Home of the Brave


2008年1月5日(土)「勇者たちの戦場」

HOME OF THE BRAVE・2006・米/モロッコ・1時間47分(IMDbでは米版は105分)

日本語字幕:細丸ゴシック体下、太田直子/シネスコ・サイズ(マスク、Arriflex 435、HDTV)/ドルビー・デジタル

(米R指定)

公式サイト
http://www.nikkatsu.com/yusha/
(音に注意。全国の劇場案内もあり)

イラクで治安維持に当たるアメリカ軍の兵士たちは、テロの頻発で長期駐留を強いられている。そんなある日、混成部隊に2週間後に帰国できるというニュースが舞い込む。喜びに湧く部隊はしかし、医薬品をアル・バハイという町に届ける最後の人道的任務に就くことになる。そしてそのアル・バハイで待ち伏せにあい、多数の死傷者を出してしまう。生き残った兵士たちはどうにか帰国するが、戦場での経験から家族との普通の生活が送れないようになってしまっていた……。

73点

一覧へ次へ
 ちょっと落ち込んだ。いい映画だと思うが、はたしてお正月に見る作品としてふさわしいのかどうか。戦闘シーンは冒頭の15分くらいで、あとは帰国してからの袋小路に迷う混んでしまったような息詰まるようなシーンばかり。その微妙な演出がまたうまいので、自分がそんな立場になってしまったような気分になる。IMDbで5.4点という評価はその気分の反映ではないだろうか。

 ある程度は予想していたことで、B級アクションが多いオヤジ劇場での上映だったので、もしかしたらとも思ったのだが、やっぱり違ったか。帰国してからのギャップや後遺症や悩みをリアルに描くためにも、当然、戦闘シーンはリアルで恐ろしい。市民に紛れて攻撃を仕掛けてくるテロリストたち。まったく見分けはつかない。しかも市街地での戦闘は敵に有利で、一般市民の中に逃げ込むため攻撃しにくい。建物を一軒一軒しらみつぶしに捜索していくわけだが、ふいに背後に現れた女性を反射的に撃ってしまう兵士までいる。許されないことだが、この状況では避けられないだろうなと。銃撃戦の現場へ出てくる方がおかしい気も。

 だいたい皆、防弾チョッキを身に着けているので、撃たれるのは首筋だったりする。血が派手に飛び散る。しかもほとんど致命傷になる。そして防弾チョッキを着ていても、爆発は防げない。手を失う者も出てくる。どす黒い血が流れ、リアルさがあって、ますます怖くなる。ここで観客を戦場にいるかのような気にさせなければならないからだ。それは成功している。

 部隊は混成のため装備もバラバラ。トリジコンのリフレックス・サイトを付けたM4カービンもあれば、M16A2もある。ハンビーに搭載していたのは、取り外しても使うミニミM249のパラ(たぶん)。軍医のサミュエル・L・ジャクソンはベレッタM9を装備している。

 帰国してからは、キレてしまう元兵士の黒人がS&Wのシルバーのオートマチック、SWATがドット・サイトを付けたMP5、軍医がシルバーのベレッタM92FSという感じ。

 群像劇なので特に主演ということはないのだろうが、軍医のサミュエル・L・ジャクソンのほかに、親友を失った兵士に「エンド・ゲーム 大統領最期の日」(End Game・2006・独/米ほか)にも出ていたブライアン・プレスリー。これまではTVで活躍していたようだ。女性兵士には「ブレイド3」(Blade: Trinity・2004・米)の美女、ジェシカ・ビール。誤って民間人を撃ってしまう兵士に、ラッパーの50センツことカーティス・ジャクソン。ちょっとだけ出ている戦死した兵士の妻に、つい最近「ブラック・スネーク・モーン」(Black Snake Moan・2006・米)でセックス依存症の危ない女を演じたクリスティーナ・リッチ。

