日本語字幕:写植下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(Tecnovision)/ドルビーデジタル・dts
アレックス(モニカ・ベルッチ)とマルキュス(ヴァンサン・カッセル)のカップルは、アレックスの元恋人でマルキュスの親友ピエール(アルベール・デュポンテル)と一緒に友人のパーティーに行くが、マルキュスがヤクに手を出したためアレックスは怒って先に帰る。ところが途中でホモのテニアが愛人に暴力をふるっているところを目撃し、強姦された上、暴行を受け昏睡状態に陥ってしまう。
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普通でないエロと暴力だらけの映画。エンド・クレジットから始まって、タイトルで終わるという逆転作品。エロと暴力がリアルで、執拗で、かなり気分が悪くなる。人によっては正視に耐えないという場合もあるかもしれない。それほどどぎつい。 逆転映画はたくさんある。最近では「メメント(Memento・2000・米)」もそうだったが、エンド・クレジットから(それも逆さ文字まで作って、逆転でロールする)というこったことをやる作品は少ない。が、しかし、これはやりすぎでわかりにくい。おそらく、物語の最初へ戻っていくことによって、どれだけの幸せが壊れたのか、そしてその過程を際だたせようとしたのだろう。でも、どうなんだろうか。 観客が作品にのめり込むには時間がかかり、集中するのさえ5分か10分はかかる。しかし、その時間でラストの大事な部分が語られてしまう。特に日本人には登場人物の名前が覚えられないというのに、また誰が重要な人物かもわからないというのに、そこで語られてしまうのだ。実はこの部分が大切なところであり、観客はのっけからテストを売れる人のように細心に注意を払って、何も見逃さないように見なければならない。ボクはぼっと見てすごく後悔した。 これは演出上にも問題がある。ラストの感情が一番盛り上がる部分であるため、カメラも手持ちでぐりぐり動き回る。たしかに現場に潜入したかのようなリアルさはあるが、あまりに動きすぎて何が写っているかよくわからない。よけいに集中できないわけだ。 しかも長回し。おそらく役者のアドリブを期待してのことなのだろう、フィルム・カートリッジの最長10分を1カットで撮っている。ヒッチコックが「ロープ(Rope・1948・米)」で実践し、のちに失敗だったと(それでも十分おもしろいが)断言している手法だ。映画はカットだという結論にヒッチコックは達している。 意図はわかるが、個人的な実験のようなものを商業作品でやられても困る(ヒッチコックのはおもしろかったが)。観客は決して安くないお金を払うのだ。98分を10カットで撮られて見せられても、わかりにくさと冗長さが目立つだけ。過激なエロと暴力で退屈させないようにと考えられてはいるが。 レイプ・シーンが話題になっているが、たしかにすごい。女性の肛門を犯すホモセクシャルの暴力的なサド男。文字で書いてもスゴイ。それを1カットで演技するのだから、役者というのはすべてをさらけ出さねばならないつらい職業でもあると思う。が、それよりあちこちで写る男根の数々、過剰な暴力、男女の裸、、卑猥で過激なセリフ、ホモの異常な世界……これらが圧倒的な衝撃を浴びせかけてくる。これを見ているとセックスと暴力はかなり近いものだという気がする。どちらも本能的なものなのだろう。 テーマとして掲げられる言葉は「時はすべてを破壊する」というもの。しかし、それは本当だろうか。一般的には「時がすべてを癒す」「時がすべてを解決する」という。なぜ逆なのか。この映画の事件だって、たぶん時があればこんな悲惨なことにはならなかったかもしれない。時が破壊するのではなくて、愚かな人間がすべてを破壊する。この映画が描いてるのはまさにそれではないのか。 いただけないのはそのシーンだけではない。アレックスとマルキュスが朝、自宅でいちゃつくシーンもそう。二人は私生活でも実際に夫婦なわけで、1カット長回しはまるで演技を映しているというより、2人の私生活をのぞき見ているようだ。これはあまり良い趣味とは言えない。もはや演技というより、ドキュメンタリーだ。 だからこそ怖いのは、冒頭、1カットでヴァンサン・カッセルが倒されて、腕を逆に取られて折られるシーン。いつニセの腕に替わったかわからなかったからショックで。もっとすごいのが、それを助けに来た友人が、ヴァンサン・カッセルの腕を折った男の頭を消火器でなぐって倒し、さらに殴り続けて顔を陥没させてしまうところ。これも1カットで編集されていない。デジタルなのか。どうやって撮ったんだろう。顔は動いているし……。 ボカシが入るのは納得できないが、ないところもあり、その基準がまったく理解できない。たとえば、アレックスがトンネルで犯されて、犯人がアレックスから体を離すときはハッキリと男根が写っている。なのに、冒頭、犯人探しに奔走する男たちが娼婦を捕まえて居場所をはかせようとするとき、スカートをめくって男だということを確認するのだが、ここにボカシが入っているのだ。だから、特に物語の冒頭でもあり、話が全くわからない。セリフも的はずれな気がしてしまう。中盤以降になって、やっとあのときスカートの下に男根があったんだ、とわかったが。これって問題があるのではないだろうか。ここをボカスなら、レイプ直後のアレをボカせよ。まったく、何を考えてんだか。 公開初日の3回目、60分前に着いたらロビーには8人ほどの人。男女は半々で、若いのは女性で、中高は男性という傾向。40分前くらいから混み出して、オヤジ、オバサンのカップルが目立つように。30分前でかなりロビーにあふれてきたが、なんのアナウンスもなし。15分前になっても列を作らず、やや混乱の雰囲気。5分前になって、やっと入場はドアが開くまで待つようにという案内。うーむ。 入れ替えの時点で50人ほどの人。指定席なしで、比較的どの席からも見やすい劇場なので、入場時の混乱は、入り口に殺到しただけで、それほどなかった。 最終的に360席に4割程度の入り。男女比はほぼ半々で、老若比は7対3くらいで中高年が多かった。まあ18禁なので当然なのか。白髪の人が多かったような気がする。そのせいか、中座する人が多かったのは、トイレ? それとも気分が悪くなった? |