2003年11月9日(日)「昭和歌謡大全集」

2002・光和インターナショナル/バンダイビジュアル・1時間52分

ビスタ・サイズ(ARRI)/dts

(日R-15指定)

http://www.showa-kayo.com/
(劇場案内はあるがMacではうまく表示されなかった)
寝不足でもうろうとしたまま街に出たスギオカ(安藤政信)は、たまたま欲望を覚えたオバサン、ヤナギモト(内田春菊)の喉をナイフで切って惨殺する。ヤナギモトの仲間のオバサン、スズキ(樋口可南子)、ヘンミ(岸本加世子)、タケウチ(森尾由美)、トミヤマ(細川ふみえ)らは復讐することを誓い犯人探しを始める。

74点

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 1994年に週刊プレボーイに連載された村上龍の同名小説を映画化。あまり深い関係を持たずつるんでいる少年グループと、これまた上辺のつき合いしかしていなかったオバサン・グループが殺し合いをするという過激な暗い内容を、ちょっとコミカルな味付けで明るく描くという、「チャンチキおけさ」(映画の中でも語られるが、悲惨な内容を明るく歌うという)のような映画。かなり笑えるとは思うが、ブラックな内容はなかなかヘビー。なにかずっしりとしたものが心に残る。なかなかすごい。

 損をしていると思うのはタイトルだ。小説なら十分ありえるタイトルだし、これでいいが、映画だとまったく内容を想像できない。たしかに内容を表してはいるが、歌の映画だと思ってしまう。原作があるのだからタイトルを変えるのは不利だし、変えたら逆に損をしてしまいかねない。ということは広告をいかにうまくやるかということにはなると思う。キャッチ・コピーが「少年vsおばさん、勝つのはどっちだ!?」とあったものの、前売り券のビジュアルはわかるもののチラシのほうはどうなんだろう。見終われば、ああ吉祥寺のアレか、ということにはなるのだが、チラシを手に取ろうという気にならなかった。悩んだ末に、いらなかったら捨てればいいと思い直してチラシを手にし、裏を見て初めて概要を知ったのだった。

 とにかくオバサンたちがいい。リーダーの樋口可南子(まるで見えない45歳)、抜群のうまさで光っていた岸本加世子(何と43歳)、気付はこういう役が回ってくるようになった元アイドル森尾由美(37歳)、妙な魅力のある鈴木砂羽(わずか31歳なのにすごい貫禄)、ちょっと存在感が薄い細川ふみえ(オバサンにはなりそうもない32歳)に、ちょっとしか出ないのに強烈な印象を残すオバサン漫画家、内田春菊(44歳)、といった面々。

 さらに、自縛霊のようだといわれる事件の目撃者、不気味キャラの市川実和子もいい。おかしなキャラなのか怖いキャラなのか、とらえどころのないところがいい。そして、さらに、とんでもないオヤジ・キャラを演じる武器屋の原田芳雄がグッド。いるはずのないキャラなのに、なぜか妙なリアリティと存在感がある。

 笑わせるところがたくさんありながら、残酷シーンは徹底して残酷。R-15s゛ころか18禁でもいいのではと思うほど。雨の中、畑に頭を突っ込んで死んでいる内田春菊が秀逸だし、立ち小便中を襲われて、血と小便を吹き上げながら絶命する安藤政信がまたすごい。そして、その様子を楽しそうに話すオバサンたちがまた怖い。さらに、さらに、カラオケで意気投合しトイレでコトに及ぶ鈴木砂羽のドレスのファスナーが降ろされると……これは見てのお楽しみとして、すごいラブシーンからのギャップが素晴らしい。

 とにかく、脚本も演出も素晴らしい。監督はぴあフィルムフェスティバル出身の篠原哲雄。あまり日本映画を見ないボクにはあまり馴染みのない人だが、なかなかの実力の持ち主らしい。覚えておいた方が良いかもしれない。

 脚本は弱冠36歳の大森寿美男。「39/刑法第三十九条」(1999)とか「黒い家」(1999)なんかを手がけている人。なるほど納得。本作前には篠原監督と柳美里のベストセラー小説を映画化した「命」で組んでいる。ドラマ作りが巧いだけではなく、銃のこともゃんと勉強しているらしく、旧ソ連製のトカレフと中国のライセンス生産であるノーリンコの五四式の違いなどを出演者の口を借りて語ってみせる。しかも、いいのは使い捨てのM72バズーカ(ロケット・ランチャー)を樋口可南子が撃つとき、後ろに細川ふみえがいるのを見て、噴出するガスに気を付けるよう注意するのだ。「ダーティハリー3」(The Enfoecer・1976・米)でハリーが相棒の女刑事に同じM72で同じ注意をするが、そのオマージュか。アメリカ映画の影響でM72は日本映画にもよく登場するが、ほとんどは仕組みもよく知らず、平気で真後ろに人が立っていたり、壁を背にして撃ったりする。実物でこんなコトをやったら、敵を殺す前に味方や自分を殺してしまう。実際には後方だと15mほどが危険区域になるという。まあ「ランボー/怒りの脱出」(1985・米)でも同じようなミスをしているので日本だけが無知なわけではないが。いずれにしても、そんなこの人も今後注目だ。

 公開2日目の初回、35分前に着いたら新宿の劇場は2人待ち。20分前に開場し、この時点では男ばかりが7〜8人。ほとんどは20代後半。その後、20歳前後の人やカップルも少し増えて、指定席なしの209席に40人ほどの入り。女性はわずかに3〜4人。ちょっと残酷シーンが多いからなぁ。でも、おもしろいので口コミで広がって次第に人が増えるかも。ただ、どこも劇場が悲しい……。


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