 監督はプロデューサーから監督になったアーウィン・ウィンクラー。初監督作品は、ハリウッドのレッド・パージを描いた「真実の瞬間」(Guilty by Suspicion・1991・米)。「ザ・インターネット」(The Net・1995・米)というアクションも撮っているし、「海辺の家」(Life as a House・2001・米)という人間ドラマも撮り、最近では作曲家の半生を描いたミュージカル「五線譜のラブレター DE-LOVELY」(De-Lovely・2004・米)も撮るなど多彩。プロデュース作品では、チャールズ・ブロンソンの殺し屋アクション「メカニック」(The Mechanic・1972・米)、スタローンの「ロッキー」(Rocky・1976・米)シリーズ全作品、ロバート・デ・ニーロにアカデミー主演男優賞をもたらしたボクシング映画「レイジング・ブル」(Raising Bull・1980・米)などがある。

 脚本と原案はマーク・フリードマン。TVでフォトグラファーをやったり、サウンド・デザイナーをやったりしていた人らしい。突然脚本を書くとは、身内や知り合いでイラクに行った人がいたんだろうか。

 映画はイラク派兵を否定はしていない。戦場から帰った兵士たちの悲しい現状を描きつつ、一方で反戦派として軍医の息子(15歳くらいの少年)を登場させ志願して戦場へ行った父を批判もさせている。描きたかったのは、当然、最後に登場するマキャベリ(イタリア、ルネッサンス期の思想家。「君主論」「戦術論」などの著書がある)の言葉「戦争はいつでも始められるが、思い通りには止められない」だろう。

 戦争論は置いておいても、印象に残ったのは、心に大きな傷を負った時、支えてくれる人がいるということはどれほどありがたいことかということ。ひとりで立ち直るのは、不可能ではないとしてもとてつもなく大変だ。奥さんや恋人、家族、友人……人は誰とも関わらずに生きていくことはできないなと。

 黄色いリボンを付けている家が映るが、西部開拓時代の昔から、無事に戻るようにという願掛けの風習があったらしい。ジョン・ウェインの「黄色いリボン」(She wore a Yellow Ribbon・1949・米)にモチーフとして使われている。その主題歌の歌詞に「When I asked why wore the yellow robbon ? She said it's for my lover who is far, far away」というようなフレーズがある(うろ覚え)。原曲はアイルランド民謡だそうで、最初の著作権を取ったバージョンは1917年なんだとか。

 騎兵隊の制服は濃紺(ブルー)で、兵科色は黄色。それで砂塵などを防ぐためのスカーフが黄色(イエロー)で、遠隔地に赴任した恋人の無事を祈って彼女は彼氏のスカーフをもらって身に付けていたらしい。

 ちなみにこの曲は現在もなお騎兵隊(機甲部隊)の隊歌になっているそう。

 日本の映画では「幸福の黄色いハンカチ」(1977・日)がある。ここでは刑務所を出所した男を、奥さんがまだ待っているなら家の前に黄色いハンカチを出しておくというふうに使われていた。

 もともと黄色はイギリスでは「身を守るための色」だったらしい。

 公開初日の初回、銀座の劇場は35分前くらいに着いたら12〜13人の列。ほとんど中高年というより、ほとんど高齢者。女性は0。列から離れたところに若い人が2〜3人いたが、あれは関係者だろう。25分前に列は30人くらいになり、30分前に案内があって、間もなく開場した。この時点ではオバサン2人。

 小さなスクリーンはシネスコで開いていて、全席自由。真ん中に通路もなく、座席は千鳥配列でもないので、前の席に座高の高い人が座るとスクリーンが見えなくなる。下に出る字幕は最悪。15分前では130席の4割りほどで、前席は気にならなかったが、最終的には8.5〜9割りほどの入りで、場所によっては見にくかったはず。ボクはラッキーにも前席が空いていて助かった。

 暗くなり、ビスタになって始まった予告は上下マスクの「ジェシー・ジェームズの暗殺」の長いバージョン。だんだん内容がわかるようになってきた。かなり暗い感じだ。うむむ。

 スクリーンがシネスコになって本編が始まったが、シネスコになってレンズが変わった途端、ピントが甘くなった。嫌な予感がしたが、結局最後までずっと中央部分のピントが甘いまま。まったく、これだもんなあ。


一覧へ次へ