日本語字幕:手書き書体下、稲田嵯裕里/ビスタ・サイズ(1:1.66上映、IMDbでは1.85)/ドルビーデジタル・dts・SDDS(IMDbではドルビーEX 6.1も)
(米G指定)
カクレクマノミのマーリンは、妻と子供たち(卵)を失い、たった一人の息子、ニモが残された。ニモは生まれつき右のひれが小さく泳ぎがうまくないことから、父マーリンは過剰なまでに過保護になっていた。それに反発したニモは外洋へ出て人間に捕まってしまう。マーリンはすぐに追いかけるが、人間はボートに乗って去ってしまう。 |
予想を越える面白さ。大冒険の連続も素晴らしいが、それぞれのキャラクターが立っていて個性的。それだけでも楽しめる。これはまず脚本の勝利だろう。そして演出の勝利。 脚本が素晴らしいのは、たくさん卵を産む魚にアクシデントが起きてたった1匹しか生き残らないことや、その子がハンディキャップを持って生まれてきてしまうこと(しかも父は子に引け目に感じさせないよう、その小さなヒレを幸運のヒレと呼んでいる)、父マーリンがニモを追う過程で知り合いになる友人ドリーが短期の記憶障害(健忘症?)なこと、サメが魚を食べるクセ(?)を直そうとグループ・セラピーをやっていたり、水槽の中に学生の秘密クラブのようなものがあって入会テストあったり、「大脱走」のスティーブ・マックイーンのような脱獄(?)の常習者がいて、その時の傷が残っていたり、とんでもなく凶暴な少女がいて(「サイコ」の曲で登場!!)魚を殺した過去があったり……本当に素晴らしい。 ストーリーを手がけたのは、監督をやっているアンドリュー・スタントンだ。ピクサーで「トイ・ストーリー」(Toy Story・1995・米)、「バグズ・ライフ」(A Bug's Life・1998・米)、「トイ・ストーリー2」(Toy Story 2・1999・米)、「モンスターズ・インク」(Monsters, Inc.・2001・米)などのストーリーを手がけてきた人。本作でついに脚本と監督まで手がけることになった。 笑いと感動の涙、これが実にいいバランスで配されている。だから見終わった後、とてもさわやかでいい気分。まさに年末からお正月に見るのにふさわしい映画だ。しかも過剰な暴力も、エロ、グロもない。多少怖いシーン、悲しいシーンはあるが、家族全員で安心して見られる、近ごろ少なくなった良質な映画。 舞台はオーストラリアだが、やっぱりどうみてもアメリカ人の話で、なにもアメリカ人はサイコがいて猟奇連続殺人ばかりやっているわけではない。大多数は人懐っこくて、優しくて、礼儀正しくいい人たちなのだ。海の底の魚のお話なのに、こんな人よくアメリカにいるよなあ、と思ってしまう。 そして、すばらしいCG。見始めてすぐCGであることなど忘れてしまう。とにかく魚の泳ぎ方がリアル。クジラなど秀逸だ。柔かなクネクネした感じは本当に生き物のよう。大群の群れも自然だし、海底から見上げた海面の感じなんて写真のようだし、波の砕ける様子はまるで実写のようだ。 さらに愛嬌あふれるキャラクターたち。みな魅力的で、カラフルで、いかにもキャラクター商品を作ったら売れそうな感じ。これもまた大事だ。たぶんどこの国の人にも受け入れられるデザインだと思う。だから感情移入しやすいし、応援したくなる。 声の出演は、吹替え版はマーリンに木梨憲武、ドリーに室井滋。英語版のマーリンはよく目立たない脇役で出てくるコメディアン出身のアルバート・ブルックス、ドリーに同じくコメディ出身のエレン・デジェネレス。エレンの演技が特におかしくて笑わせてくれる。なにしろ健忘症だから、話していた10分後くらいには、「どちらさん?」という具合。でも明るくて前向きで、誰にでも気軽に声をかける、その感じがじつに良く出ている。しかもクジラの物まねが秀逸で、マーリンがはきそうになるのも構わずしゃべり続けるあたりなんか大爆笑だ。 ちゃんと大物俳優も配されていて、今回は歯の治療にも詳しい陽気なペリカンが「シャイン」(Shine・1995・豪)や快作「パイレーツ・オブ・カリビアン」(Pirates of the Carebbean・2003・米)のジェフリー・ラッシュ、水槽の脱獄チャレンジャー、ギルに「ストリート・オブ・ファイヤー」(Streets of Fire・1984・米)やキレた演技でよかった「処刑人」(The Boondock Saint・1999・米)、「スパイダーマン」(Spider-man・2002・米)の怪優ウィレム・デフォー(雰囲気、完ぺき)。 ただ、ここまで英語版が素晴らしいと、ちょっと日本語吹き替え版も気になる。どの程度までこの英語版のおかしさが生かされているのか。あるいは別物に仕上がっているのか。お金と時間に余裕があれば日本語吹き替え版もぜひ……。こんなことは珍しい。 公開9日目の4回目(字幕版は初回)、30分前に着いたらロビーには長蛇の列。たぶん120人くらいの列2カ所。さらに人は増え続け、階段に100人以上。すごいことになっている。 15分前に入れ替えになったが、混雑して時間がかかる。売店でドリンクなどを満足に買えなかった人もいたのでは。混むのはわかっていたと思うんだけどなあ。763席もあるんだから、入れ替えに20分以上は見ないとなあ。かろうじてCMと予告が15分くらいあるので、ドリンクは買えただろうけど……。 指定席は11席×4列とぴあ席11席。これらも含め最終的に763席ほぼ満席状態。すごいなあ。しかもたぶん8割以上が20代を中心とした若者。こんな映画は珍しい。男女比はほぼ半々。 上映直前の予告が「シービスケット」の新しいバージョン。1930年代の大恐慌時代をメインにしたバージョンではないやつが上映され、これがとても感動的なヤツ。ボクは予告だけで泣けてしまったが、他にも泣いていた人がたくさんいたようで、場内はシーンと静まりかえった。すばらしい予告編。しかし、このあとに本編をやるのは、これはかわいそう。よほど強力でインパクトのあるものでないと、「シービスケット」に行ってしまった心を引き戻せないぞ、と思ったら、それを超えるインパクトのある美しさと導入部で、タイトルが出る頃には観客は物語に引き込まれている。ハンデを見事に跳ね返したと。すごい。 エンド・クレジットの最後の最後に「モンイターズ・インク」のありキャラクターが出てくるので、お見逃しなきよう。ところで、「えさ、えさ」と鳴くカモメたちの現れ方って、ヒッチコックの「鳥」だよね? |