2003年8月17日(日)「HERO」

英雄・2003・香/中国・1時間39分(中国版は1時間33分)

日本語字幕:手書き書体下、水野衛子・太田直子/シネスコ・サイズ(マスク)/ドルビーデジタル

(シンガポールPG指定)

http://www.hero-movie.jp
(待たされる場面が多い。全国劇場案内もあり)
紀元前200年の戦乱の世にあった中国。中国の制覇を目指す秦の国の王(チェン・ダオミン)に、最強の刺客といわれた3人を倒した“無名”と名乗る剣士(ジェット・リー)が褒美を受け取るためにやってくる。秦王は3人をどうやって倒したのかに興味を持ち、話して聞かせよと命ずる。すべて秦軍もしくは秦軍に関係する人物の目撃証言と証拠物がある説得力のある話だったが……。

83点

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 いや、まいった。すごい。これは見逃すと損をする。子供には難しい話だが、大人はぜひとも劇場で見るべき映画だ。1時間39分の映像体験といっても良いかもしれない。

 ストーリーも(黒澤明の「羅生門」的で、ちょっと仕掛けは読めるが)、絵も、音も、テンポも日本人の感覚にピッタリとはまる。そして心を打つ。派手なアクション映画でありながら、この感動、悲しさ。そして歴史の重み。本当にこんなことはなかっただろうが、中国ならあったかもしれないと一瞬思わせる巧みさ。そして、王道の中国の昔話といった雰囲気。それをこんなにも素晴らしい映像マジックで見せられると、恐れ入りましたと言うしかないではないか。

 なんという美しさなのだろうか。風景や構図が美しいばかりか、色彩設計を大胆に行い、溢れんばかりの鮮やかな色がそこここに踊る。しかも、それが物語の進行に深く関わっている。さらにところどころに配された意図的なシンメトリー構図。うーん、やはり中国4000年の歴史、恐るべし。でも、ワダエミのルーズな着物のようなシンプルな衣装もいいし(特にアクション・シーンで効果的だった)、鼓童の和太鼓が何とも言えず中国のこの勇ましい物語には合っていて良かったけど。

 秦が天下を取り、秦王が始皇帝になったとか、そういう歴史を知らなくても、大人なら心から楽しめる第一級品のエンターテインメント。マギー・チャンもチャン・ツィイーも、特にチャン・ツィイーはきれい。すべてのキャラクターが立っていて、どれも印象に残る存在感がある。

 視覚効果は「マトリックス」のスタッフが加わっているだけあって、息をのむほど圧倒的迫力で迫ってくる。リアルというのとはちょっと違う。なにしろ白髪三千丈の国だ。でも、それがいい。そして、単にデジタルと言うことだけでなく、ワイヤー・ワークで実現したと思われる現実感が良いのだ。ホントにそこで回転しているという。特に、残剣、飛雪、如月らに無名が自分の技を見せるところがスゴイ。彼らの周りで巻物のようなものを積み上げた棚が一斉に崩れるのだが、そのタイミング、スピード、量がすべて予想を超えていて、そして気持ちいいのだ。うーん。スゴイ。CGにない舞台的な仕掛けといっても良いのかもしれない。階段落ちみたいな。

 監督はチャン・ツィイー主演の「恋のきた道(我的父親母親・1999・中)」を監督したチャン・イーモウで、もともとはチェン・カイコーの撮影監督を務めたりしていたカメラマン。だから印象的な絵作りをしているわけだ。監督デビュー作はイラコバさんが「国辱的」と評していた「紅いコーリャン(紅高梁・1987・中)」(ベルリン映画祭金熊賞)。「あの子を探して(一個都不能少・1999・中)」(ヴェネチア映画祭監督賞)などもよく知られている。そのほかにも受賞、ノミネート多数の世界的に知られる天才監督だ。好き嫌いはあるにしても、その才能は本物だと、またしても新作で証明してしまった格好になる。こういう人がぞろぞろいるらしいから中国はすごい。中国恐るべし。

 公開2日めの初回、60分前に銀座の劇場に着いたら、1Fのエレベーター前に30人ほどの行列が。ほとんどが中高年で、20代以下は1〜2割程度。男女比は6対4で男性がやや多いという感じ。雨模様の空だったので入場が早まって、50分前くらいでエレベーターが動き出し、そのまま場内へ。

 45分前で516席の4割が埋まる盛況。指定は11席×4列+ぴあ11席あったが、初回のみは全席自由。40分前にはもう5割が埋まってしまった。

 さらに人は好調に伸び続け、30分前には6.5割、25分前に8割弱、20分前に若い観客が増えだし9割方埋まってしまった。すごい。15分前、すでに空き席は10席程度しかなく、ほどなくすべて埋まった。前の席が嫌なのだろうか、2〜3席を残して後ろで立っている人も数人。

 下は小学生くらいから、上は老人まで観客層はかなり広い。構成としては5割が中高年、3割が10代後半から20代、1割が小中学生といったところ。男女比は6対4で男性がやや多め。

 ラストのクレジットによれば、中国の人民解放軍が撮影に協力しているそうで、いくらCGで数を水増ししているとはいえ、あのモブシーンは撮れなかったのだろう。それにしても、中国にもグランドキャニオンのようなところがあることにビックリ。やっぱり中国は広い、そして深い、と。


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