2004年6月5日(土)「シルミド」

SILMIDO ・2003・韓・2時間15分

日本語字幕:丸ゴシック体、下、根本理恵/シネスコ・サイズ(マスク)/ドルビーデジタル

(韓15指定)

http://www.silmido-movie.jp/
(音に注意)


1968年、北朝鮮の武装ゲリラが韓国に潜入、パク・チョンヒ大統領を暗殺しようとする事件が発生した。これに対抗するため政府上層部と中央情報部(KCIA)は、キム・イルソン国家主席暗殺のための特攻部隊、第684部隊を設立することにする。隊員は死刑囚から選ばれ、刑の取り消しが約束された。そして彼らを訓練するために韓国空軍の兵士があてられ、実尾(シルミ)島で地獄の特訓が始まった。

74点

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 実話の映画化。こういう映画が作られるようになったところに、韓国の国の成長、懐の深さを感じることができる。実際、民主化されなかったら真相は未だに闇の中だっただろう。それにしてもこの悲惨さ。まわりではみんなグシュグシュ……うーん、辛い映画。

 しかもほぼ全編小さな無人島の中だけで話が進行し、舞台劇のような感じさえする。この閉塞感。そしてほぼ全編が地獄のような訓練場面。あまりに過酷で、小さな子どもには見せられないと思う。実際来ていないけど。日本では年齢制限されていないようだが、本国、韓国では15歳未満は見られない……。

 過酷な訓練が繰り返し繰り返し、ねっとりと描かれることによって、ラストの結末が余計に堪える。あそこまでやって、それを耐え、部隊としてのまとまりも出てきたというのに。このへんの作りが実にうまい。訓練が延々と3年も続くのに、いろんな事件が起こって飽きさせないところはさすが。ただ、さすがに長い、くどいという感じはしたが。描き方は日本の軍隊ものに似ている気もする。すべてを見たわけではないが、勝新の「兵隊やくざ」(1965)に雰囲気は似ているような……。

 1971年に大統領選挙で対立候補のキム・デジュン(2年後、金大中事件が起きる。映画「KT」(2002)に詳しい)が善戦したことによって、南北融和のムードが高まり、KCIAは作戦の中止と、証拠隠滅のため部隊の抹殺をはかる。なんたる身勝手さ。暗殺部隊を作っただけでも常軌を逸しているというのに、こんどは証拠隠滅ときた。

 韓国では、たしか大問題に発展したと記憶しているが、日本ではあまり報道されなかったような。

 不思議なことに、第684部隊の隊員はいずれも死刑囚だけのはずなのに、市民を巻き添えにしないようにして自分たちの主張をしようとする姿に感動さえ覚える。最後には情が移って、他のどの登場人物たちよりもまともな人間に見えてくる。

 そして最後には、いままで一番彼らをいじめてきた教官が彼らを真っ先に助けようとする。うまい構成と演出だと思う。

 教官役の空軍兵士は全員M1カービン(30連マガジンが付いているのでM2かも)を装備しており、将校は拳銃にガバメントを持っている。一方、北に潜入する第684部隊の隊員は、AKM。一部拳銃も装備しており、それらはちゃんとトカレフになっている。この辺の考証もしっかりしている。エンド・クレジットによると、どうやら銃器の特殊効果は香港のPropsというところが手がけているようだ。

 また、弾着もかなり迫力があり、岩に弾けるときなど思わず役者は大丈夫かと思ってしまうほどだ。そして、訓練で威嚇のため水中に撃ち込まれる銃弾の表現が、きれいでハリウッド並み。というかそっくり。つまりやる気になればハリウッド並みのSFXも使えるぞということだろう。素晴らしい。ただ、標的を置く後ろの弾止めに大きな岩があるのはどうだろう。着弾すれば弾丸が反射、跳弾となって射手をも襲いかねない。

 公開初日の2回目、新宿の劇場は25分前に着いたら、ロビーにたくさんの人。50人くらいはいただろうか。そして煙い。なぜか「シルミド」の観客はタバコを吸う人が多いようだ。もともと換気は良くないロビーなのだが……。

 こんなに人がいるのに、劇場側からの整理はナシ。前回が終わると明るくなるのを待たずに人がドット場内に入った。いいのか、これで。昔の劇場みたい。

 指定席なしの330席はほぼ8割方埋まった。男女比はほぼ半々で、老若比は7対3で中高年が多い。韓国の人が多かったような気もする。韓国語があちこちで聞こえていた。内容から関心の高さは当然だろうと思う。

 中劇場としてはスクリーン・サイズ、天井の高さなど申し分ないのだが、座席が古いため小さくて硬いし、千鳥配列でもないためスクリーンが見にくい。前の席に座高の高い人が座ったので、体をひねって見なければならなかったし、硬いイスのおかげで予告編が終了した時点でもうオシリが痛くなった。ほかの人たちも同じだったようで、細かに姿勢を修正していた。ちょっと手を加えればいい劇場になるのに……残念だ。


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