日本語字幕:手書き書体下、菊地浩司/シネスコ・サイズ(マスク、with Panavision)/ドルビーデジタル・dts・SDDS
(米R指定、日PG-12)
近所で、年齢も近い3人の少年ジミー(ショーン・ペン)、ショーン(ケビン・ベーコン)、デイブ(ティム・ロビンス)は、よく一緒に遊んでいた。ある日、刑事の風体をした2人の男にデイブだけが連れ去られ、4日間監禁され性的暴行を受けた。その事件を境に疎遠になった3人は、同じ町に暮らしながらほとんど話すことさえなくなってしまった。そして25年後、雑貨店を経営するジミーの19歳の長女が射殺体で発見され、今は殺人課の刑事になったショーンが、相棒のホワイティ(ローレンス・フィッシュ・バーン)と捜査に当たることになる。そして、容疑者としてデイブが浮上するが……。 |
アメリカのベストセラー・ミステリー、デニス・ルヘインの同盟小説を映画化。いい映画だと思うが、アメリカで評価されているほどの傑作とは思えなかった。というのも、とにかく暗い話なのだ。正月に見るのにふさわしい内容なのか……。 見終わって深いため息が出た。暗い気持ちになって劇場を後にする。つまらないものを見たという暗い気持ちではなく、望みとか正義とか友情とか、そんなものを失ってしまったような喪失感。人生は誰にとってもフェアなんかじゃない。しかも、悲劇の根元は25年前にあって、関わった人間はそれを一生引きずってしまう。ああ、気が重い。新年から新しい気持ちでがんばろうと思っていたのに……。 いろいろな受け取り方があると思うけれど、ボク流に乱暴な要約をすると、良い友達、助け合う親友になれたかもしれない少年たちが、起こってしまった事件のフォローを何もせず、むしろ忌避するようになったため、25年後にその代償を支払うことになる、というものになるだろうか。しかしその払った代償の大きさ・重大さにもかかわらず、関わった人間は以前とほとんど同じ生活を続ける。不幸な人間だけがとことん不幸になる。したたかな人間はしゃあしゃあと生き続ける。そういう冷めた視点が、恐ろしいと同時に腹立たしい。この辺は「許されざる者」(Unforgiven・1992・米)に通じるものなのかもしれない。 原作を読んでいないのでわからないが、原作のテイストはどうなのだろう。 ミステリー映画としてはそれほど力を入れていない気がする。始まってすぐに、あれ、この事件の展開はおかしいぞと思うからだ。イーストウッドは事件の鍵となる要素を隠しておいて、後で観客に提示するようなことはしていない。最初に手の内をさらしている。注意して見聞きしていれば、展開のおかしさに気が付く。それから類推すると犯人に気づくかもしれない。 しかし、イーストウッドが一番描きたかったのは、おたがい近所で育った同年代の3人の男たちの関係だろう。おそらくは近所というだけの浅いつきあい。悲惨な事件が起きても、慰めたり、話しを聞くとか相談相手になってやることもなかった(はず)。その結果、25年後に起きた事件で再び言葉を交わすようになっても、第三者からデイブと友達かと聞かれればハッキリと「違う」と否定する。 被害者なのに事件の性格ゆえ、周りから避けられるようになってしまうデイブ。25年前に道路に書いたイタズラガキの名前が書きかけのまま残っているのが象徴的だ。そして幼い頃からルールを無視するジミー。流されやすいショーン。そしてたびたび映し出される、周りから町を遮断し孤立させているかのような大きな河……。 前科のあるジミーの妻を演じるローラ・リニー(「ライフ・オブ・デビッド・ゲイル」の主人公の友人役)、普段から少し奇行のあるデイブの妻を演じるマーシャ・ゲイ・ハーデン(「ジョー・ブラックをよろしく」の長女役)も、それぞれの夫にふさわしい性格付けの名演技。二人の存在がこの事件をより悲劇的にしている。どちらも理想的な妻像の反対を行っているような感じだった。 ショーンの相棒を演じるローレンス・フィッシュバーンと、別居中らしいショーンの彼女(妻?)だけが中途半端な気がした。 公開初日の初回、銀座の劇場は45分前に着いたら予想に反して下のエレベーターがもう動いていて、5Fの劇場へあがるとすでに50人くらいの行列。男女は半々で、30代以上がほとんどという感じ。こんなものかと思っていたら、5分くらいの間に20〜30人増えた。20代も増えてきたようだ。そして35分前に開場したときには、すでに100人くらいの行列に。さすが話題の映画。でもクリント「ダーティハリー」イーストウッドが監督だって知っているんだろうか。当然40代以上は知っているだろうが……。 初回のみ全席自由で、10席×6列の指定席と10席×1列のぴあ席も自由。ただし、右中央よりやや後ろの3列のレディース・シートは男性が座ると注意される。入り口で説明していたのに座って注意されているオヤジが1〜2人。 最終的には広めの540席の9.5割(ほぼ満席)が埋まってしまった。すばらしい。というか気持ちいい。 それにしても、最後のクレジットを見ていたら、音楽までクリント・イーストウッドとは驚いた。才能のある人はどこまでも凄い。「遊星からの物体X」や「スターマン」の監督、ジョン・カーペンターみたい……ってたとえが良くないか。 |