ビスタ・サイズ/dts
松原淑美(黒木瞳)は離婚調停の係争中。一人娘の5歳の郁子(菅野莉央)の養育権を巡り、淑美は定職に就き、住む家も確保しなければならなかった。あわてていた淑美は、ちょっといわくありそうなアパートだったが、管理人が常駐しているのに安心して入居を決める。思いがけず就職も決まり、母子2人の生活を始めるが、入居の日から奇妙な出来事が。やがて、2年前、小さな女の子が行方不明になった事件が未解決なままだということを知る。そして、その子の一家が住んでいたのが、真上の部屋だったことも知ることになる。
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うーん、うなる。一体この映画はなんだったのか。単に人を怖がらせるため誰の映画なんだろうか。 確かに怖い。なにしろ5歳の娘、郁子を演じる菅野莉央ちゃんでさえ、実際はどうか知らないが、この映画ではいるだけで怖い。なんという撮り方なんだろうか。 さすが、ムチャクチャ怖い「女優霊(1996・WOWOW/バンダイビジュアル)」を撮った監督だけのことはある。しかし、この映画では何も解決しない。離婚問題もあれだけ取り上げながら、はっきりさせないし、不動産屋がどう責任を取ったのか、何もしない管理人ものらくらごまかすだけで、困っている母子に協力しようとさえしない。だいたい励まして、相談に乗るといった弁護士は、その後どうしたのだ。何のために出てきたのだ。住んでいるはずの隣人もいなければ、とにかく不自然だらけ。すべては、母子(観客)を怖がらせるために存在する。その中であがいた母子は問題が増えただけ。だったら、あの大騒ぎは何だったのか。 しかし、とにかく怖いのである。何か起きそうな、不安は極限まで高められる。そして、何も解決せず、欲求不満を残す。まさに尻切れトンボだった「女優霊」を彷彿とさせる。怖さに置いては「リング(1998・リング製作委員会)」を超えているかもしれない。私自身は本作の原作と同じ鈴木光司の「リング」の小説の怖さにたたきのめされた口だから、かけ離れていた映画版はあまり好きではない。「ハリー・ポッターと賢者の石(Harry Potter and The Philosopher's Stone・2001・米)」に見るように、大ヒット作はヘンに工夫せず、ストレートに原作をなぞって撮った方がいいと思う。多くの人が原作を読んでしまっているのだから。 監督、中田秀夫は16ミリで撮ったホラー「女優霊(1996・WOWWOW/バンダイビジュアル)」で注目され、「リング(1998・リングらせん製作委員会)」で大ブレイク。もともとは日活ロマンポルノの出身だという。昔のピンク映画は、本番ではないだけに演技力と演出力が要求され、アメリカのホラー映画と一緒で、実力のある監督が育ちやすかった。今はすっかりビデオとDVDの時代になってピンク映画もなくなり、本番そのものの、演技とは呼べない代物に人気が集まっているが。 公開2日目の初回、混むかと思ったが、45分前で待っていたのはたった3人。私以外20代前半という感じ。30分前に開場したときで、どうにか10人ほどの行列に。オヤジ2、若い女性1、あと25歳以下の若い男性といったところ。 最終的に新宿の指定席なし劇場586席の3.5割ほどが埋まったただけ。「リング」に続いて早くもハリウッドでのリメイクが決まったとか言われている割には、人が入っていない。すがしかおの曲は先行してヒットしているんだけど……。 下は10歳くらいから、上は初老の人までと幅広いようだが、実際はほとんど中学生。 老若比は2対8ほどだったろうか。後ろの席に座っていた中学生の女の子の二人連れが、めちゃくちゃ怖かったと話していた。確かに。でも、原作を読んでいて、全然ちがうじゃん、とも言っていた。 この劇場はJBLのスピーカーを使っている割には抜けの悪いこもった感じの音がする。デジタル対応なんだろうか。だとしたら……。 |