日本語字幕:手書き、下/翻訳:松浦美奈/シネスコ・サイズ(レンズ)/ドルビーデジタル・dts
(仏-12指定、日本PG-12指定、米R指定)
1764年、フランスの片田舎、ジェヴォーダンで子供や女性ばかりが惨殺される事件が発生した。その傷口から、狼などの大型の獣ではないかと推測された。しかし、大規模な狼狩りをしても、同様の被害が後を絶たないため、事態を重く見た国王ルイ15世直々の命令によって博物学者のフロンサック(サミュエル・ル・ビアン)が派遣されることになった。そして彼のそばには、常に影のようにつきそう謎の男マニ(マーク・ダカスコス)がいた。
|
「クライング・フリーマン(Crying Feeman・1995・日/仏)」のクリストフ・ガンズ監督、渾身の力作。前作がそうだったように、監督は日本が好きらしく、本作でも日本の匂いがぷんぷんする。 劇画タッチのSFチック歴史活劇が受け入れられる人はおもしろいはず。実話がベースだけに、リアルで重厚な史劇を期待する人には、違和感があるかもしれない。ボクはおもしろかった。 登場人物たちはみんなフランス語を話すけれど、あえて言えば無国籍な感じもする。設定は実話であり、フランス革命が背景にあっても、やってくる2人の男たちは西部劇の風来坊のようだし、繰り出す技はカンフーで、なぜかニンジャのようで和風が漂う。これがイヤだという人もいるかもしれない。 とにかく絵がキレイ。映画とはまず絵なのだから、これは重要だ。美しいフランスの田舎の風景をみずみずしくとらえ、時にモンスターの主観となり、ときにバーズ・アイ(鳥の目)となり、物語を斬新なアングルで切り取ってゆく。しかも、時間の進行を自在に変化させ、流れるようなスムーズなカメラの移動が、突然加速したり、突然スローモーションになったりする。独特のリズムが、作品を破綻させずに、実に有効に使われている。ここぞというアクション・シーンなど、ハッと息をのむほど新鮮に見えてくる。結構アヴァンギャルドな感じなのに、必要なところは重厚に撮ってる。カメラマンはデンマーク出身のダン・ローストセンという人。オーレ・ボールネダル監督の「モルグ(Nattevagten・1994・デンマーク)」や「ミミック(Mimic・1997・米)」を手掛けていて、アクション・ホラーはお手の物だったにちがいない。 そして、そのローストセンが撮った女優たちの美しいこと。もちろんガンズ監督の演出でもあるのだろうが、美女がますますキレイに写っている。貴族の娘マリアンヌを演じるエミリエ・デュケンヌ(1999年カンヌ映画祭で主演女優賞受賞)も、謎の娼婦シルヴィアを演じる「マレーナ(Malena・2000・伊/米)」のモニカ・ベルッチ(なんと、マリアンヌの兄ジャンを演じているヴァン・カッセルの奥さん)も、人形のように美しい。 豪華な衣装が、またそれに輪をかけているわけで。詰め襟でちょっと軍服風にした衣装なんか、たまりませんな。手掛けたのはドミニク・ボルグという人で、「カミーユ・クローデル(Camille Claudel・1988・仏)」なんかを手掛けている。 主役のフロンサックを演じるサミュエル・ル・ビアンは、日本ではあまり知られていない。出演作がミニ・シアター系でしか公開されていないからで、一度に公開された三部作のひとつ「トリコロール/赤の愛(Trois Couleurs : Rouge・1994・仏/ポーランド)」に、主演ではなく共演で出ていたという。これは弱いなあ。フランスでは有名な人なのかもしれないけど。 いいのは、かつて日本車のCMで浪人のカッコして刀で車を切っていたヴァンサン・カッセル。いい味出してます。なんか不思議な存在感がある。それに、アフリカで猛獣によって片腕を失ったという設定なので、貴族として持っているべき銃も特注で、片腕でも正確な射撃ができるよう、からまったツタのようなストックを持つもの。 それでも、一番目立っているのはガンス監督の前作「クライング・フリーマン」で主役を務めたマーク・ダカスコス。ハワイ生まれだというから、少しは日系の血が流れているのかもしれない。そしてカンフーがうまい。「ロング・ライダーズ(The Long Riders・1980・米)」のようなマント姿もカッコいいが、モミアゲだけはなくさないでほしかった。中国系という設定なので、弁髪のイメージから来ているのか。とりあえずはモホーク族ということになっている。時代的にはまさに「ラスト・オブ・モヒカン(The Last of The Mohicans・1992・米)」や「パトリオット(The Patriot・2000・米)」の時代であり、アメリカ独立に唯一援軍を派兵したのはフランスなのだ。この辺を加味しながら本作を見ると、この辺の設定にうなずけるのだ。といって、知らなくてもなんの支障もないが。 公開2日目の初回、フランス映画好きが来るだろうからと用心して55分前に付いたら、誰も並んでいない。そうか、フランス映画好きはアート系なんだ。エンターテイメント系には来ないんだ。 40分前に開場したときでもボク1人。ありゃりゃ、これはいよいよ不安だ。大丈夫か、こんなことで。2週で打ち切りなんて……。 30分前頃から、ようやくポツリ、ポツリと人が来だした。オヤジ3人、オバサン1人……、20代前半の若い男性4人組、女性の親子……最終的には272席の4割しか埋まらなかったが、まあまあというところかも。新宿の劇場は床がフラットで前の席の人がじゃまになるので、これくらいの混み具合がちょうどいい。 やはりややオヤジの方が多く、男女比は7対3で男性の方が多かった。 |