2004年1月31日(土)「シービスケット」

SEABISCUIT・2003・米・2時間21分

日本語字幕:丸ゴシック体下、平尾圭吾/シネスコ・サイズ(マスク、with Panavision)/ドルビーデジタル/dts/SDDS

(米PG-13指定)

http://www.uipjapan.com/seabiscuit/
(全国劇場案内、サラブレットの基礎知識、シービスケットの系図もあり。音に注意)

1910年、ニューヨークからサンフランシスコに移り、自動車の販売を始めたチャールズ・ハワード(ジェフ・ブリッジス)は、成功を収め巨額の富を手に入れたが1人息子を自動車事故で失ってしまう。そのころカウボーイのトム・スミス(クリス・クーパー)は、自動車の台頭により職を失おうとしていた。そして、裕福な大家族の長男として生まれたジョニー・ポラード(トビー・マグワイア)は、1929年の株価大暴落に始まる世界大恐慌で一家は破産状態となり、ジョニーは乗馬がうまかったことから草競馬をやっている男に養子に出されることに。1933年、再婚したハワードはシービスケットという競馬馬を買い、調教を自分が見込んだスミスに託す。そしてスミスは騎手としてポラードを選ぶ。

73点

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 実に優しい映画。いたるところに優しさがあふれている。見ている方まで優しい気持ちになってくる。そしてくじけない心で、未来を切り拓いていこうとする姿勢に力づけられる。年末や新年、誕生日とか何か特別な日にはこんな映画が良いと思う。

 ただし、優しすぎて、メリハリまでもが希薄になっている。「一度や二度のつまずきは、誰にでもある」というキャッチ・フレーズどおり挫折と立ち直りを描こうとするならば、挫折は大きいほど良いし、ハッキリとした敵、憎まれ役がいないと立ち直りが感動的にならない。

 実話の映画化なので、実際の話としてはこういうものなのだろう。そうそう実生活に絵に描いたような敵役がいるわけではない。ほとんど周りのすべてがいい人でも悲劇的な事件は起きるし、悲惨な状況になることはあるだろう。また、アメリカでは有名な話で、あまり大胆に脚色することが許されない話なのかもしれない。

 しかし、映画としてはいい悪役がいて主人公が引き立つのだ。それが、ほとんど誰も悪人がいない物語では、感動的ではああるのだけれど、話がサラーと流れていってしまう。引っかからない。たとえば主人公の身請けをした男が徹底的に悪いヤツで、主人公を徹底的にイジメ、そこから逃げ出したいと思わせるような人物だったとしたらどうだろう。そして、もしライバルとなるジョッキー(騎手)、アイスマン・ウルフ(本物の名騎手、ゲイリー・スティーヴンスが好演)がセコイやつで、卑劣な手で主人公のじゃまをしたり、代役で出走するとそのまま主人公のポジションを奪おうとするセコイやつだったとしたら。そして、主人公が恋をしてそのライバルがアイスマン・ウルフだったり、もっと強烈なヤツだったりしたら……主人公がまだまだ大人になりきれず、馬鹿なことをしでかすようなヤツだったとしたら……物語はきっともっと面白くなったに違いない。

 ただし、こうすればどんどん実際に起きたこととは違っていくだろう。関係者でまだ存命の方たちがいらっしゃったりすれば名誉毀損ということにもなりかねない。

 同様に残酷シーンになるような部分は直接描くことをせずに、問題のカットの前後だけで見せたり、場面転換させてすでに起こったこととして観客に想像させる手法。アメリカで言うR指定にしたくはなかったのだろう。

 特に良かったのはレース・シーン。カメラが馬たちと一緒に移動し、まるですぐそこで見ているような臨場感にあふれている。サラウンドの効果も抜群、大迫力だ。

 監督は脚本家から監督になったゲイリー・ロスという人。脚本家としてのデビュー作は、トム・ハンクスの出世作ともなったファンタジー「ビッグ」(Big・1988・米)。そしてトム・セレックが日本の野球界にやってきて文化に違いに苦労するという高倉健も出演の「ミスター・ベースボール」(Mr.Baseball・1992・米)、大統領のそっくりさんがシロートゆえの誠実さで政治を変えていくというシガーニー・ウィーバーも出た「デーヴ」(Dave・1993・米)、そして監督も兼ねた「カラー・オブ・ハート」(Pleasantville・1998・米)。この作品は「キューティ・ブロンド」(Legally Blonde・2001・米)のリース・ウィザースプーンと「楽園をください」(Ride with the Devil・1999・米)のトビー・マグワイアの出世作となった……いずれも話題になったヒット作ばかり。しかもベースがコメディというのが共通している。この人の持ち味は、コメディ・ベースにファンタジーで人生を見せてくれるところなんでしないだろうか。

 本作は、それで言えば人生は見せてくれるのだけれど、首尾一貫してシリアス。ゲイリー・ロスらしく小技のギャグはわずかにあるものの、基本的に笑わせようとはしていない。これはどうなんだろう。原点に返るべきだったんではないだろうか。余計なお世話だけど。

 公開8日目の初回、40分前に銀座の劇場に着いたら、珍しくシャッターも開いていない。あれれ、いつもは1時間くらい前には開いているのに。すでに25人ほどの行列で、それはほとんど中高年。夫婦が1/3ほどいるだろうか。女性が1/3という印象。

 30分前になって開場した。この時点で行列は50〜60人ほどだった。やや若い女性が増えただろうか。

 初回のみ全席自由で、17席×2列のカバーのかかったプレミアム・シート(ここは基本的に初回以外は全席指定)もすべて自由。最終的には654席の7割ほどが埋まり、男女比はほぼ半々に。始まる前に競馬のCMが入った。


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