ビスタサイズ(1.66)/ドルビーデジタル
(日PG-12指定)
日之出ビールの城山社長(長塚京三)が誘拐され、身代金5億を要求する事件が発生する。ところがほどなく社長は解放され、事件は解決したかに見えた。しかし、今度は日之出ビールに異物が混入されるという事件が発生する。 |
うーん、いい出来の映画だと思うが、暗い気持ちになった。落ち込んで、凹んで、劇場を後にした。 誰も得をしないどころか、関わった人それぞれが何かを失ってしまう。それは犯罪を犯した側も、そして取り締まる側も、被害者のはずの仕掛けられた側も。なんと悲惨な話なのだろう。ほとんど望みもなく、冬の訪れを告げる雪で幕を閉じてしまう。わずかにレディと呼ばれる少女の笑顔と、会社をクビになってしまった機械工の若者から届けられたクリスマス・プレゼントが、救いだ。 不景気なこの時期に進んで見たくはない内容かもしれない。どうして日本のドラマってこうもウエットなんだろう。しかもミステリーというか、事件の謎解きや刑事達が捜査を進めて犯人を追いつめていく側面がメインになっていない。ボクはてっきり「グリコ・森永事件」にインスピレーションを得て書かれたというそっちがメインで、サイド・ストーリーとして悲惨な話があるのかと思った。構成としては「半落ち」(2003・日)と似ている。原作はミステリーだと思っていたが、人間ドラマのほうに重きを置いている。原作を読んでいないボクが言っても説得力が無いのだけれど。 はっきり言って、ドラマを録るほうが予算がかからない。ある部分、監督の演出と俳優の演技に限定してしまうことができるわけで、セリフまわしとかで済んでしまう面がある。場所を変え、時間を変え、何気ないカットや緻密な細部の描写の積み重ねという手間のかかることをしなくてもいい。この映画というわけではないが、予算のなさをドラマで逃げてしまうという手があるわけ。そしてドラマを撮ったほうが単なる娯楽作ではなく、ゲージツだというような風潮があることも事実。まあ本作の場合、原作は大部なので、映画化するに当たり一番面白いところ、エキスを抜き出すと人間ドラマということになるのかもしれないが。 何といってもいいのは渡哲也。とにかくその存在に説得力がある。ホントうまいよなあ。「ウエスタン・ポリス」とかより何百倍もいい。そして、チンピラのような刑事を演じる吉川晃司がいい。奇妙な諦観を持ち、世の中を斜めに見ている感じがものすごく良く出ている。フラバン茶のCMでおなじみの長塚京三もいい。誘拐された社長の狼狽ぶりが、わりと淡々としているだけにリアル。泣いたり叫んだりというのはあまりに芝居がかっていて、かえってウソ臭い。小さな役だが、加藤晴彦も普通でいい。本当にいそうな感じを出すのは難しいと思うが、無理をしていない等身大の演技というのか、印象に残る。 ただボクには、過去に差別によって会社をクビになったことがこの事件の動機となるのが、映画を見ただけでは理解できなかった。貧乏や、差別や、いろいろあるとしても、あんな事件を起こすほどの恨みとなるのか……気持ちが伝わってこなかった。 監督はあの面白かった「学校の怪談」(1995・日)の平山秀幸。その後の「愛を乞うひと」(1998・日)と「魔界転生」(2003・日)はどうなんだろう。「OUT」(2002・日)はなかなかよかったけれどやっばり暗かったなあ。 公開2日目の2回め(初日は舞台挨拶があって混雑するのでパス)、510席の銀座の劇場は30分前に着いたらロビーには15〜20人くらいのひと。全席自由だというので2Fへ行く。ほとんど中高年のみで、特に高齢者が多い印象。男女比は半々で、だいたい夫婦連れ。 最終的に2F席には20人くらいの入り。1Fは3割くらいだろうか。工事のため地下のトイレが使えず、2Fのみでちよっとした混乱が。 |