2003年8月31日(日)「デス・フロント」

DEATHWATCH・2002・英/独/仏/伊・1時間35分

日本語字幕:手書き書体下、風間綾平/シネスコ・サイズ(マスク)/ドルビーデジタル

(英15、日PG-12指定)

http://www.deathwatchthemovie.co.uk/main.html
(日本語サイトなし、音を止められないので注意)
第一次世界大戦、中盤の1917年、西部戦線においてイギリス軍は突撃を仕掛ける。その結果Y中隊は10名を残し壊滅状態となった。そして戦場をさまよう内、廃棄されたかに見えるドイツ軍の塹壕を発見し援軍が来るまでの間、占拠することにする。ところが調べてみると迷路のような内部からたくさんの変死体が発見された。怯える捕虜の一人は、早くここを出ないとお互いに殺し合って全滅すると言う。

76点

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 ヒットした男の子のダンス・スポ根もの「リトル・ダンサー(Billy Elliot・2000・英)」で主人公の11歳の少年を演じたジェイミー・ベルの主演第2作目。驚くべき実力の子役。B級の設定で、B級の臭いがプンプンするが、抑えた演出でどうにかバランスを保ってゲテモノ映画にならずなすんだという感じはある。ただ好みでいくと、ボクは好きなジャンルだし、好きな演出。IMDbでは5.3などいう低い評価だが、ボクは高く評価したい。 同じ製作年で同じイギリス映画ながら、「28日後...」よりはこちらの方がずっといいと思うけどなあ。

 なぜ第一次世界大戦なのか。これはおそらく塹壕戦という屋外でありながら半地下のような閉塞感、密室状態が欲しかったからだろう。そして本作で劇場作品デビューの監督、マイケル・バセットの祖父の持っていた第一次世界大戦時の写真が強烈に印象に残っているということもあったようだ。

 マイケル・バセット監督は、TVなどで活躍していた人で、自分で書いたこの作品を撮りたくて、脚本の中からワン・シーンを実際に撮影してプロデューサーたちに見たのだそうだ。プレス・シートによれば、俳優を集め、カメラマンまで呼んで、自宅近くに塹壕を掘って7分間のデモを撮ったらしい。それがプロデューサーたちに認められ、ゴー・サインが出た。イギリスでもそこまでしなければ映画は撮らせてもらえないらしい。うーん。考えさせられる。

 出演はジェイミー・ベルのほかにはあまりメジャーな俳優さんが出ていない。特に日本では知られている人がいない。それがさみしいが、かえって超自然的な話なので、そのほうが展開が読めず(いつも悪役をやる人とかわからない)、ドキュメンタリーのような感じが出ていい。かろうじて隊内一の粗暴なバーバリアン、クインを演じるのが「ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔」でフロドたちの道案内をすることになる500歳のゴラムを演じた(CGクリーチャーだが、声やCGり元となったパフォーマンスを演じた)アンディー・サーキスが一部で知られているくらい。

 セットは素晴らしい。ドイツ軍が放棄した巨大迷路のような塹壕は、チェコ、プラハの郊外に実際に1/1で作られたそうだ。これは見物。360m四方の土地を使ったらしい。しかも、ほとんど毎日雨が降っている設定なので、ぬかるみが必要となり大量の泥が運び込まれたのだとか。

 第一次世界大戦では毒ガスが戦場で使われたこともよく知られているが、ちゃんとそういうシーンも用意されている。これかなかなか怖い。軍装品もちゃんと調べが行き届いているようで、まるで悪い冗談のような出来損ないかと思えるようなガス・マスクを使っている。もちろん銃も長めのボルト・アクション・ライフル。

 イギリス軍はリー・エンフィールドだが、まだ10連発ではないのでボックス・マガジンが飛び出ていない。だぶんNo.2かNo.3あたり。指揮官のジェニングス大尉が持っていたピストルは、たぶん時代考証的にはウェブリー.455マーク6サービス・リボルバー。ちゃんと中折れして、弾を詰め替えてみせる。ドイツ軍はボルト・ハンドルが水平に飛び出たGew98。サブマシンガンはベルグマンMP18(ただしボックス・マガジンは第一次世界大戦後のはずだが)。ドイツ軍の手榴弾(ケースまで出てくる)もよく知られた第二次世界大戦中の物とは微妙に違う。イギリス軍の物と比較するシーンがあるのだ。とにかくよく調べられている。

 もちろんホラーとして、残酷シーンも随所にある。かなりエグイものもあるので気の弱い人や女性は要注意かも。そしてラストは死体の山が……どうなるかは見てのお楽しみ。

 公開2日目の2回目、銀座の劇場は20分前に入場した時点でロビーに15人くらいの人が待っていた。10分前に30人くらいになり、ほとんどはオヤジ。30代くらいの男性が4〜5人、30代からオバサンくらいの女性が4〜5人。

 最終的には144席に40人くらいの入り。アメリカでの評価が低かろうと、もっと人が入っていい映画だと思うけどなあ。しかも若い女性が見てもいいホラーなのに……やっぱり戦争物というのが災いしたか。「リトル・ダンサー」に感動した人は見ても損はないと思うけど。


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