2004年12月18日(土)「マイ・ボディガード」

MAN ON FIRE・2004・米/英・2時間26分

日本語字幕:手書き書体、下、石田泰子/シネスコサイズ(マスク、with Panavision)/ドルビー、dts

(米R指定、日R-15指定)

http://mybodyguard.jp/contents.html
(音に注意)

軍隊時代の友人シイバーン(クリストファー・ウォーケン)の紹介でボディガードの職を得たクリーシー(デンゼル・ワシントン)は、しかし外人部隊時代の殺戮行為に悩まされアルコール中毒におちいっていた。そんな彼の心を癒したのは、守る相手である9歳の少女ピタ(ダコタ・ファニング)だった。やがてクリーシーが心から笑うことができるようになった時、ピタが誘拐される。

77点

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 日本語タイトルから想像すると、少女を守る話のようだが、ハッキリ言って「復讐劇」。それもなりふり構わぬ強烈なもの。なんだか、こう売りたいという映画会社の意図が見えてくるような……。そのせいか、意外に入りは良くなかった。オリジナル通りに売るべきだったのではないだろうか。結果論だが。

 「マイ・ボディガード」と言われると、どうしてもケビン・コスナーの名作「ボディガード」(The Bodyguard・1992・米)を連想してしまって、同じような内容なのではないかと思ってしまう。守る相手が美しい芸能人か、愛らしい金持ちの娘かの違いはあっても。どちらも敏腕、無口だが、次第に打ち解け命を懸けてクライアントを守ると。「ボディガード」もそうだったが、カッコ良すぎるコテコテの話ではないかと予想してしまうのだ。

 ところが、本作は前半は予想通りの展開を見せるものの、主人公は「リーサル・ウェポン」(Leathal Weapon・1987・米)のリッグスみたいに過去のことで悩んでいる自殺志願者で、アル中で、プロに徹するというよりは単に他人に対して心を硬く閉ざしているという設定。しかも誘拐事件を転調ポイントとして。後半、ものすごい復讐劇が始まる。これがすごい。有無を言わさぬ復讐。主人公が言うように「関わった者、おいしい汁を吸った者は、一人残らず殺す。皆殺しだ」(だいたい、こんな感じ)。何しろ原題が「燃える男」だ。軍隊で得た知識や技術を駆使して、情け容赦なく犯人達を追いつめていく。普通とは違って、犯罪者達の方がビビって逃げるほどなのだ。それは見ているほうも怖くなるくらい。すごいなあ。

 原作はA.J.クィネルという人で、ハードボイルド・ファンにはクリーシィ・シリーズとして結構前から知られているそうだ。本当に外人部隊にいた人で、原作ではCQB(近接戦闘=室内戦など)についての蘊蓄なども書かれているのだとか(実際には外人部隊ではなく、貿易商として世界中を駆け回っていたと原作本にあった)。書かれた順番に読むといいらしい。読んだ多くの人が満点に近い評価をしていることも注目に値する。だからこそ映画化されたのだろうが。そのA.J.クィネルのデビュー作が本作で、文庫版は880円で集英社文庫から出ている。買おうかな。

 つまり、ファンの間ではそれほど有名な本作を、デンゼル・ワシントンだからと“マイ・ボディガード”としてしまったことに問題があるのだろう。これではファンが振り向かない。本作で鬼のようになって復讐を演じる主人公のタフなイメージと、理知的でクールなデンゼル・ワシントンのイメージがダブらないから、よけいに不利だ。ボクは結構良かったと思うけど。

 そういうハードボイルドだけに、銃撃戦はリアル。銃声は甲高く、大きく、恐ろしい。車のボディにボコボコ穴が開く。クリーシーはグロックをカイデックス(合成樹脂)のヒップ・ホルスターに入れて腰のベルトに着けている。予備マガジンはマグ・ポーチに入れ反対側に2本(合計51発+1というファイヤー・パワー)。そして撃つ時は全てダブル・タップ。2発ずつ撃つ。

 復讐に立ち上がる時、武器屋からいろんな武器を見せてもらうのだが、ブローニング・ハイパワーがあったり、M3グリスガン、「ブラックホーク・ダウン」(Black Hawk Down・2001・米)で有名になったRPG7、ソードオフした水平二連ショットガン、手榴弾、プラスチック爆弾C4、ミル・フィニッシュ風コンバット・コマンダー、SIG P226らしきハンドガンもあり。ただラスト近く、マガジンを抜いて弾を1発だけ装填した銃が撃った後スライド・ストップしていたが、あれは不可能。ありえない。ラストには敵はレーザー・サイト付きM16A2を持っていた。

 この映画の成功は、クリーシーとピタの心の交流が観客に伝わるかどうか。でないと後半のあまりに残虐な復讐劇に付いていけなくなってしまう。その点で言えば、ダコタ・ファニングをキャスティングできた時点でもう達成されていたのかもしれない。とにかく愛らしく、誰もがすぐに彼女を好きになってしまうだろうから。演技もうまく、とても10歳の幼い少女とは思えないほど。銃声に身をすくませる仕草など、完璧といってもいいかもしれない。ピタがクリーシーに希望をなくした守護聖人ユダ(キリストを裏切ったユダとは別人。http://rurikoh-an.join-us.jp/gallery14.html参照)のペンダントを贈るあたりで、もうまわりからぐしゅぐしゅ鼻をすする音が聞こえていた。

  ただ、このラストでは続編は作られそうもないけれど、ボクとしてはクリーシィ・シリーズをスクリーンで見てみたい気がした。残念。

 上司というかボスというか戦友のクリストファー・ウォーケンも、いつものような危ない人物ではないがいい。奇妙な存在感だ。

 リンダ・ロンシュタットが唄う挿入歌「青い河」(ブルー・バイユ)が悲しい。

 公開初日の初回、混むと思ったので55分前に着くように行ったら新宿の劇場は誰も並んでいなかった。45分前になってやっと7人ほどに。40分前くらいから徐々に増え出して、25分前に開場した時には30人くらいに。男女比は3.5対6.5で女性の方がやや多く、高齢者は1/4くらい。意外に若い人も多いが中心は中年の方々。

 かなり寒い日で、もう少し早く開けて欲しかったが、とりあえず初回のみ全席自由。うちろに座った中年夫婦の会話が聞こえてきたのだが、夫の方が原作を読んだらしく、ストーリーを妻に説明し始めた。おいおい止めてくれ。オレは聞きたくなんかないぞ。まったく何というマナーの夫婦だ。

 最終的には305席に7割ほどの入りはまあまあだろう。

 ハワード・ヒューズの伝記映画「アビエーター」の予告が始まった。


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