にある雲の流れと同じ方向にテクテクと歩いている、ただそれだけなのですが、とても不思議な体験で、いつまでも心に残る出来事でした。

 私はもと来た道を戻ったのですが、大崩や十二湖へ抜けるコースがあるようなので次は縦走をしてみたいです。




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