Pan's Labyrinth


2007年10月15日(月)「パンズ・ラビリンス」

EL LABERINTO DEL FAUNO・2006・メキシコ/西/米・1時間59分(IMDbではフィンランド版120分、トロント国際映画祭版112分)


日本語字幕:丸ゴシック体下、松浦美奈/ビスタ・サイズ(Arriflex 435、Moviecam Compact)/ドルビーデジタル、dts(IMDbではドルビーデジタル、dts、SDDS)

(メC指定、西18指定、米R指定、日PG-12指定)

公式サイト
http://www.panslabyrinth.jp/
(入ったら音に注意。全国の劇場案内もあり)


1944年スペイン。内戦は終了し、フランコ将軍のファシスト政権が勝利したはずだったが、レジスタンスたちは山にこもりゲリラ戦を続けていた。そんなとき、夫を亡くし政府軍のビダル将軍(セルジ・ロペス)と再婚したカルメン(アリアドナ・ヒル)と、娘のオフェリア(イバナ・バケロ)が、夫の任地である山のふもとの古い農家にやって来る。あたりは古い遺跡があり、謎めいた石柱や石組みの迷路があった。おとぎ話好きのオフェリアは妖精を見かけるが……。


86点

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 まいった。こんなに切ない話だとは思わなかった。普通のファンタジーで、ハッピー・エンドかと思った。とんでもない。日本ではPG-12だが、小学生にこれを見せるのはどうかと思う。大人でもかなりショッキングで、見終わった後、腰が抜けたようになってなかなか立ち上がれなかった。家で1人で見ていたら、涙が流れていたかも。圧倒された。

 公式サイトで流れる曲は、劇中使われる歌詞のわからない子守歌。悲しい……。そしてあまりに主人公が純粋で、可憐過ぎ。このやるせなさ……。

 この物語を「現実と、少女の幻想が平行して進展する物語」というふうに言ってしまうのは、違うような気がする。もちろんそういう見方もあるわけだが、たぶん作者(プロデューサーで監督で脚本家のギレルモ・デル・トロ)は現実とも幻想ともとれる物語を、どちらと限定せずに作り上げたのではないだろうか。

 話としては同じギレルモ・デル・トロ製作・監督・脚本の「デビルズ・バックボーン」(El Espinazo Del Diabro・2001・西/メキシコ)に似ている。あちらはスペイン内戦と孤児院と幽霊の話だったが、本作はスペイン内戦と少女とおとぎ話になっている。本作は少女がうまく描けていることと、ファンタジー世界が素晴らしく、その分こちらの完成度が高く、より多く感情を揺さぶられるのだと思う。ラスト・シーンから始まって、最後にそのシーンに至る。そうだったのか……。

 憎たらしいビダル将軍を演じたのはセルジ・ロペス。鼻から煙草の煙を出す感じが嫌らしく、情け容赦ない感じがすごい。1965年生まれとは思えないほどオヤジ顔で貫録がある。スペインでは有名なようだが、日本ではまだあまり知られていないのでは。スペイン軍の兵士でありながら、彼だけドイツのルガーP08ピストルを使っている。父の形見のガラスの割れた懐中時計を持っていて、父の死の時刻を残しているという設定がまた怖い。

 母親役はアリアドナ・ヒル。やはりあまり日本では知られていないと思うが、病弱な感じが絶妙。美人だし、主人公の少女オフェリア役のイバナ・バケロとどことなく似ている所がまた良い。血まみれで熱演。

 オフェリア役のイバナ・バケロが一番素晴らしい。この無垢な感じが涙を誘う。映画の出来は彼女にかかっていたと言っても良いくらい重要。1994年生まれの13歳。あの恐ろしかったホラー「機械じかけの小児病棟」(Fragiles・2005・西)で入院患者を演じていたようだ。どこかに見覚えがあったわけだ。本作では1,000人のオーディションをみごとに勝ち抜いたとか。彼女を見初めたデル・トロ監督は7〜8歳の少女を考えていたのに、脚本を書き直したというのだからすごい。結果的にそれは大正解だったわけだ。

 小間使いのメルセデスを演じたのはマリベル・ベルドゥという人。容貌がちょっとホラー向きの感じで、なんか怖い結末を予想させる。本作でプロデューサーを務めているアルフォンソ・キュアロンが監督した「天国の口、終りの楽園」(Y Tu Mama Tambien・2001・メキシコ)に出ていたらしい。

 迷宮の入口の番人、牧神パンと手に目玉のあるペイルマンを演じているのが、ダグ・ジョーンズ。つい最近「ファンタスティック・フォー:銀河の危機」(4: Rise of the Silver Surfer・2007・米)のシルバー・サーファーを演じていた人。デル・トロ監督の「ヘルボーイ」(Hellboy・2004・米)で変なゴーグルを着けた半漁人みたいなクリーチャーを演じていた。「ドゥーム」(Doom・2005・英ほか)では、素顔で医師団の1人を演じていたらしい。

 レジスタンスたちは、雑多な武器を持っていてミリポリのようなリボルバーだったり、ハイパワーだったり、ステンだったりする。スペイン軍の将校の拳銃はアストラ400のようだった。

 公開10日目の初回、50分前くらいに着いたら、恵比寿の劇場はなんと平日なのにすでに10人くらいの行列。大学生らしい若いカップル1組と、中高年。いずれも時間が自由になりやすい人たち。男女比は4対6で女性の方が多い。オバサンは時間が自由になりやすいのだろう。間もなく受付が始まりチケットに番号を打ってもらう。15分前から番号順に入場というシステム。

 最終的には232席の4.5〜5割くらいの埋まり具合。大学くらいの若い人が増えて、老若比は4対6くらいに。

 暗くなって始まった予告編で気になったのは、少女が大人とカストロに宣戦布告するという「ぜんぶ、フィデルのせい」は、共産主義とか革命とかの話なのに、子供の視点から描いていて笑えるようで、ちょっと気になる。アダム・サンドラーの911の後遺症を描いたシリアスもの「再会の街で」はさすがにしんみりとした感じだが、アホキャラが多いアダム・サンドラーがどこまでやれるか気にはなる。


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