ビスタ・サイズ/ドルビー
(日R-15指定)
名門中学へのお受験のため、3つの家族が姫神湖近くの別荘で塾講師の津久見(豊川悦司)を招いて合宿することになった。並木(役所広司)は妻(薬師丸ひろ子)と別居中で、会社の若手女性フォトグラファー英里子(眞野裕子)と不倫をしていたが、遅れて別荘へ向かい合流する。ところがその愛人の英里子が別荘へやってきたことから、全員がぎくしