日本語字幕:手書き縦、石田泰子/ビスタ・サイズ/ドルビーデジタル
タイの田舎町で暴れ回る、警察当局も手を焼くファーイの強盗団。そのメンバーの一人ブラック・タイガー(チャッチャイ・ガムーサン)は、拳銃の腕がピカ一で、ボスのファーイからも一目置かれる存在だった。ある日、その田舎町に優秀な警官のガムチョン(エーラワット・ルワンウット)が派遣されてくる。彼は知事の娘ラムプイ(ステラ・マールギー)と婚約し、強盗団掃討に出陣するが、激戦の末警察隊はちりぢりとなり自信も囚われの身となってしまう。 |
「レイン(Bangkok Dangerous・2000・タイ)」に続くタイ映画は、コメディとロマンスとアクションと悲劇を混ぜ合わせ、第一級のエンターテインメントを作り上げた、そんな印象。ちょっとそれらの要素のバランスが悪い気がするものの、なかなか良くできている。 西部劇だ、ごった煮だと揶揄される。確かに、そのとおりだが、そう言い切ってしまうのはこの映画の本質を違って伝えてしまう気がする。ボクには、この映画は「大悲劇」だった。しかも救いのない大悲劇。それをコメディとかアクション(西部劇)といった味付けで、薄めているのでないだろうか。 おそらく一番薄める役に立っているのは、モノクロ・フィルムで撮影して、後からコンピューターでカラライゼーション(着色)したというファンタジーテイストだろう。目立たせたいものの色を強調し、また自由に色を付けることができる。建物などはまるでお菓子の家だ。おそらく車の中から見える風景がモノクロになっているが、あれこそが撮影されたオリジナルの部分なのだろう。 作った監督は「ナンナーク(Nang nak・1999・タイ)」の脚本家、ウィシット・サーサナティヤンという人。バンコクの美大を卒業後、CM会社でディレクターとして働いている時に、友人で同僚のために「ナンナーク」などの脚本を書き上げたという。やっぱり才能があるんだなあ。もしかすると、すごい映画好きの人なのではないだろうか。各所にいろんな映画の要素を見て取れる。西部劇、風と共に去りぬ、ブルース・リー、サイレント映画なかでもチャップリン、ヒッチコック(バーナード・ハーマン風)……などなど。 ボクは未見だが、まさか幽霊ものだったとは知らなかった。チャンスがあればレンタルで見てみたい。なんか売り方が間違っていたんじゃないだろうか。それとも非常に小さい劇場でしかやっていなかったか。 時代設定は、第2次世界大戦が終わって10年くらいだろうか。物語の進行に伴って回想シーンが挿入され、第2次世界大戦中にまでさかのぼるが。この時代背景と、映画の雰囲気が古き良き時代、そしてファンタジーなんだということを暗示しているようだ。最後の最後に「おしまい」(タイ語の翻訳なので、ニュアンスまでは不明)と出るのもその証だろう。でも、この大悲劇の結末で、ファンタジーとしてはいいのかどうか。ボクはパッピー・エンドを見たかった。 そんなわけで、出てくる銃器も第2次世界大戦の名残のものが多い。主人公がウェスタン・スタイルでなぜかショルダー・ホルスターに入れている銃がイギリスのウェブリーNo.1リボルバーギャングの同僚が持っているのが、ロシアのナガンM1895らしきリボルバー。いずれにしてもどちらもダブル・アクションなのにファニングするのはちょっといただけない。シングル・アクションのみのリボルバーが手に入らなかったのだろう。 ギャング団は「名誉と栄光のためでなく(Lost Command・1966・米)」で有名になったフランスのMAT サブマシンガン、トンプソン、M3グリース・ガン、M1ガーランド・ライフル、M1カービン、M1919マシンガン(空砲がハッキリわかる)などなど。米軍のものが多いが、それらがタイという国の歴史を語っているようだ。歴史的には古くから王朝が続いてきて、どこか西欧諸国の植民地になったりはしていない。後見人的国がどこかということだ。 とにかくスゴイなと思うのは、長く王制を敷いてきたゆえの「身分」の違いとか、男であっても身分の卑しい主人公の耐える姿。おまえは男おしんか、と突っ込みたくなるほど。これが観客の感情を揺さぶるわけだが。でも、キスもしないってのはなあ。やっぱり身分の差があるからか。 主人公の「ボクには、人生は一続きの長い悲しみに思える。だからこそ幸せを追い求めるんだ」というセリフがグッと来る。うっ、涙が……でも、なんて暗い見方なんだ。やっぱり大悲劇だよなあ。 公開2日目の初回、45分前に着いたら渋谷の劇場はエレベーターから降りることもできない。閉鎖されていた。しかたなく1階まで戻って時間をつぶす。なんだか雰囲気がちょっとずつ悪くなってきているような……。恵比寿ガーデンシネマみたいに気取った感じ……。 30分前、ようやくロビーに降りられるようになり、同時に開場。初回プレゼントでタイのお菓子(タイ風かっぱえびせん?)をもらった。 開場と同時に10人くらいが入場。最終的に227席に30人くらいの入り。女性5〜6人で、中高以上のオヤジも5〜6人。あとはほとんど若い男性。 インターネットで無料で座席の予約が出来る(登録会員のみ、これも無料)のもいい。当日は3 席予約されていたが、来たのは私だけ。あれれ。イスも大きめでカップ・ホルダー付き。千鳥配列も嬉しい。それに上映が始まると、禁煙のランプも非常口のランプも全部消えるのがいい。 |