2001年10月14日(日)「ROCK YOU!【ロック・ユー!】」

A KNIGHT'S TALE・2001・米・2時12分

日本語字幕翻訳:松崎広幸/シネスコ・サイズ(マスク)/ドルビーデジタル・dtss・SDDS

〈米PG-13〉
14世紀のヨーロッパ。平民、貴族ともに人気のあったスポーツ・イベントは馬上槍試合だった。その出場者の1人、エクター卿は決勝戦を前にあっさりと死んでしまった。従者の3人、ウィリアム(ヒース・レジャー)、ローランド(マーク・アディ)、ワット(アラン・テュディック)は賃金をもらう前で飢えていたことから、ウィリアムを身代わりで出場させ、優勝してまんまと賞金を手に入れた。気をよくした3人は馬上槍試合で金を儲けるため、平民では出場できないことから架空の貴族ウルリックをでっちあげ、特訓を始める。

〈痛恨の2週間上映。10月19日まで〉

76点

1つ前へ一覧へ次へ
 日本のタイトルが酷いので、見に行くべきか迷ったが、予告編を見て見ることに決めた。原題は「騎士の物語」。かなり本格的な中世騎士物語なのだ。それがロック・ユーとは。確かに始めと終わりの曲はクィーンの“We will rock you”と“We are the champions”で、うまく溶け込まされていたとしても、タイトルにまで使うことはないだろう。日本語タイトルがこうやってひねってあると、きっとつまらないからタイトルで客を呼ぼうとしたんだと思ってしまう。

 しかし、本作はおもしろい。軽いコメディ・タッチながら、このまんま正面からアクション時代劇として勝負してもまったく問題なし。むしろ、SFばかりもてはやされる昨今、中世の冒険談として正々堂々勝負すればいいのだ。「決闘血が上がる」というダジャレとか「究極のガチンコ対決」とか「新しい世代のための“ノレる”エンターテイメント」なんて言われると、いいかげんな中途半端時代劇を思い浮かべてしまう。やれやれ。

 とにかく、14世紀の馬上槍試合は今のF1みたいなもんだったと。人々は熱狂し、貴族の中の選ばれたものだけが出場できる名誉ある試合だったと。これを正統的に時代考証をきっちりとした上で、ちょっとアレンジして極めて映画的に描いてみせる。

 冒頭、興奮する観客たちが歌うのはクィーンの“We will rock you”で、舞踏会の曲はいつの間にかデビッド・ボウイの“Golden Years”になる。観客席ではウェーブが起こり、ヒロインの衣装は時代的に合わないものも取り入れられ、男たちの衣装は1972年のザ・ローリング・ストーンズのツアーのものが参考にされているという。これらがまったく違和感がなく溶け込んでいるのだ。その基本は、押さえるべきポイントの時代考証はしっかりしているということ。すべてがいい加減で現代とちゃらんぽらんなわけではない。

 画面フォーマットはマスクながらシネスコ・サイズ。馬上槍試合は胸くらいの高さの作を中央にはさんで、数十メートルの距離を左右から走ってきて、槍を腰から頭までのどこかに突き当てるというものだから、まさにこの横長の画面がピッタリ。身長の倍はあろうかという木製の長い槍の先端には金属のチップが付けられていて、致命傷にならないようにしている。これを当てるわけだ。そして、その槍は見事に砕け散る。これがスゴイ。迫力満点。スピードとパワーが炸裂する瞬間だ。これは劇場で見ないと迫力半減まちがいなし。映画はこれをスローモーションでじっくり見せてくれる。

 映画の中でも語られるが、馬上槍試合のルールはつぎの3つ。
  ●腰から首の間を突いて、槍が砕けたら1ポイント
  ●頭の兜を突けば2ポイント
  ●相手を落馬させると3ポイント(相手の馬をもらえるらしい)
 これを3回繰り返して、ポイントの多い方が勝ち。ボクは初めてルールがわかった。映画って勉強になるなあ。

 主演はローランド・エメリッヒ監督の「パトリオット(The Patriot・2000・米)」で、主演のメル・ギブソンの長男を演じた二枚目俳優ヒース・レジャー。いい味を出している相棒たちは、小太りのローランドに「フル・モンティ(The Full Monty・1997・英)」のマーク・アンディ、気が短い赤毛のワットに「パッチ・アダムス(・1998・米)」のアラン・テュディック。

 そして、途中で合流する実在の文筆家、「カンタベリー物語」のジェフリー・チョーサーをエキセントリックに演じて強い印象を残すポール・ベタニーがいい。全裸で熱演してるし。

 こういう物語で重要なのは、とにかく憎たらしい悪役。これにピッタリなのがアマダー卿を演じる「ダークシティ(Dark City・1998・米)」のニヒルなルーファス・シーウェル。

 ヒロインより目立っているのが、独創的な女性鍛冶屋ケイトを演じる「タイタス(TITUS・1999・米)」で手足を切り刻まれるタイタスの娘を演じた美人のローラ・フレイザー。NIKE似のスワッシュを2個鎧に刻印するところが笑わせてくれる。

 決して夢をあきらめないこと、スポ根、友情、献身的な愛、親子の絆、歌と踊り、おもわずニヤリとさせる粋なウィットとギャグ……てんこ盛りの内容1本に集約した。監督はブライアン・ヘルゲランド。もともとは脚本家で、「L.A.コンフィデンシャル(L.A. CONFIDENTIAL・1997・米)」や「ポストマン(Post 1997・米)」の脚本を手がけたブライアン・ヘルゲランド。「ペイバック(Payback・1999・米)」ではメル・ギブソンと、ヘア・メイクを経てTVの監督になったポール・アバスカスに、途中から監督権を奪われたひと。本当は凄い実力があったのだ。本作では、監督の他にプロデューサー、脚本を兼任している。よほど作りたかった企画だったのだろう。

 公開2週目の初回、45分前に着いたら誰もいない。35分前になって親子らしい女性が2人。20分前に開場したときは、それでも20人くらいの行列になったいた。

 だいたい大学生から老人までといった感じで、男女比は最初は女性がやや多かったものの後にほぼ半々へ。最終的に有楽町の古い306席の劇場の1/3が埋まった。この劇場は前の席の人の頭が気になるので、これくらいの混み具合の方がストレスがなくていい。
 驚いたことに、客の入りが悪かったらしく、たった2週間で上映打ち切り。あとは次回までの間「千と千尋……」がつなぐとか。しかし、こういう映画は口コミで次第に人気が出ていくタイプだから、もう少し長く上映していると徐々に客が増えていったとはず。残念だ。


1つ前へ一覧へ次へ