2001年7月14日(土)「パール・ハーバー」

PEARL HARBOR・2001・米・3時3分

日本語字幕翻訳:戸田奈津子 字幕監修:床井雅美/シネスコ・サイズ(レンズ)/ドルビーデジタル・dts・SDDS

1923年、幼なじみのダニー(ジョシュ・ハーネット)とレイフ(ベン・アフレック)は、ともに飛行機が大好きな子供で、いつも一緒に遊んでいた。
1941年、アメリカ陸軍航空部隊に入隊した二人はすぐに頭角を現す。レイフは看護婦のイヴリンと出会い恋に落ちるが、やがてヨーロッパの戦場へ志願して転属、ダニーとイヴリンはハワイへ転属することになった。

71点

1つ前へ一覧へ次へ
 まず第一印象は「長い」。真珠湾まで1時間、真珠湾が1時間、その後のリベンジが1時間。こんなに必要だったんだろうか。

 うーん、絵はすごいんだけど(まさに劇場で見るのに最適!!)、感動の場面は全体ではなく、ごく一部だけで、戦争の怖さがちっとも出ていない気がした。アクロバティックなカメラの動きはリアリズムとは一線を画すもので、ズバリ「これは戦争ゲームだ」と言っている気がした。

 それにしても、今なぜ真珠湾なんだろう。宣戦布告なき戦争を仕掛けた日本が、どんどん製品を輸出してアメリカ経済に脅威を与えているからか。いまのアメリカにとって日本はちっとも脅威ではないはずだ。好調なIT関連の経済的かげりで、自信が欲しかったのか。よくわからない。あるいは教科書問題などが絡んでいるのか。そっちがそう言うなら、こっちもこう言うという……。ただ、絵だけはスゴイけど。

 あえて理由を探すと、スピルバーグの「プライベート・ライアン(Saving Private Ryan・1998・米)」がヒットしたから、あのヒットの勢いを借りてもう一方の第二次世界大戦の主戦場であった太平洋戦線の一番のエピソード、真珠湾奇襲攻撃を描こう、ということではなかったか(「プライ……」が3時間9分だから、ますますそんな気がしてくる。あちらは長いという気はしなかったが……)。軍曹を演じたトム・サイズモアが、そのまま軍曹役で出ているし。

 また、戦艦アリゾナが沈むところを描けるので、ジェームズ・キャメロンの大ヒット映画「タイタニック(Titanic・1997・米)」のヒット要因も盛り込むことができるから、大ヒット間違いなしだと……。どうもこの映画を見ていると、そんな気がしてきてしようがない。ただ、絵だけはスゴイけど。

 この映画は、一言でいえば、アメリカは突然一方的に仕掛けられた暴力に屈せず、ちゃんとやり返したと。そして勝利を手にしたと。

 「アルマゲドン(Armageddon・1998・米)」と同様に、事実というのはストーリーを優先させるために軽視されている。真珠湾の後、いきなり1942年の4月18日のB25ミッチェルによる東京空襲(ハッキリとは言っていないが、アメリカ版では言っているらしい)となるが、これはいかがなものか。しかも工場と基地しか狙わないと言っている(実際には東京、川崎、横須賀、名古屋、神戸など基地や工場などがある町が爆撃された)。日本軍は真珠湾で容赦なく病院に襲いかかるのにだ。アメリカ版では明らかに赤十字をつけた車両が爆撃されるそうだ(実際に日本軍は赤十字のマークを付けた建物を攻撃したという。町も爆撃され、3歳の幼児を含む50名ほどが死亡した)。

 東京空襲は天皇が住む東京に打撃を与えるためとも言われ、飛来した16機のほとんどが東京に爆弾を投下した。しかも投下された爆弾は木造家屋の多い日本の住宅を破壊するための焼夷弾だった。

 まあ戦争のやりかたにきれいも汚いもないと思うが、いまこの時代にこんな一方的な描き方でいいのかとは思う。真珠湾攻撃に関しても、いろいろな事実が発見されているというこの時代に。ただ、絵だけはスゴイけど。

 細かなところでも、気になるところがたくさんあるが、言い出すときりがないのでやめておこう。とにかく日本側のシーンはすべてヒドイ。戦国時代のような屋外での作戦会議や、飛行機から子供に「逃げろ」なんて叫ぶあざといシーン……。アメリカ版ではこれらはないらしい。つまり、これらはプロデューサーと監督が日本に対して抱いているイメージそのままなのだ。そんなヤツらを儲けさせたかと思うと腹が立つ。ただ、絵だけはスゴイけど。

 ラブ・ストーリーはオマケ的なもので、目新しいことは一つもない。ただマイケル・ベイだからその一部分で感動はさせられる。それにしても、ひどい女もいたものだ、ということにはなるだろう。ハッキリとどちらの男にも愛していると言うのだから。演じたケイト・ベッキンセールはとても美しい女優だが、この役をやったために印象はひどく悪い。スポット・ライトは浴びたが、プラスになったかどうか。

 プロデューサーと監督が、「これはラブ・ストーリーであって、戦争を描いたものではない」と日本向けに言ったそうだが、日本以外では戦争映画として封切られているわけだし、実際にあった戦争を描く以上、歴史の事実を無視してはいけないと思うけどね。

 まあ省略や大げさな表現ではあっても、米国側から見た事実なんだろう。撮影のためにマイケル・ベイ監督は、当時パール・ハーバーにいた兵士の生き残りの人々に実際に会っているのだから。

 たぶん、曳光弾(トレーサー)の表現なのだろう、航空機から地上に打ち込まれる弾丸が白い煙の尾を引いているのは素晴らしかった。緊張感が出るし、画面に立体感も生まれる。

 戦闘シーンの音響効果も、ゲーム感覚映画だからか、絶妙にデザインされていた。戦闘機の音や銃弾の飛翔音が、後ろから前へとクリアーに移動していく。古い劇場にしてはかなりいい音だと思う。

 公開初日の早朝初回、65分前に着いたらたったの4人。あれれ、前評判がすごかったんじゃなかったっけ。60分前になって10人ほどに。オヤジが2人、中年の女性1人、あとはすべて20代前半か。

 15分前になってようやく開場。新宿のこの劇場は話題作でも開場が遅いので有名。10席×5列の指定席と、10席×1列ぴあリザーブ・シートも初回は全席自由で、最終的に763席の4割ほどしか埋まらなかった。男女比や年齢層は10人の時とほとんど変わらない。やっぱ、年輩の人はこんないい加減な映画、見ないだろうなあ。


1つ前へ一覧へ次へ