日本語字幕:手書き下、 戸田奈津子/ビスタ・サイズ(アリフレックス、1.85)/ドルビーデジタル・dts・SDDS
1920年代のシカゴ。舞台で喝さいを浴びるヴェルマ(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)に熱い視線を送るロキシー(レニー・ゼルウィガー)。彼女はヴォードヴィルのスターを夢見み、夫を裏切ってショー・ビズ界にコネを持つという家具セールスマンに体を許すが、嘘であることがわかり射殺してしまう。同じ頃、ヴェルマも夫と彼と不倫関係にあった自分の妹を射殺して刑務所に収容されていた。マスコミは有名人のスキャンダルに飛びつき、大々的に取り上げまるでスター扱い。その影にはスター弁護士のビリー・フリン(リチャード・ギア)の姿があった。ロキシーもビリーに弁護を依頼するが……。 |
第75回アカデミー賞、作品賞、助演女優賞、美術賞、衣装デザイン賞、音響賞、編集賞の6部門受賞(ノミネートは監督賞、主演女優賞、助演女優賞、助演男優賞、脚色賞、撮影賞、オリジナル歌曲賞)は納得できるものだった。すばらしい。 ジャンルとしてはここのところずっと作られていなかったミュージカル。しかも映画では「オール・ザット・ジャズ(All That Jazz・1979・米)」や「キャバレー(Cabaret・1972・米)」などの監督で知られる“ミュージカルの神様”ボブ(ロバート)・フォッシー作品の映画化。ボブ・フォッシー(1927〜1987)は本作の基になった舞台では振り付け師(コレオグラファー)だけでなく脚本も兼ねている。初演は1975年だという。 監督はロブ・マーシャルという、TVなどで振り付け師をやって来た人。映画「シカゴ」はボブ・フォッシーに捧げられている。なるほど力は抜けないわけだ。新人(?)から見ればボブ・フォッシーはそれこそ神にも等しい存在だろう。そして、その敬意は見事作品に生かされていた。ロブ・マーシャルは舞台ミュージカルを素晴らしい映画に昇華させた。見事としか言う他はない。 歌、ダンス、舞台デザイン、照明、衣装、演出……どれもが素晴らしい。すべてが渾然一体となって、見事な融合、シンフォニーを奏でてくれる。音楽を音楽でたとえるのも妙な話だが。 芝居とダンスのバランスも絶妙。ドラマばかりが先走りせず、かといってオペラのように歌主導というわけでもない。シロートにはこれくらいがちょうどいい。曲が始まれば、思わず身体が動き出すくらいノリもいい。 ただ、話自体にはあまりノリ切れなかった。登場人物はダンサーの純朴な夫(ジョン・C・ライリーが好演)だけで、後は全員が悪党というか小悪人。ロキシーに至ってはバカか女とでも呼びたくなるほど。そしてその悪のるつぼが1920年代のショウビズ界だったと。うーん。実際のところ、ミュージカルには悲惨な内容のものが多かったりする。暗い話を音楽で明るくしてバランスを取っているかのようだ。 あまりのレニー・ゼルウィガーのうまさ(?)で、主人公のいやらしさが充分に伝わってくる。巧すぎて(「ブリジット・ジョーンズの日記」から驚異的に痩せもどっている)印象が悪い。それでオスカーを逃したのかも。キャサリン・ゼタ=ジョーンズはオスカーを手に入れたことが納得できる落ち着いた演技。ただのカワイコちゃんではないことを証明して見せた。 他に気になったのは、マスコミの怪しげな女記者を演じた狐目の女、クリスティン・バランスキーという人。そんなに若くないが、独特の存在感で気になった。 ラスト、シカゴ・タイプライターと呼ばれたトンプソン・サブマシンガンを模したプロップを、小さな電球を何百も点灯させた壁に向かって撃つ振りをすると、電球が次々に弾けていって文字ができるところは圧巻。銃を撃っているイメージもあるし、なにより美しい。すごい演出。感動さえ覚える。これは大スクリーンで見なければ絶対にダメ。ちょっと前寄りに座った方が良いかも。 公開2日目の初回、新宿の劇場は30分前に着いたらすでに開場して15人ほどの人がいた。やっぱりアカデミー賞6部門受賞がきいているのか。いつもは指定席のない劇場なのに、今回は中央8席×3列が指定席。ただし、初回のみ全席自由。ボクはそれよりちょっと前に座った。たぶん迫力2割り増し。 最終的には305席に3割弱くらいの入り。これは少ない。ちょっと朝早いと入ってもアカデミー賞受賞作なのに……。ホントにいい映画だし。アカデミー賞受賞に気をよくして告知が不十分だったのか。 男女比は半々で、8割は20代のカップル。あれ、ミュージカルは中年以上かと思ったら、意外な結果。オバサンはごくわずかで、オヤジも少々。 ちなみに音響効果は良好。ミュージカルは絶対に音の良い劇場で見たい。デジタルサウンド対応は最低条件と言える。 |