2003年12月6日(土)「ラスト・サムライ」

THE LAST SAMURAI・2003・米/ニュージーランド/日・2時間34分(米版は2時間24分)

日本語字幕:手書き書体下、戸田奈津子/シネスコ・サイズ(マスク)/ドルビーデジタル・dts・SDDS

(米R指定)

http://www.lastsamurai.jp/
(音に注意)
1876年(明治8年)、明治政府は軍隊に近代的な戦法を教える教官として、アメリカの南北戦争(1861〜1865)の英雄、ネイサン・オールグレン大尉(トム・クルーズ)を雇いいれた。ネイサンは戦場で追った心の傷からアルコールにおぼれ、すさんだ生活を送っており、半ば自暴自棄で日本行きを承諾する。しかし廃刀令に逆らい侍としての生活を続ける勝元盛次(渡辺謙)率いる反乱軍との戦いで捕虜となってしまう。ネイサンは山奥の里に連行され、野蛮人と思っていた日本人の素朴な暮らしぶりに触れることになる。

86点

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 うわ、まいった。歴史的な事実も基づいて巧妙に構成された物語。美しい絵作りと激しいアクション・シーン、異邦人との心の交流、武士道、恋……まさに映画らしい映画。久々に涙が出た。こういう映画を日本で作れないことが残念だ。やっぱりアメリカはすごい。ありがちなヘンな日本像もない。

 ただ、この物語は、よくあるハリウッドの未開地への探検物語のパターンと同じ。たとえばイギリスとかから暗黒大陸と呼ばれていた頃のアフリカへ探検隊を派遣する。冒険の末、怪我をした主人公一人が野蛮人に助けられ、村へ連れて行かれる。西洋人には理解しがたい文化に触れ、自然と一体になった暮らしに安らぎを覚え、それを侵略しようとする西洋人と戦う……。そのままインディアンの村に置き換えてもいいし、アマゾンのジャングルや東南アジアのジャングルに暮らす人々でもOK。どこでも成立する話ではある。

 監督のエドワード・ズウィックや、プロデューサーのトム・クルーズが、日本の文化や武士道に心酔してこの映画を作ったのは間違いないだろうが、結果としてできあがったものはやはりパターンにはまったものではあったと。ただ、実によく日本を研究しているし、視線がおごっていない。ヘンな日本語も、ヘンな看板も出てこない。尊敬の念を持って、丁寧に、慎重に作ろうとしているのが伝わってきた。この辺に好感が持てる。

 ニュージーランドに作られたというオープンセットは、本当に日本の昔の民家のようだし、合戦シーンも迫力があって実にリアル。お金も時間もかかっている。今の日本映画ではたぶん無理だろう。ここまで再現した努力には敬意を表したい。ただ、ちょっと風景の一部に椰子のような木が写っていたり、武士たちが暮らす山村がどうみても農民の村にしか見えないとか、クレームをつけようと思えば穴はたくさんある。許せる範囲かどうか、これは見る人によって違うだろう。ボクは許せたので楽しめた。

 たぶん気になるところは、一体、登場人物の誰が「ラスト・サムライ」かということ。勝元盛次(渡辺謙)か、感化されたネイサン・オールグレン大尉(トム・クルーズ)か。

 ボクは勝元だと思った。主人公自身のナレーションで回想するパートで「野蛮人を相手に戦うのだと思ったら、そこには自分にはまったく理解できないが、独特の文化を持ち、自然と一体になって暮らす人々がいた」というような意味のことを言っている。とすれば、碧眼の青年がやってきて、全く違う価値観で生きる人々がいて、自分もちょっと感化されてしまったけれど、共感できる部分はあったもののやっぱり理解できない人々だったと、そういうことではないだろうか。ネイサンがサムライになったと解釈するとかなり無理が生じるから。サムライになったとしたら、最後の決戦で負けて自分一人だけおめおめとは帰ってこれないだろう。

 つまりこの映画は日本という国にきてしまったアメリカ人が、理解できない人々と出会い、理解できない生き方をして死んでいく、理解できない事件を目撃し、そういう人々に惹かれていったと、そういう話だろう。

 いずれにしても、感動の話なのは間違いなく、かなりうるうる来た。2時間34分をだれさせず、むしろ短いように感じさせてしまう。参りました。隣の席に座っていたオジサンが終わって開口一番「こりゃほんとにトム・クルーズ、アカデミー賞をとるかもしれないね」。こう感じた人もいたのは事実。

 ただ、たかだか一介の大尉の身分の男に、現人神である当時の天皇陛下が直々接見するなどと言うことがあっただろうか。

 公開初日の初回、新宿の劇場は、先行ロードショーや、すぐ上野劇場でやって忌めこともあってか、それほど混んではいなかった。60分前で自分を入れて2人。40分前でも7人程度だった。ほとんどは若い世代で、トム・クルーズ人気を伺わせる。この時点で女性は1人だけ。

 劇場の配慮で、早くも40分前に開場。ぴあ席が10席×1列+4席あったが、全席自由なのかどうか案内がなかったのでわからなかった。観客は30分前から増え始めて、15分前で400席の3.5割ほどが埋まった。

 男女比は6対4でやや男性が多く、オヤジ世代以上が全体の1/3ほど。若い人が時代劇を見るというのは、ハリウッド製であっても、とりあえず良いことではないだろうか。

 最終的には7割強の埋まり具合。初回としては好成績ではないだろうか。上の劇場でもやっているわけだし。どうやら2回目以降から指定席はあったようだ。カバーが掛けられた。


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