2004年4月10日(土)「タイムリミット」

OUT OF TIME・2003・米・1時間45分

日本語字幕:手書き書体、下、岡田壮平/シネスコ・サイズ(マスク、with Panavision)/ドルビーデジタル・dts

(米PG-13指定)

http://www.timelimit.jp/
(入ったら音に注意。全国劇場案内もあり)

フロリダの小さな町バニアン・キーの警察署長マット・リー・ウィットロック(デンゼル・ワシントン)は妻と別居中で、しかも夫の暴力に悩む人妻アン(サナ・レイサン)と密かな関係を持っていた。ところがある日、アンが癌におかされていることがわかり、余命6カ月だという。スイスへ行って代替医療を受けるには数十万ドルの金がかかるという。自棄になるアンに同情したマットは、麻薬と一緒に押収した証拠品の現金を持ち出すが……。

73点

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 おもしろい。なかなかハラハラどきどきの展開。どんどん最悪の結末に向かって進展していくかに見えるが、これがラストでうまい具合に急展開して、収まるべきところに収まる。これはこれで、気持ちいい。ただひとつ問題があるとすれば、大前提である主人公と相手の女の関係が、完璧な不倫だということ。マットは離婚を前提とした別居中だから少しは大目に見たとしても、相手は完璧な人妻だ。いくら夫の暴力に苦しんでいたとしても、離婚する努力をすべきで不倫をして良い理由にはならない。とくにキリスト教圏ではこの部分に関して厳しいはず(IIMDbで6.4)。おそらく、この設定がもっと違うものだったら、評価はもっと良かったはず。ただ、この展開と結末はこの設定でないと成立しないのだろうけれど。うーん。

 不倫が前提だと、犯罪が前提なのと同じで、主人公の苦境に同情が出来ないのだ。デンゼル・ワシントンが演じているので、どこかに人の良さとか正直者という感じがして、なんとなく許せる感じはあるんだけれど、結局は自業自得だろうって感じがしてしまう。それを逃れていくのに、どうみても署長という権力を利用(悪用)しているし、それは犯罪だろうというツッコミを入れたくなってしまう。かわいそうだから目をつぶってやろうという気にはならない。

 だから、冷たく「早く正直に事情を話して、助けてもらえよ」って思ってしまう。こうなるとこの映画は成立しないわけで……。本作の脚本家デイヴ・コラードによれば「正しい理由のために間違いを犯してしまう善人」を描いたらしいが。

 これ以外はとにかく良くできている。主人公があがけばあがくほど、どんどん深みにはまっていき、閉塞状況に陥る。アリ地獄のような状況。これがすごい。一体どうやってこのアリ地獄からはい出すのか、ここがこの映画の最大の見所。

 最初の方に出てくるアップ・カットにヒントがあり、それをうまく使って突破口を見いだす。これは「シャレード」(Charade・1963・米)とか「アラベスク」(Alabesque・1966・米)〈どちらもスタンリー・ドーネン監督作品〉とかの設定にとても近い気がする。どちらも名匠スタンリー・ドーネンのちょっとコメディの味付けをしたサスペンスで、コメディの味付けを薄くすると本作になるかなと。本作のコメディ・パートはほとんど検死官(たぶんチェイ(ジョン・ビリングスレイ)という役名だと思うが)ひとりが担当している。ただ、ちょっと皮肉というかおふざけが過ぎて笑えないところもあるが。

 この映画では興味深いことがちょっとだけ触れられていて、1つは代替医療(日本補完代替医療学会)。癌の治療などで、まだ科学的に証明されていない治療法のことを言うらしい。そのためその療法を実施してくれるところは限られている。本作では、そのためにスイスへ行くという話が出てくるわけで、さらに当然ながら保険もきかないから、莫大なお金が必要になる。

 そしてもう1つは、アメリカには生命保険を買う会社があるということだ。生命保険を余命分で買い取り、加入者にお金を支払ってくれる。そして本人が死亡すれば支払われる保険金は買い取った会社が受け取るのだ。不治の病などで余命がハッキリした段階で買い取ってもらえば、本人は生きているうちにそのお金を使うことが出来るというわけ。なるほどなあ。日本にはあるんだろうか。

 もう一ついいのは、美しい風景とハード・ボイルドの独特の雰囲気。フロリダはもっと若い世代向きなのかと思っていたが、意外にアダルトな雰囲気も持ち合わせているらしい。警官が白いポロシャツと紺の七分ズボンが制服なのもおもしろい。

 監督は「青いドレスの女」(Devil in a Blue Dress・1995・米)で確かな手腕を発揮してみせたカール・フランクリンという人。主演はデンゼル・ワシントンだった。「青い……」の評判がそこそこ良かったことから、本作の出演もOKしたのだろう。脚本には多少不安があったかも知れないが。

 共演で、デンゼル・ワシントンと別居中の妻役になんと「ワイルド・スピード×2」(2 Fast 2 Furious・2003・米)のエヴァ・メンデスが出ている。セクシーな美女だが、ちょっと不良っぽい雰囲気があるので、殺人課の刑事というよりはどちらかというと追われる立場が似合う感じだけど。

 公開初日の初回、新宿の劇場は55分前に着いたら誰もいなかった。うーむ、デンゼル・ワシントンだから結構も混むと思ったのに。45分前になって中年の夫婦とオヤジが4人。35分前に1Fの入り口が開いて、この時点で男女半々のわずか8人。ほとんど中高年のみ、これだけは予想通り。30分前くらいから人が集まりだして、20分前に開場になった時は20〜30人に。

 全席自由で、11席×5列のカバーの席もすわってOK。ただし、床がフラットでスクリーンも低いので、必ずしも指定席が良いわけではない。確実に良いのは音のバランスと定位だ。これだは間違いなく指定席の方がいい。現に、全席自由でも指定席に座らない人がかなり多い。

 最終的には763席に2.5割から3割ほどの入り。あれれ、ちょっと少なすぎるんじゃないだろうか。不倫ということ以外はとても面白いのに。

 座席の一番後ろには。配給会社の人らしい一団、10人ほどが。人数が多すぎるって。何もイベントもないのだから2人で十分。


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