2002年12月28日(土)「グッドボーイズ」

ALL ABOUT THE BENJAMINS・2002・米・1時38分

日本語字幕翻訳:手書き下、風間綾平/シネスコ・サイズ(マスク)/ドルビーデジタル・dts・SDDS

〈米R指定〉

http://www.gaga.ne.jp/
http://www.benjaminsmovie.com/
(日本語公式ページなし)

探偵事務所を開設を目指す賞金稼ぎのバッカム(アイス・キューブ)は、ケチな詐欺師のレジー(マイク・イップス)を発見し追いつめるが、レジーが2,000万ドルのダイヤモンドの取引現場に逃げ込んだことから、2人とも目撃者を消そうとする組織に追われることになる。

74点

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   期待しないで見に行ったら、オイオイ、面白いんじゃないのこれ。思いっきりのB級映画かと思ったら、確かにAじゃないものの超B級って感じ。なんでも主演のアイス・キューブが脚本とプロデュースまで買って出たという作品だけのことはある。年末なんかに見るのにピッタリ。爽やかな笑顔で劇場を後にすることができる。

 まず、主人公がバウンティ・ハンター、賞金稼ぎだというのがいい。なぜか熱帯魚好きだし。スティーブ・マックィーンもかつて演じていた賞金稼ぎ。TVドラマ「拳銃無宿」の時代とは違って、手配犯に賞金が掛かっていて、それを捕まえて生計を立てるのではなく、裁判で保釈となっていた容疑者が逃亡した場合、保釈金が没収となるため立て替えた業者がその1割を報酬として逮捕を依頼するのだ。つまり保釈金1万ドル(約120万円)なら逮捕すれば1千ドル(12万円)もらえるわけだ。それで生計を立てているのが現代の賞金稼ぎ。これは「ハンター(The Hunter・1980・米)」でも描かれていた。

 次に、逃げている男が憎めない小悪党というのがいい。本当の悪党では観客は感情移入ができない。しかし、小悪党で、コンビニからちょっと商品を万引きするくらいだと、観客は大目にみることができる。しかもおっちょこちょいで、面白いヤツだと、むしろ親近感を覚えるわけで。唯一気をつけなければならないのは、ジャージャービンクスのようにうざったい存在にならないようにすること。レジーは危ないところだが、ぎりぎりそうならずにこらえている。

 そして、複雑に絡み合うストーリー。賞金稼ぎが犯人を追うだけではなく、2,000万ドルものダイヤモンドの取引の話に、それを超える6,000万ドルのナンバーズの当たりクジの話が絡み合ってくる。しかもダイヤモンドはだましだまされ、本物はどこにあるのかわからない。

 もちろんアイス・キューブがプロデュースしているだけあって音楽もいい。ラップは当然として、意外なことにカリブっぽい曲とかクラッシックまで使って、バラエティに富んでいる。このサウンド・トラックはお買い得かも。

 そしてMTV感覚のカッティング。カットのリズムがいいし、可変スピードで音を使ってドビューンと場面転換したり、いかにも物語という雰囲気の出るワイプを使ったり、観客を楽しませようという心意気が伝わってくる。これが大切。

 そして、ハードな部分はリアルに真剣にディティールに凝って作り、しかし行き過ぎないようにコメディの味付けをしてバランスをとるいう超絶技。台詞は聞き逃さないようにしっかり聞き取りたい。たとえば、ダイヤモンドの取引現場では、スチルの撮影をしているのだが、67だ645だという言葉が飛び交う。これはよほどのカメラ・マニアか、プロでないとわからない言葉。いわわゆるブローニーと呼ばれる60mm幅のフィルムのことで、カメラによって区切る長さが違い、60mm×70mmとか60mm×45mmがあって、6×7(ロクナナ)だ6×45(ロクヨンゴ)と呼ばれているのだ。カメラマン(正しくはフォトグラファー)に化けたギャングが、なぜかカメラにこだわって67じゃなくて645をよこせなんて怒鳴るのだ。うーんマニアック。「パワー・レンジャーかと思った」という突っ込みや、ハゲ男を捕まえて「このミニミー野郎」とか、タイヤを撃てと言われて「俺はメル・ギブソンか」という突っ込みも、映画好きにはたまらない。

 使っている銃はグロックのG17(9mm)かG22(.40)。パッと見では見分けがつかないが、おそらく映画撮影用の空砲がそろいやすいのは9mmのはずなので、G17だろう。それで、バック・アップ用に同銃の小型版G26。これをレジーに貸すときに、お気に入りなんだからなくすなよと言うわけで、わざわざこんなことを主人公に言わせるところがマニアック。敵が使っているのは、ハッキリわからないのだが、どうもスライドの形からスプリングフィールド・アーモリーのXDピストル5インチ・タクティカル・モデル(スプリングフィールド版グロック)のように見えたんだけど。それともS&WのM945?

 主人公たちはもちろんいいが、印象に残るのはフォトグラファーに化けたギャングのジュリアンを演じたロジャー・グエンベウアー(?)・スミスと、その相棒のモデルに化けたチャップリンの孫娘、カルメン・チャップリン。もちろん顔に大きな傷がある、ギャングのボス、スカー・フェイスのトミー・フラナガン(「セイント(The Saint・1997・米)」ほか)もよかった。敵に存在感があって憎たらしいのがアクションものの王道。

 監督はケヴィン・ブレイという人で、劇場映画はこれがデビュー作。これが認められたのか、リュック・ベッソンの「Tixi 3(2003)」でメガホンを取るらしい。ちょっと注目かも。

 ちなみにタイトルのベンジャミンというのは、全洋画によればベンジャミン・フランクリンのことだそうで、100ドル札の肖像がベンジャミン・フランクリンなので100ドル札を指すスラングなのだそうだ。どうりで100ドル札の肖像画のアップばかりがよく写ると思ったら、なるほどね。疑問氷解。

 公開9日目の初回、広告の少なさから混まないだろうと予想して(実際には面白いのだが)30分前についたら新宿の劇場は0人。おい、おい。20分前2人が並んでいると、後からきたオヤジ夫婦が15分前に開場という衝立と列を無視して先に入って行く。って、オイ、オイ。最近強く思うけれど、日本人は並ぶのがとても下手になった。老若関係なく、全然ダメ。恥ずかしい。一体どうなっているんだろう。学校は何を教えてんの。週休二日制になって省略?

 最終的には指定席なしの200席に12〜13人。これだけ来た方が不思議なくらい宣伝されていない作品だが、実際にはもっと多くの人に見てほしい出来。20代前半カップル、20代後半カップル、オヤジ・カップル、プラス、オヤジがパラパラ、30代女性1人。

 小さくてもさすがに新宿の劇場はドルビーEX対応劇場だけあって、音は抜群。クリアでよく回る。しかも台詞がはっきり聞こえる。同じ1,500円なり1,800円なりを払うなら、劇場を選ばないと。小劇場の単館の場合は……ビデオ(DVD)という選択もありかな。本作はもちろん劇場の方がいいけど。


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