日本語字幕:手書き書体、下、根本理恵/シネスコ・サイズ(マスク)/ドルビーデジタル
インテリア・デザイナーのカン・ジョンウォン(パク・シニャン)は、結婚のために婚約者が用意した4人がけのテーブルに、地下鉄で母親によって毒殺された2人の少女が座っているのが見えてしまった。ところが、たまたま目の前で倒れた嗜眠症(ナルコレプシー)の女性ヨン(チョン・ジヒョン)を助けて家に連れてきたところ、気が付いた彼女にも少女たちが見えるという。 |
怖い……が、それよりも封印された過去を掘り出す居心地の悪さ、そして結末の後味の悪さで、かなりへこむ。映画の中で起こるすべての事件に当事者として関わったような、嫌な気分。映画の出来が良いだけに、それらがどどーんと心のに重くのしかかってくる。 この映画はうまく作ればうまく作っただけ気分が悪くなるという、そういう仕組みになっている。落ち込んでいる人がこの映画を見ると、なんだか人生に希望が持てなくなってしまうのではないかとさえ思える。それくらい強烈だ。とにかくうまい。うまいけれど、お金を払って見て良かったかというと……。うーん……。 映画でこんなにへこんだのは久しぶり。ボクは映画を見て泣いたり、落ち込んだりというのが苦手。いろいろ考え方はあるけれど、基本的には映画はエンターテインメントだと思っている。女性には泣くためにある映画を見に行く人もいるようだが、ボクはダメだ。そういう映画ではないと思って見に行って、結果として悲しかったり感動して泣くのはいいのだが、初めから「泣かすぞ」という映画は見たくない。で、この映画はホラーだと思って見に行って、自分自身の思い出したくない過去を暴かれたような、全く意図しないけれど結果として人を殺すことになってしまったような、そんな気分にさせられた。決して気分は良くないが、ここまで感情を動かされるということは、脚本や演出が卓越しているということだと思う。 その気分は別として、気になったのは、映画に登場するいくつかの謎が解き明かされないまま終わってしまうこと。ひょっとしたら回答が映画の中にさりげなく織り込まれているのかもしれないが、あれだけ挑発的に謎を誇示しておいて、観客には1回見たくらいでは答えがわからないというのはダメだと思う。公式サイトによれば「8つの謎」があるそうで、どうやら「近日中」に明かされるような雰囲気だが、どうなんだろう。可能とは思えないが。だいたい8つも明かされない謎があると公式サイトが認めていること自体、問題はないだろうか。 主人公のインテリア・デザイナーを演じたパク・シニャンは、あまり俳優という感じがしない自然さが良い。事件に巻き込まれ、翻弄される役柄にピッタリだ。ヒーロー・タイプではないけれど、実在感のある人なのでじわじわと活躍してくれそうだ。 一方、「猟奇的な彼女」(2001)のチョン・ジヒョンは華があって、スターっぽく、しかも演技がうまいのでちょっと出るだけでも印象に残る。特に何十回も撮ったという倒れ方(気の失い方)が素晴らしい。ボクは未見だが「猟奇的……」の予告編で見た活発で積極的なキャラクターと、今回のまったく正反対な薄幸の美女役と、どちらも見事でまさに女優を感じさせる。今後の活躍にますます目が離せない人だ。 監督と脚本はイ・スヨンという1970年生まれの女性で、どうやら過去とからめて心のヒダを描くというのが得意なようだ。本作もホラーの形は取っているが、まさにそんな感じがする。本作が長編映画としては初の作品だそうだから、今後に期待が持てる。 ジェーン・カンピオン監督の「ピアノ・レッスン」(1993)のときも感じたのだが、女性監督は割と嫌なものでもズバリと描くことが多いようだ。ホリー・ハンターの娘役のアンナ「X-men」パキンが船酔いで吐くところなど口からものが出るところまで克明に描いていたが、本作でもバックしてきたトラックに道路で遊んでいた小さな子が轢かれる場面があり、タイヤの下になり乗り越されるまでが克明に表現されている。人が落下するところも、頭が床に激突するところまでカットせずにリアルに描いている。どれも男性監督はあまり明瞭に描かないし、スプラッターもので描いてもこんなにリアリティはない。身の毛がよだつ。アンナ・パキンの吐くところなど、おもわずもらいゲロしそうになったほどだ。恐るべし女性監督。 公開2日目の初回、新宿の細長い劇場は、9時からという早い時間だったためか35分前に着いたら5人しか並んでいなかった。全員男性で、オヤジ2人に20代後半らしき人が3人。30分前に開場し、この時点で15人くらいに。20代中頃の女性が3人いた。 20分くらい前からどんどん増えだして、結局、上映開始時には224席がほぼ満席となった。これはビックリ。男女比も6対4くらいになり、女性もそこそこ増えた。年齢的には2/3が20代、1/3が中高年といった感じ。若者の支持が多かったのがまた意外だった。チョン「猟奇的な彼女」ジヒョンのおかげか。 それにしても、この劇場は縦に細長く、イスが深いためスクリーンが見にくい。しかも字幕は下に出る。せめて千鳥配列になっていればいいのだが、前の席に座高の高い人が座るとかなりストレスがたまる。 初日プレゼントがあって、韓国コスメのサンプルというのをもらったが、男としてはあまり嬉しくなかった。だいたい男性が多かったし、客層の読み違いってことはない? 終わって劇場を出たら階段に長い列ができていた。なかなかの人気らしい。スゴイ。 |