2001年2月24日(土)「キャスト・アウェイ」

CAST AWAY・2000・米・2時間24分

日本語字幕翻訳:戸田奈津子/ビスタ・サイズ/ドルビーデジタル


FedEx(フェデックス)に勤めるチャック・ノーランド(トム・ハンクス)は、荷物の配達中、車が故障したとき子供の自転車を盗んででも配達したという伝説を持つほどのワーカホリック。恋人のケリー(ヘレン・ハント)も教授を目指して論文の準備中で、2人はなかなか会うヒマさえない。そんなクリスマス、ようやく2人は時間をとってプレゼントを交換し、チャックは「すぐもどる」と言って飛行機で飛び立っていった。その直後の事故で4年間も無人島で暮らすことになるとも知らないで……。

70点

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 重い。ヘビーだ。4年も無人島に流された男の毎日、そして1人残してきた恋人(しかも婚約指輪を贈ったと暗示するシーンがある)の存在。これが悲劇にならないはずがない。いくらトム・ハンクスが演じようとも、ロバート・ゼメキスが演出しようとも、断じてこれは悲劇なのだ。

 ただ、ハリウッド映画としては悲劇として終わらせたくなかったのだろう、ラストに希望を用意しているが、これはどう考えても物語から浮いていている。巧妙に伏線が張られてはいるものの、とってつけたような印象は免れない。ここをもっとじっくり描けばそれは免れるものの、今度は映画全体の印象が変わってしまう。

 つまり、描こうとするテーマを変更しない限り、この映画はあまり楽しいものではなくなるということだ。そして、大半が無人島という設定だから1人芝居で、次々事件は起きるがそれらは想像できる範囲であり、結構退屈。確かにトム・ハンクスの演技は素晴らしいと思うけれど、無人島で1人ぼっちは(それを見るのも)楽しいことではない。もし、楽しいのなら誰も無人島を脱出しないし、たぶんドラマも生まれない。

 トム・ハンクスは、噂どおり激痩せしてみせる(-25kg)。4年の漂流生活を身体で表現するために、おそらく一度わざと太り、それから体重を落としていったのだろう。漂流して最初に浜で裸になると、明らかにお腹が出ている。これは普通の中年なら当たり前で不思議のないことだが、ハリウッド・スターでどちらかというとやせ形のイメージのあるハンクスがお腹が出ているはずがない。おかしいなと思っていたら、4年後の姿で出てきたとき、激痩せしていてその理由がわかった。このギャップを大きくするために、きっと最初に太ったのだろうと。

 それでも、ゼメキスだから墜落シーンはリアルだし、突然屋根が破けて水がドットなだれ込むなど恐ろしいシーンも用意されている。笑いも散りばめられているし……でも、やっぱり2時間24分は長い。1時間半くらいは無人島なんだから。

 いずれにしろ、FedExはいいコマーシャルになったことと思う。全世界でたくさんの人々がこの映画を見るわけだ。たぶん全面的に協力しているに違いない。もしアカデミー賞を取ろうものなら歴史に残る。だからだろうか、FedExの創業者にして最高経営責任者(CEO)のフレッド・スミスが、本人役で出演までしている。

 同様に、無人島でチャックことトム・ハンクスを慰め、正気を保つための話し相手となるバレー・ボールの球が、スポーツ用品で有名なウィルソン製。チャックはこのボールに顔を描きウィルソンと名付ける。これまたいいプロモーションだ。劇場じゃ、これをモチーフにしたピンズやなんかが売っていたもんなあ。

 ラストに登場する女優がきれいだなと思って調べたら、ラリ・ホワイトというカントリー歌手。残念ながら既婚。惜しいなあ。

  それにしても、気になったことが2つ。空港での恋人ケリーとの別れ際、渡したプレゼントが何だったのか。結婚指輪のような雰囲気だったが、あとで全く触れられない。さも大事そうに扱っていたのに……。そして、チャックがモスクワ支社で檄を飛ばすとき「2分以上遅れるな。やがては郵便と変わらなくなる」と時間を重視する姿勢が描かれていながら、たとえば無人島でいままで自分が時間に縛られていたことに気付くとか、そういう受けがないこと。

 あそこまで印象的に大事そうに描いた以上は、落とし前はつけてもらいたい。

 公開初日の初回、55分前に着いたら10人ほどがすでに並んでいた。男女比はほぼ半々。老若比は6:4でやや老が多め。老若ともカップルが目立つ。

 45分前になると、前売り券の列が20人、当日券の列が10人に。25分前に開場。初回のみ全席自由で、真ん中の席から埋まっていった。ちゃんとアナウンスで繰り返し全席自由をアピールしていたので、良心的だと思う。それでも、15分前でようやく4割の埋まり具合というのはいかがなものか。

 それにしても予告編なしの本編からスタートというのは好きではない。CMがあって、予告編があって、もったいを付けてから本編が始まってくれないと、気分が盛り上がっていかないではないか。せめて予告編だけでも……。どうしてこういう上映をするのだろう。理由がよくわからない。

 最終的に1,044席の6割ほどが埋まった。初日の初回にしてはまあまあなのか、話題作にしては少ないのか、判断は難しいところだ。ただ、今後口コミによって観客数が増えていくとは思えない。たぶん見た人の誰も他の人に勧めないだろうから。うーん、なんだかなあ。

 ドルビー・デジタルの“ヘリ”版デモあり。


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