日本語字幕:手書き書体下、戸田奈津子/シネスコ・サイズ(マスク)/ドルビーデジタル・dts
(米R指定)
1985年、イギリス人の裕福な男性と結婚したサラ(アンジェリーナ・ジョリー)は、慈善団体の募金パーティに乗り込んできたNGOの医師ニック(クライヴ・オーウェン)と難民の少年の訴えに心を動かされ、巨額の蓄えを食料に変えて単身エチオピアへ救援に向かう。その後、帰国して画廊勤めからUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)に転職し、支援活動を続けることにする。やがて1989年、株の暴落から夫が職を失い、夫婦仲も冷えていく。そんな中、ニックがカンボジアにいることを知ったサラは、カンボジアに行く決心をする。 |
まったく悲惨な映画ではある。はたしてこの年末年始の時期に見るのはどうなのか。暗い気分になってしまうことは確か。ただし、平和ボケした我々に警鐘を鳴らすこともまた確か。世界中に難民として苦しんでいる人々がいるし、差し伸べられる支援の手はまったく足りず、また途中に介在するさまざまな人々の思惑が加わって、実際に援助を必要としている人々の手に中に中届かないという事実を突きつけてくる。これは、これでショックで、そして気分が良くない。 あまりに赤裸々に真実を突きつけ、中途半端な支援をして慈善をしたような気になっている人々を指さして指摘しているようで、それでIMDbで5.1などという低得点(しかもたった323人の投票)ということになっているのではないだろうか。映画自体はそんなに悪くないと思う。ハリウッド的ではないエンディングと、ショックだか感動的な話で、ちょっと泣けるかもしれない。 問題は、ラブ・ストーリーなのか、世界の悲惨と援助の問題を扱いたかったのか、どちらが主体なのかわからないこと。日本語タイトルは明らかに「ラブ・ストーリー」に振ってしまっているが、英語タイトルは「いくつもの国境を超えて」という感じなので、もともとどちらだかわからないようになっている。ただ、本編の最後に人道的支援(救済活動)に関わる人々と、紛争で苦しむ人々への献辞が出るので、もっと問題提起の方に力が入っているのだろう。両方を同等に描きたかったのかもしれないが、それはあまりに難しい。失敗していると思う。だからどちらかにシフトして描けば良かったのではないだろうか。つまり中途半端。しかもラブ・ストーリーは不倫だし。これは日本で思っている以上にキリスト教圏ではいかんでしょう。だから評価が低いのか。 ここまで問題を徹底して描くと、結局は描いている本人たちにそれは帰ってくる。つまり、こういう映画を撮って金を儲けていいのかと。全額ではないとしても、利益は全世界の難民たちに還元されなければならないのではないかと。映画の売り上げの何割かがUNHCRに寄付されなければ、描かれていることはウソになってしまう。人々を糾弾するなら、自分たちもそうでなければならないだろう。 ただし、主演のアンジェリーナ・ジョリーはこの映画の撮影で悲惨な難民の現状を知り、実際にカンボジアの孤児を養子に迎えているし、UNHCRの本当の親善大使になって、現在も活動を続けている。そして、この12月11日にもヨルダンを訪れた彼女は、難民キャンプの子供たちのために、教育プロジェクト用として約3万米ドル(約324万円)を寄付している(UNHCRのホームページはこちらhttp://www.unhcr.or.jp/)。監督やプロデューサーはどうなんだろう。 これはボク自身にも戻ってくることで、できればせめて寄付だけでもしたいと思う。が、この不景気でなかなか思うようにいかない……。 監督はニュージーランド出身のマーティン・キャンベル。もともとはTVの人だったようで、「クリミナル・ロウ」(Criminal Law・1988・米)で話題となり、レイ・リオッタ主演のSFアクション「ノー・エスケイプ」(No Escape・1994・米)でキレのあるアクションの披露し、それがきっかけとなって007シリーズの「ゴールデン・アイ」(Golden Eye・1995・米)のメガホンを取った。その後「マスク・オブ・ゾロ」(The Mask of Zorro・1998・米)や「バーチカル・リミット」(Vertical Limit・2000・米)といった話題作(いずれもIMDbでは評価は低いが)を手がけている。 公開初日の初回、銀座の劇場は40分前に既に会場済み。どうやら隣接する劇場でアニメの「犬夜叉」が公開日で、大変な行列になったために早く開けたらしい。ロビーも「犬夜叉」の観客らしい若い観客(しかも女性が多い)で埋まっていた。 ところが大劇場の方に入るとガラガラ。654席に30人くらい。中には隣と間違えて入ってきていたファミリーもいて、実際はもっと少なかったようだ。 初回のみ全席自由で、17席×2列あるプレミアム・シートも自由。こっぱずかしい日本語タイトル故か、ジイサン、バアサンが目立った。だいたい男性は中高年以上で、女性は20代くらいから。しかもそのタイトル故だろうが、男女比は2対8くらいで圧倒的に女性が多い。アクションの監督が撮った作品で、焦点がハッキリしていないとは言え、結構硬派な映画なのに……。 またまた関係者が多く、最初は観客より多い印象。もっと少なくって良いって、2人くらいで。 最終的には3割から3.5割ほどの入り。お金のかかった作品でビッグ・ネームが出演している割にはさみしい入りかも。 このタイトルだと男は見ないだろうなあ。これをセリフとして言った時に、すべがひっくり返ってしまいかねないほどの力を持っている。たとえば「世界中でどんなに悲惨な紛争が繰り返されようとも、私は構わない。あなたに付いていく」と言ってしまったら、悲惨な現状なんか吹っ飛んで、ラブ・ストーリーだけになる。丹念にリアルに描かれた紛争地は、ラブ・ストーリーを盛り上げるための単なるドラマチックな舞台設定に過ぎなくなる。あえてそのリスクを犯した映画ではあるのだけれど、それをタイトルで言いきってしまって良いものだろうかという疑問は残る。 |