お手軽、おちゃらけアクション・コメディかと思ったら違った。いわゆるシチュエーション・コメディであって、わざとらしい仕草やセリフによるギャグは使われていない。むしろ凶悪な悪と戦う、巻き込まれ型アクション作品の作り方。正統派でしっかり、じっくり作り込まれている。もちろん実際の病気である「先天性無痛無汗症」(CIPA)を笑いのネタにするような感じでは決してなく、むしろその悲しさを描いているのに、登場キャラクターの雰囲気、全体の演出の妙などが相まって、温かい笑いというか不思議なおかしさを醸し出している。 頭を矢が貫いたり、腕が折れて骨が飛び出したり、煮えたぎった油に手をつっこんだり、生爪を剥がしたり‥‥ かなりどぎつい暴力表現のハード・アクションだが、ひと言で言うと「さえない中年オヤジのかわいいラブ・ストーリー」という感じ。中年版「ボーイ・ミーツ・ガール」とも言えるか。これはひょっとして凄い映画、傑作なのでは? IMDbでは6.5点。小さいスクリーンで、もうあまり上映されておらず、人もそれほど入っていないけど。宣伝というか、予告のやり方を間違えたんじゃないかなあ。もっとお客さんが、特に女性が、入っていい映画ではないだろうか。まあ、これを面白く感じるのは男だからかもしれないが、とにかくボクには刺さった。 ノボカイン(ノボケイン)とは局所麻酔の一種。その説明も劇中で語られる。それが中学時代のイジメともつながっていて、物語に深みを与えている。ちょっとショッキングで、ただのコメディじゃないことがそこからもわかる。しかも冒頭から、家中のあらゆるところ、家具の角や、尖ったものにプロテクターが付けられていて、怪我しないように注意して暮らす様子がそれとなく描かれていて(あえて劇中で説明はしていない)、大変な暮らしなんだろうなとわかる。硬い食べ物は舌を噛む危険があるから食べないようにしているとか、膀胱が破裂しないように3時間ごとにアラームが鳴るとか、想像を絶するような苦労。しかし、それを暗くなく、むしろ普通にさらりと描いている。すごいなあ。 そういったことを象徴して最初に流れる歌に「誰でも傷つく」「投げ出すな」いうようなフレーズあって、そういう映画なんだなあと。スティーブ・マーティン主演の「ノボケイン 局所麻酔の罠」(Novocaine・2001・米)とは全く何の関係もナシ。 とにかくよかったのは主人公のキャラクター。良い人賞を上げたいくらいのとても良い人。体に障害があっても明るく前向きに生きている。演じたジャック・クエイドがピッタリはまっていて、それがよく伝わってくる。応援したくなる。人気テレビ・シリーズの「ザ・ボーイズ」(The Boys・2019〜・米)でブレイクしたのだそう。「ハンガー・ゲーム」(The Hunger Games・2012・米)では端役だったものの、日本劇場公開の「スクリーム」(Scream・2022・米)では主要キャストだったらしい。最新作「コンパニオン」(Companion・2025・米)は劇場で予告を見たような気がするのだけれど、日本劇場公開が見送りとなったそう。でも、本作を見ると、次作も期待したくなる。俳優のデニス・クエイドとメグ・ライアンの息子なんだとか。 相手役のキュートな新人女性行員はアンバー・ミッドサンダー。リーアム・ニーソンの「アイス・ロード」(The Ice Road・2021・米/加)で、紅一点の女性ドライバーを演じていた人。あれも良かったが、本作も、パターンとはいえ、良かった。ただ次の「プレデター:ザ・プレイ」(Prey・2022・米)では主演を務めていたにもかかわらず、これまた劇場で予告を見たような気がするのに劇場公開されず、ネット公開だったとか。 主人公の唯一の友人、ゲーム仲間のロスコーは、ジェイコブ・バタロン。ハーレーに乗ってるジェイソン・モモア似の195cmの大男のはずが‥‥ネット、あるある。「スパイダーマン:ホームカミング」(Spider-Man: Far from Home・2017・米/チェコほか)で、ピーター・パーカーの友人を演じていた人。本作でも良い味出してる。 銃は、ラストの方で、いろいろ入れ替わったりしていたようだが、とりあえず銀行強盗が使うのは1911オートとM4系のショーティかと思ったらimfdbではAK系ショーティのSAR M14だそう。女性刑事がグロック、相棒の男性刑事がSWパフォーマンスセンターのM327とかMPっぽいR8風?黒い4インチくらいのリボルバー。罠だらけの家には、トロフィーがあったので水平二連はライフルだったろうか。ラストの方ではベレッタ92とP228っぽいオートに替わっていた。 公開10日目の初回、新宿の劇場は12〜13分前に開場。観客層はやはり中高年がメインで、若いカップルが1組いたくらい。すでに小さいスクリーンに落ちていて、最終的には128席に15〜20人くらいの入り。女性は4〜5人くらい。もっと入っても良い映画だと思うけどなあ。 入場すると間もなくシネマ・チャンネル。終わって、半暗になり、CM、非常口案内で誘導灯が消え、本予告へ。ラストに鬼滅のマナー、忘れ物注意、で暗くなって映写機のマスクが左右に広がり、シネスコ・フルで足元注意、映画泥棒、映倫続いてTOWAのロゴから始まる本編へ。 ちょっと日本語字幕が大きい感じがしたけど、気のせい? ラストに先天性無痛無汗症についてのコメントもあり。 |