2004年4月25日(日)「コールドマウンテン」

COLD MOUNTAIN・2003・米・2時間35分

日本語字幕:手書き書体、下、菊地浩司/シネスコ・サイズ(マスク、Arriflex、スーパー35)/ドルビーデジタル・dts・SDDS

(米R指定)

http://www.coldmountain.jp/
(入ったら音に注意。全国の上映館案内もあり)

南北戦争が終わりに近づいた1864年夏、北軍の攻勢が始まり、南軍のインマン(ジュード・ロウ)は重傷を負って病院に送られる。そしてそこで、戦争前に知り合った女性エイダ(ニコール・キッドマン)から「待っているから帰ってきて欲しい」という内容の手紙を受け取り、脱走兵の危険を冒しても故郷、コールドマウンテンに帰る決心をする。

85点

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 参った。やられた。久々に感動巨編を堪能した。これは面白い。ちょっと涙が……。

 ボクは監督のアンソニー・ミンゲラの作品がどれもあまり好きではなかった。アカデミー賞を9部門も獲得して話題になった「イングリッシュ・ペイシェント」(The English Patient・1996・米)さえあまり好きではない。不倫を重厚に描かれてもなあという感じ。続く劇場作品「リプリー」(The Talented Mr.Ripplry・1999・米)に至ってはなぜリメイクしたのかさえ理解できなかった。久々にヒドイ映画を見たと思ったほど。

 それで、本作も全く期待していなかった……どころか見に行く気さえなかった。ところが舞台となるのが南北戦争と予告編で知りも気が変わった。極端な言い方をすれば、アメリカの南北戦争を描くということは「西部劇」ではないか。いままで真っ直ぐではない愛をテーマにずっと描いてきた監督だが、ひょっとしてという何か予感のようなものが働いて見に行くことにした。

 いやあ、見て良かった。見なかったらあとで後悔していたと思う。これを大画面で見ないと、見事な大自然のスケールと、その中で1人ぼっちという感じ、戦争の恐ろしさ、は半分も伝わらないような気がした。マスクながらシネスコなので、普通サイズのテレビではこの迫力は無理。

 珍しくというか、初めてなのか、テーマは純愛だ。それもたった1回のキスしかしていない、少年と少女の間に芽生えるような幼い愛。それゆえにピュアで、真っ直ぐだ。アンソニー・ミンゲラの興味は不倫だけじゃなかったんだ。これで監督に対する見方が変わってしまうなあ。原作があって、チャールズ・フレイジャーの同名小説は全米でベストセラーになり、賞も受賞している。

 まずいいのは、冒頭に描かれる実際にあった1864年のピーターズバーグ(南部連合国の首都ピッツバーグまで30kmほどの裏口を守る砦)のクレーター戦いの再現。7月30日に北軍の炭坑夫の連隊が南軍の防衛線の下にトンネルを掘り大量の爆薬を仕掛け吹き飛ばすところから始まる。これが、スゴイ。1人の兵士が「空に大穴が開くぞ」という。本当にそう思えるほどのSFXと編集、演出。ビックリした。そして行われる北軍の突撃は、「ロード……」シリーズのモブ・シーンを圧倒し、傑作「スターリングラード」に匹敵する怖さと迫力と臨場感。観客は一気に戦場の恐怖を思い知らされる。死傷者はこの戦いだけでおよそ5,300人におよんだという。

 主人公がとてもシャイで、女性とは話もできないというところも良い。観客がやきもきするほど、インマンは気持ちを伝えられないのだ。そしてエイダもお嬢様育ちで、また昔のことでもあり、女性から気持ちをあらわにすることはない。でも、それぞれの思いは微妙な演出で観客には伝えられるから、うまく行くことを願わずにはいられなくなる。ウマイ。

 それで、「帰ってきて」という彼女の手紙で、銃殺という刑に処せられることを承知で脱走兵となってしまう。病院からの脱出だけでもハラハラドキドキ。その後、彼は数百Kmを何ヶ月もかけて歩いて故郷のコールド・マウンテンを目指す。この途中、いい人、悪い人、男性(とんてでもない破戒僧、フィリップ・シーモア・ホフマンがいい)、女性(ナタリー・ポートマン演じる幼子を抱えた未亡人がいい)、老人、若者、いろいろな人に出会うわけで、これがロード・ムービーになっていてまた素晴らしい。こんどこそタメか、死んでしまうかというときに、何か見えない力によって助けられる。

 そして憎たらしいヒール、元地主のティーグをリーダーとする義勇軍の存在。ほとんどの男がいなくなってしまったコールド・マウンテンを我が物顔に取り仕切り、脱走兵狩りを行っている。エイダには何かと好色な目を向けてくるのだ。これでハラハラがより盛り上がる。

 さらに物語に厚みを加える の存在。村の人々はキャシー・ベイカー演じる親切なご近所さんはじめ、みな存在感のある脇役が多いのだが、中でもアカデミー助演女優賞を受賞したレニー・ゼルウィガー演じるルビーがいい。ことごとくエイダと正反対という設定が秀逸。エイダはお嬢様で、実際に役に立つことはするなと何も教えられていない。星座の名前を知っていたり、ピアノが弾けたりしても、料理も作れないし、まして畑を耕して野菜を作ることなどできるはずがない。一方ルビーは言葉遣いは荒っぽく、やっと文字が読める程度の教養しかないが、鶏を絞めたり、家の修繕をしたり、畑仕事もなんでもテキパキとこなす。多少ステレオタイプではあるが、この対比の鮮やかさ。

 みんなが苦しいときに助けてくれる人と自分のことしか考えない人。本性があらわになる。こんなとき差し伸べられる温かい手のうれしさ。これが良く出ている。自分もほとんど食べるものさえないのに、それを分けてくれる人がいることの感動。泣ける。

 未来が見えるという井戸に映ったものは……。まさかこういうエンディングになるとは。

 インマンが途中手に入れるピストルは、南北戦争で南軍が使ったル・マット・リボルバー。銃身が2本あって、1本は通常のパーカッション・リボルバーと変わらないが、回転弾倉の中心にあるもう1本は大口径またはショットガンの単発。わざわざこんな銃を用意しているということは、他の細部も同様に考証がしっかりとなされているのだろう。

 公開2日目の2回め、劇場が変更されて70mm対応の劇場になっていた。嬉しい。あのスクリーンが見えにくいアナログ館じゃあなあ……。入れ替えの45分前に着いたら、だれもいない。まあ地味といえば地味だし、あまり派手な宣伝はやっていないし、こんなにものかなあと。

 15分前くらいから人が増えだす。さすがに中高年が多い。若い人もちらほらと来だした。しかし5分前になっても劇場からの案内はなく、誰も整理にやってこないので、お客さんが自主的に列を作り始めた。スタッフは一体何をやっているんだろう。次の準備で忙しいのか。

 最終的には指定なしのスタジアム形式420席に、4割程度の入り。これはおかしい。もっと入ってしかるべき名作だと思う。老若比は3対1くらいで中高が多く、男女比は半々くらいか。ちょっとオバサンが目立った。あとはクチコミでどこまで観客数が伸びるか。見るべし。


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