ビスタ・サイズ/ドルビー
時は江戸時代のある時、上州の片田舎を飛び出して江戸に向かった助六(真田広之)は、途中で仇討ちの助太刀を頼まれ、思いもしなかった大金を得る。それがクセとなり次から次へと助太刀をすることになり、いつしかそこそこの金も貯まり、母の墓がある田舎へ戻る決心をする。7年ぶりに故郷へ着くと、幼なじみの太郎(村田雄浩)が番太(下っ端役人)として町を取り仕切り、今日、ここで仇討ちがあるという。
|
おもしろい。とても78歳の老人が作った映画とは思えないほど、はつらつとして元気があってテンポの良い映画。岡本喜八節炸裂だ。久々に日本映画らしい時代劇を楽しんだ。これが映画でしょ。これが痛快時代劇でしょ。(なんか東映の「バトル・ロワイアル(Battle Royale・2000・東映)」の深作欣二監督72歳と通じるものがあるなあ) まず何よりヌケが良くて色がリッチ、メリハリのある絵が良い。ちゃんと空が青いし、照明がきちんと当てられた映像が美しい。なんだ、日本映画だってちゃんとやろうと思えばできるんじゃない。色の浅い日本映画は、ハリウッドでよく言われるプラクティカル・ライトをやろうとしているのかもしれないが、あちらはちゃんと照明はしているのだ。それとも予算がなくて照明を当てていないのか……。とにかく本作は光を意図をこめて使っている。映画はこうでなくっちゃ。 画面の構図も計算され尽くしている。黒沢監督のように、シネスコではないものの、人物が重ならずに自然と画面を埋め尽くしている。あるべき場所にバランス良く配されている。自然なようで計算され尽くした配置。いいなあ。 話が本線1本で、単純かつ、ストレートなのは、もともと監督自身が生田大作のペンネームで書いた原作がそうなのか、TVドラマ化されたときからそうだったのか知らないが、どうも予算がなかったためという感じはした。これが惜しい。 一言でいえば痛快、西部劇調時代劇。ここまで撮れる監督なんだから、誰かもっと大予算で作らせてあげればいいのに。スケールも小さく、話も広がっていかず、いかにも予算がないという感じが観客にも伝わってくる。 もちろんセコイとかケチ臭いというのではない。予算不足を補ってあまりあるものはあるのだが、あまりにも……。 とにかく出演者が豪華。冒頭でほとんどカメオ出演に近い顔見せが、竹中「Shall we dance」直人、嶋田「帝都大戦」久作、天本「死神博士」英世、佐藤「独立愚連隊」允……などなど。数秒しか出ていなかったり、ほとんどセリフさえないんだから驚く。 しかもアクションの岡本監督だけに、ただの時代劇では終わらない。銃がちゃんと出てくるのだ。しかも単なる火縄=種子島だけではなく、関八州回り(関東取締出役)の個人的な護身用兵器としてスペンサー・ライフルが出てくるのだ。 この銃は1860年に開発されたものだから、江戸時代末期にはあってもおかしくない。しかし、この銃を使おうと思うところが他の監督とは全く違うし、しかもちゃんと動くモデルを使っているのだ。特注したとしか思えない。78歳の老人がねえ。 山下洋輔のジャズ系の音楽は意外に時代劇にもマッチして、特にオープニング・テーマが良かったが、2曲ほどまったくジャズそのものという曲があり、さすがにこれには違和感があった。うーん、いかがなものか。 公開2日目の初回、時代劇だから混まないだろうと高をくくって30分前に着いたら、ちょうど開場したところ。前売り券の列に15人くらい、当日券の列に10人ほどが並んでいる。あら、結構、人気あるらしい。 男女比はほぼ半々で、ほとんどが中高年以上。まあ時代劇だから、これは当然か。一部の女性に若い人たちも見られたが、もともと女性の方が男性より映画をよく見るからだろう。若い男性は1ケタほど。 銀座の劇場は指定席のない劇場だと思っていたのに、この映画に限ってなぜか中央通路付近の3席だけ白いカバーが掛けられ、指定席になっていた。なんじゃ、こらー? ここの劇場はどの席に座っても前席の人の頭が気になるところなので、ハッキリ言って見やすい席などない。ということは座席確保だけのためか。しかし言っておくと、平坦な床の劇場の場合、中央寄りの方がスクリーンは見にくい。最近は字幕が下に出るので、それを考えると中央から3〜5席サイドに寄った席の方がベスト・ポジションになるので、念のため。 最終的に306席の9割半が埋まってしまった。素晴らしい。さすが岡本喜八監督。男女比はほぼ半々だったが、年齢層的には老若比が8対2と圧倒的に中高年が多かった。小学生くらいの子供を連れた家族連れもいたことにはいたが。 |