ビスタ・サイズ/ドルビーデジタル
女子大生の由美(柴咲コウ)の友人、陽子(永田杏奈)の携帯に3日後の日付のメッセージが残されていた。発信元は自分の携帯の番号で、陽子の声と思われる悲鳴が入っていた。そして3日後、携帯のメッセージの時間通りに、陽子が電車に飛び込んで死んだ。さらに数日後、合コンで知り合い携帯の番号を交換したばかりのケンジ(井田篤)の携帯にも、先の時間のメッセージが届き、その時間にエレベーターの事故で墜落死する。 |
怖い。「呪怨」などとは違ってちゃんとストーリーがあり、その謎を解くミステリーの要素もあり、家庭内暴力の問題も取り込み怖くて悲しい物語に仕上げられている。どちらかといえばバイオレンスで強烈な印象を残す三池崇史監督(傑作「オーディション」もめちゃくちゃ怖かった)が、真正面から丁寧にホラーを描いて見せる。98%くらいまで、これはスゴイ、正統派のホラーでやられたな、と思っていたら……最後の最後でどんでん返し、というか三池監督らしさ(?)が炸裂。おいしい料理を口の中で咀嚼し、味わって、さあ飲み込もうというときに首に巻かれたロープを締められて飲み込めなくなって、それで終わり……おい、おい。いかせてよ、って感じ。 傑作ホラー小説「リング」のようにやがて訪れるだろう「死」から逃れようとジタバタするところがおもしろい。そして事件の真相を暴いていくところが、良くできた推理もののようでスリリングだ。物語の構造としては本当に「リング」に近いかもしれない。呪いのビデオならぬ呪いの携帯電話。しかもそれは特定の携帯電話ではなく、記憶されている電話帳の中からランダムに選ばれてやってくるだけにタチが悪い。 自分もターゲットになる女子大生の柴咲コウと、妹を殺された葬儀屋の堤真一が、恐怖におびえながらも事件の謎に挑む。謎を解かなければ自分の身が危険だし、妹の無念を晴らせない。 一番良かったのは、事件をかぎつけたテレビ局が、次の死の予告があった女子大生(吹石一恵が好演)を予告当日テレビ番組に霊能者などと共に出演させ、それを生放送するところ。いかにもテレビ人、秋元康の原作らしい。果たして霊能者の祈祷と衆人環視の中で、超常現象は起こってしまうのか。最先端技術のあるところと、対極にある霊をぶつけるところはさすが。そして、みごとにコトを起こしてみせる。そうか、こういう手があったか。見事。そして怖い。 児童虐待のひとつである代理ミュンヒハウゼン症候群……この聞き慣れない言葉が事件の鍵であり、主人公の柴咲コウのトラウマ(穴の中をのぞけない)の原因と、戦慄すべき過去を解き明かす鍵でもある。この辺がまたうまく、そしてここがまた非常に怖い。柴咲コウの母を演じた女優さんは迫真の演技で、思わず全身が総毛立ったような気がした。すっごい、ホントに。っていうか、あんまり思い出したくない。怖いから。 とにかくこの終わり方は納得できなかった。監督としては事件は解決したということなんだろうが、ハリウッド映画のようにラストでパトカーが駆けつけてきても、犯人がわかっただけでは事件は解決ではないと思う。そして、解決したとしても、冒頭のシーンに戻って考えてみると、なぜこの映画での最初の事件(映画では描かれていないが、すてでに起こってしまった事件もあるらしい)が起きる前に、柴咲コウの肩にあった白い手の理由が説明できないではないか。それとも、あれには意味がなくて、ただ単に観客を怖がらせたかっただけなのか。うーん、わからん。 公開2日目の初回、新宿の劇場は45分前で、30代後半らしき男性とボクのみ。30分前に開場した時点では8人。男女半々でほとんどは高校生くらいから大学生くらいで、邦画ホラーの観客の特徴がそのまま出ていた。 ただし20分前でも16人で、つまりはこの寒い季節にホラーはいかがなものかと。これ以上寒くならなくても良いということなのかもしれない。 10〜15分前から徐々に人が増えだして、最終的にはスクリーン位置が低めで前席の人の頭が気になる586席に2〜3割の入り。「呪怨」よりはいいと思うが、この入りは季節的な問題か。劇場の問題か。 指定席なしというのは嬉しいが、立ち上がると座面がパカッと持ち上がって、いちいちバンバタンと音を立てるのがうっとうしかった。 |