ビスタ・サイズ/ドルビーデジタル
西暦2131年、人類は核を使わない世界大戦を引き起こし、世界中が廃墟と化した。その戦いを戦士として戦い抜いたデュナン・ナッツ(声:小林愛)は、ある一団によって平和都市オリュンポスへと連れて行かれる。そこは戦後、唯一繁栄していた都市で、遺伝子操作された優良種クローンの「バイオロイド」と人間が共存していた。そしてかつての恋人ブリアレオス(声:小杉十郎太)があらわれ、戦闘で体を失いサイボーグとなったと告げる。 |
おもしろい。なかなかハラハラどきどきの展開。どんどん最悪の結末に向かって進展していくかに見えるが、これがラストでうまい具合に急展開して、収まるべきところに収まる。つまり士郎正宗の原作が良くできているということだろう。 その原作の「アップルシード」は士郎正宗の1985年のプロ・デビュー作なのだそうで、なるほどそう言われるとそんな気がする。随所に「攻殻機動隊」の原型のようなものがある。そして「機動警察パトレイバー」っぽさがあるところをみると、発表年代から考えるとこちらが先で、「パトレーバー」に大きな影響を与えたのかもしれない。 とにかく、フルCGの完成度が高い。そしてCGに懲りすぎると魅力的でなくなってしまうことが多いけれど、本作はキャラクターがとても魅力的。きっとフィギュアがよく売れることだろう。主役のデュナン・ナッツの魅力的なこと。ちょっと少女漫画的に、異様なほど目が大きいのだが、物語が進むに連れて気にならなくなる。そしてだんだん美人に見えてきてホレでしまう。ここまで感情移入が出来れば、映画はほぼ成功したと言っても過言ではないだろう。 そしてメカ・デザインが秀逸。説得力があって、どこか色っぽさも兼ね備えている。特に銃は、どれもいかにもありそうなデザインで、どこかの国の制式銃かと調べようとしたほど。うまい。 手法としては、押井守監督の「イノセンス」と同様で、背景画をCGの完璧な3D細密画にし、人物をセル画調として単純化して逆に際だたせるとというもの。つまり従来のアニメの手法の逆だ。従来は人物を描き込み、背景は望遠レンズでぼけたような単純化したりぼかして描くことによって人物を際だたせていた。 で、本作はその手法を使いつつ、人物も本当に3D-CGで作られていて、トゥーン・シェーダーでアニメ調に単純化されている。しかしあえてアラを探して言うとすれば、単純化していても正確に3D化しているから、鎖骨あたりにチラチラと小さな影が付いたり消えたりして、気になった。 また、ほとんどすべて人間などの動きはモーション・キャプチャーで実現されていて、それゆえわずか1年でこのクォリティの作品を完成できたのだろう。主人公のキャラクターには声と表情のキャプチャー担当、普通の芝居のキャプチャー担当、アクション(スタント)のキャプチャー担当と3人もが関わっている。当然、いままでのアニメの動きを超えている。といっても、近頃のゲームのムービーの完成度を考えると、やっと追いついてきたとも言えるわけだが。 これもあえて言えば不自然さがある。本当の動きを取り込んでいながら不自然というのは適切でないように聞こえるかもしれないが、同じ手法で作られたらしいアニメの「スパイダーマン」(AXN、NTV系)を見ているとその不自然さをあまり感じさせない。なぜかと考えていたら、CGの本にモーション・キャプチャーは「モーション(動き)」を捕らえるのは得意だが、「スチル(静止)」を捕らえるのは得意ではないとあった。そのため、すべての動作が流れてしまうのだ。メリハリの欠如。京劇や歌舞伎のような動作の止めがない。最先端のモーション・キャプチャーでは、改良が加えられて、うまく静止も捕らえられるという。そのシステム(静止キャプチャー)を使って、さらにキー・フレーム・アニメーションを併用して作られたのが「ロード・オブ・ザ・リング2」のゴラムなのだと。 たぶん似たようなことなのだろうけれど、主人公とヒトミというバイオロイドはともに少女漫画的に目が大きく(それもかなり)、アップになるとやぶにらみというか、焦点が合っていない気がしてしまう。だから木偶人形というかアホのように見えてしまうことがある。とても深みがあって美しい瞳なだけに、惜しい気がした。 ま、いずれも重箱の隅をほじくる話で、大勢に影響はない。ストーリーに没入できれば全く気にならないレベルの話だ。 公開初日の初回、新宿の劇場はよい劇場に変更になっていて(良かったぁ)、55分前に着いたにも関わらず既に20人ほどの行列。ただし、予想どおりアニメの観客は非常にレンジが狭い。ほとんど18〜25歳の大学生くらいのみ。押井守監督の「イノセンス」と違って、女性が1人もいなかった。男のみ。うーん、むさ苦しい。 45分前になって40人くらいになり、ようやく若い女性が1人。うーん、女性も多いだろうと思ったのだが……。天気の良い日で、列は直射日差高の当たるところに作らされており、かなりつらい。35分前にやっと開場し中へ入ったときには、女性数人と、オヤジ10人くらいになっていた。 最終的には、指定席なしの406席に7割ほどの入り。ピンがあまい気がしたが、気のせいだったのか。あれ、初日は限定のDVDのプレゼントがあるんじゃなかったの? 勘違いか……。 |