日本語字幕:写植、下/翻訳:石田泰子/シネスコ・サイズ(レンズ)/ドルビー
〈米R指定、日本R-15指定〉
1888年、イギリスはロンドン。1人の娼婦が、喉をかき切られ、性器をえぐられて死んだ。阿片で事件のビジョンを見ることができるという能力を持った敏腕のアバーライン警部(ジョニー・デップ)が捜査に当たることになる。彼は、医学の知識があること、庶民は口にできない高級品のブドウの食べかすがあったことから、犯人を上流階級のものだと推定するが……。 |
19世紀末の貧富の差が激しい時代、退廃、暴力、不正、隠匿、セックス、血、闇、権力……。おお、何というダークな世界。監督はMTVで輝かしい経歴を持つアランとアデルのヒューズ兄弟(双子!!) アメリカ映画とは思えないほど陰気で、ヨーロッパというか古いロンドンらしい雰囲気がすばらしい。ただ、こういう不景気な沈滞の時代に、こういう物語はあまり見たくない気もするが……。 有名な実話の未解決事件に、非常に説得力のある新説を提示し、わかりやすいラブ・ストーリーをサブ・プロットに使いながら、どんでん返しまで入れた構成はとんでもなく素晴らしいと思うが、今の日本には向いていないような。アメリカはそうでもなかったのだろうけれど。 ジャック・ザ・リッパー、切り裂きジャックを扱った映画は実に多い。その事件をメインにしたものでないなら、それほど山ほどある。エラリー・クィーンと対決したり、シャーロック・ホームズと闘ったり、狼男まで絡んだり……。SFでは有名な「タイム・アフター・タイム(Time After Time・1979・米)」があるし。その模倣犯がテーマになっている作品さえある。もちろん日本映画にも。出ていないジャンルがないってくらい、超有名人。なのに誰かはわからない。事件は収束したが、未解決なのだ。 それは1888年8月31日に始まった。そして11月9日までの2カ月間に、娼婦ばかりが5人惨殺され、突然、終わる。結局、犯人は捕まっていない(詳しくは「英国ファンのページ」の豆知識へ。フロム・ヘルの公式HPも詳しいが、とにかくわかりにくくて遅い)。その大事件の真相はこうだったのではないか、と言っているのが本作なのだ。 陰気なジョニー・デップは、阿片中毒のこの役にピッタリ(ファンの人、ごめんなさい)。半覚醒状態でビジョンを見るという超自然現象というか超能力を、まじめに説得力を持って見せてくれる。相手の娼婦役の「オースティン・パワーズ デラックス(Austin Powers the Spy Who Shagged Me・1999・米)」のヘザー・グラハムも体当たり演技で胸まで晒している。最新作チェン・カイコー監督のR指定映画「キリング・ミー・ソフトリー(Killing Me Softly・2001・英)」ではもっとスゴイらしいけど。 といいつつも、スゴイのはHシーンではなく、殺害場面。ナイフが喉にくい込み、血が流れ出す。気の弱い人はここだけ顔を背けた方がいい。当然アメリカではR指定なのだが、日本ではなぜかR-15止まり。いいのかなあ。そんなに若い観客はいなかったけど、18禁の方が良かったのでは。少年犯罪の増加を考えると、暴力にゆるい日本の規制に疑問がわく。Hよりも暴力でしょう。こんな体質がスポーツの鉄拳制裁などを容認していくんだろうなあ。 映画「ザ・スカルズ(The Skulls・2000・米)」と似た組織として描かれているフリーメーソンなど、この脚本は実によく練られているし、説得力がある。 その脚本を手掛けたのは、ハラハラがうまい「バーティカル・リミット(Vertical Limit・2000・米)」や「マッド・マックス2、3(Mad Max Beyond Thunderdome・1985・豪/米)」のテリー・ヘイズと、じわじわ感動を描く「レ・ミゼラブル(Les Miserables・1998・独/英/米)」や「フィアレス(Fearless・1993・米)」のラファエル・イグレシアス。ただし原作があって、それはアラン・ムーアとエディ・キャンベルのコミック。うーん、これがコミックかあ……。 それにしても、すでにこの時代、ロンドンにはいろんな人種があふれていたというのがおもしろかった。 公開初日の初回、ジョニー・デップだから混むかもしれないと50分前に着いたら、誰も並んでいない。どうした、銀座の劇場は人気がないのか、と思ったら、逆にたくさんの人が並んだのですでに開場していたのであった。なんと、冬はこういう対処がありがたい。さすが、日比谷映画。 場内にはいると、50人以上の人がいた。男女比は3.5対6.5という感じで、女性の方が多い。しかもほとんど若い女性。やっぱりね。ババアにら近い女性もいたが、オヤジは少ない。ふーむ。 初回のみ全席自由で、中央の10席×6列とその直後の列のぴあ8席から埋まっていった。30分前に5割を超え、最終的に648席の9割が埋まる人気の高さ。ジョニー・デップ強し。老若比は8対2で圧倒的に若い女性が多かった。 初日プレゼントがあって、女性だけが(年齢を問わず、昔女性だった人も)ジョニー・デップのキャビネ・サイズ生写真をもらっていた。いいなあ。ちぇっ。 |