2004年5月9日(日)「ミッシング」

THE MISSING・2003・米・2時間17分

日本語字幕:手書き書体、下、戸田奈津子/シネスコ・サイズ(マスク、super 35、ARRI)/ドルビー・dts・SDDS

(米R指定)

http://www.uipjapan.com/missing/


西部開拓時代も終わりに近づいた1885年、ニューメキシコ州のはずれでマギー・ギレクソン(ケイト・ブランシェット)は2人の娘、リリー(エヴァレン・レイチェル・ウッド)とドット(ジェナ・ボイド)と3人で、牧場経営と治療師をやりながら暮らしていた。そんなある日、町へ出かけた娘たちが騎兵隊から脱走したアパッチ族の呪術師に率いられた一団に襲われ、リリーが連れ去られてしまう。マギーは、ずっと家を捨ててインディアンとして暮らしていた父親ジョーンズ(トミー・リー・ジョーンズ)に協力を依頼する。

75点

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 「コールド・マウンテン」に続く西部劇。もはや昔のように単純なアクション活劇は作りにくくなってしまったようで、なかなか重いテーマのドラマが展開する。おもしろい、とは言いにくいが、これはすごい。西部開拓時代は、女にも男のようにたくましく生きることを強いた。特にシングル・マザーには過酷だった。ただ、それは「エイリアン2」などに描かれている強い女というのとは微妙に違い、強く生きざるを得ない母としての女の姿ではある。

 しかし、ちゃんと銃撃戦や呪術といったエンターテインメントの要素も取り込まれ、観客を飽きさせない。さすがは「コクーン」(Cocoon・1985・米)や「アポロ13」(Apollo 13・1995・米)、「ビューティフル・マインド」(A Beautiful Minf・2001・米)のロン・ハワード監督。以前にもトム・クルーズとニコール・キッドマンで「遙かなる大地へ」(Far and Away・1992・米)を撮っている(これがきっかけとなって2人は結婚した)。2004年公開予定のジョン・ウェインが1960年に撮った「アラモ」のリメイクのプロデューサーもやっていることを考えると、西部劇というきわめて映画らしいジャンルが好きなのかも。といっても、ロン・ハワード監督は歴史物からSF、ドラマ、アクションと何でもそつなく撮れる職人監督のような人なのだが。

 そのロン・ハワード監督らしさは、単なる西部劇というだけではなく、呪い師というオカルトチックな要素、分断されたファミリー、ただものではないオヤジ(トミー・リー・ジョーンズ)になど象徴されている。普通の西部劇とはちょっと違う。しかも主役のマギーは女だてらに治療師などという怪しげな職業だ。自ら銃を手に飛び出していくタイプ。

 舞台は1885年という設定で、あと5年でフロンティア・ラインの消滅が宣言される年。しかし、まだまだ辺境の地では無法地帯のようなことが起こっていたし、持っているライフル銃も古くて黒色火薬のウィンチェスターM66イエロー・ボーイ(1866年)だったりする。公式サイトではヘンリー・ライフル(1860年)と書いてあるが、あれは間違い。さすがにそんなに古くはない。オヤジはシャープス・ライフル(1863年か1874年)と通好みの銃。サイドアーム(拳銃)はS&Wのスコーフィールド、しかし44ラシアン(1874年〜1898年)らしく、トリガー・ガードに指かけが着いている。

 いずれの銃もオリジナル完動品だと博物館アイテムだが、最近になって作られたレプリカ実銃があり、こんなにリアルな銃器設定が可能になっている。

 オヤジ役のトミー・リー・ジョーンズはインディアンの言葉(チリカウア族の?)を特訓したそうで、長くて回数も多いセリフをこなしていた。かなり流ちょうなように聞こえたので、相当練習したのだろう。

 それと、ワイルド・バンチのリーダー、ペーシュを演じるエリック・シュウェイグの恐ろしい顔は一見の価値アリ。蛇をイメージしてデザインされたという特殊メイクは、装着に毎日3時間もかかったという。
 「トップガン」(Top Gun・1986・米)のヴァル・キルマーが頼りにならない騎兵隊の士官の役でチラリと登場している。「コールド・マウンテン」ともあわせて見ると、当時、男でさえ生きていくだけでも大変だったろうと容易に想像できる。うーん。

 せっかくのシネスコ(とは言え、1:2.2くらいの比率で上映されたが)なのに小劇場での上映。公開2日目の初回、銀座の劇場は55分前に着いたらチケット売り場も開いておらず、誰もいなかった。延々待たされて、20分前になってようやく窓口が開き、この時点で15〜20人くらいの行列。90%以上は中高年で、しかも高齢者が目立つ。もはや西部劇は若者には受けないのか。きらびやかなスターが出ていないしなあ。

 最終的には183席に50人ほどの入り。女性は男性の1/4〜1/3ほど。20代くらいの人は1/3いただろうか。ちなみにここはカーテンあり。


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