日本語字幕翻訳:金丸美南子/ビスタ・サイズ(上映1.66)/ドルビーデジタル
コン(パワリット・モングコンビシット)は耳が聞こえない殺し屋。指令はいつも連絡係のキャバレーの女、オーム(パタラワリン・ティムクン)から写真と金を渡されるだけ。何の説明も求めず仕事を確実にこなすコンはマフィアの人気者だったが、ある日、薬屋で美しい少女フォン(プリムシニー・ラタナソパァー)に一目惚れする。
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いい。これがタイ映画か。画質、構図、音質、内容などあらゆるもののクォリティが高い。予算のない邦画よりずっといい。世界に通じる完成度。スゴイ。 何か香港映画の雰囲気があるなあと思ったら、どうやら監督のオキサイドとダニーのパン兄弟監督は香港出身。1992年からタイに移ったらしい。ダニーの方は香港に戻って「風雲ストームライダーズ(風雲之雄覇天下・1998・香)」の編集を手がけているという。なるほどなあ。 最近はハリウッドもどこも兄弟監督が大活躍している。最近作「フロム・ヘル(From Hell・2001・米)」がヒューズ兄弟の監督作品だし、「マトリックス(Matrix・1999・米)」のウォシャウスキー兄弟、「ミラーズ・クロッシング(Miller's Crossing・1990・米)」のコーエン兄弟(2人とも監督じゃないけど)……などなど。 アイディアが2倍出るし、プレッシャーや大変な仕事は半分になるし、良いことずくめってか。唯一の問題は2人の意志疎通というか、意見統一をどうはかるかってこと。幸い兄弟ならそれがしやすいってわけ。それが簡単だったら、他人同士の共同監督がもっとやられているはずだもんなあ。アニメ以外ほとんど共同監督というケースはない。オムニバスを別として。「トラトラトラ!(TORA! TORA! TORA!・1970・米/日)」は1つの話をそれぞれの立場から描くというコンセプトだったから、これも例外だが。 おそらく、タイ映画と言われなければ、そして話される言葉がタイ語でなかったら、香港映画と思うような出来とレベル。どんどんアジアの他の国々は日本を超えて世界へ出ていくような気がする。出演者もほとんどタイっぽくなしい。普通に美男で、普通に美女だし。ストーリーも日本人にもわかりやすいものだし、たぶんそのまま世界に通じる内容だ。 特に良いのが絵作り。その場にあるものと照明、時には意図的な照明を使うことによって、実に美しい画面を作り上げてみせる。映画はこうでなくちゃ。ちょっと光の使い方が「始皇帝暗殺(荊軻刺泰王・1998・中国/フランス/アメリカ/日本)」のチェン・カイコー監督に似た感じでもある。いまの日本に、こういう監督は少なくなったような気がする。もちろん音楽の使い方もうまい。ビートの利いた曲は絵と一体化し、心地よささえある。 とにかく一度見ることをおすすめしたい。タイだ、韓国だ、香港だ、台湾だのと言っているのが無意味だとわかるだろう。スピルバーグ監督は、映画を判断する時は音を消して見てみるという。それでちゃんと理解できるなら、それは映画らしいいい映画なのだ。映画の撮影に入る前、スピルバーグ監督は「七人の侍」をよく見るらしい。 タイという国は一般市民でも銃器を所持できるのかわからないが、殺し屋話だから銃はたくさん登場する。もともと精度の低い弾丸ばらまき型のサブマシンガンにスーコープを付けて狙撃するのはどうかと思うが、他はいい。 定番のベレッタM92(どうやらM92SBあたりらしい)、SIGザウエルのP226、Cz75。ほかにもリボルバーもいくつか登場する。たた狙撃に使ったサブマシンガンがなんのモデルなのかわからなかった。くやしい。 ラスト、雨がスローモーションになって、丸い水滴がゆっくりと舞う。とても感動的だが、この作品がオリジナルというわけではない。私の記憶が確かならば、サンドラロブロックとベン・アフレックが競演した「恋は嵐のように(Forces of Nature・1999・米)」が超スロー雨粒を使った最初なのではないだろうか。 最近では浜崎あゆみの「Dearest」や中島みゆきのプロジェクトX主題歌「ヘッドライト・テールライト」のミュージック・ビデオ、松嶋菜々子が出ているエンヤの曲をフィーチャーしたアサヒ「生茶」のCMにも使われている。 公開初日の2回目、12〜3分前に着いたら、ロビーには30人くらいの人がいた。思ったより人気があるようだ。偏見を持たずに見ようという人たちか、物珍しさからか、TV-CMで興味を引かれたのか。 最終的に50人くらいの入りは寂しかったが、だいたい男女半々で、下は高校生くらいから上は初老の人まで。10代から20代前半とおぼしき人が全体の3割ほど。 アバンタイトルでモノクロの暗殺シーンが描かれ、床に倒れた男から血が流れ出すとカメラがそれを俯瞰で追い、真っ赤なタイトル文字が現れるというカッコいい演出。監督自身が演出したのだろうか。黒い血はどんどん流れ続け、次々とキャストやスタッフの名前が出てくる。うまいなあ。そして、その黒い血がアップになって画面いっぱいになるとネオン瞬く繁華街の夜の闇へとつながって、物語が始まるという趣向。 映像の質も高く、コントラストの高い抜けの良い絵。音質も、ドルビーデジタルで、非常にクリア。日本映画を超えてるなあ。 |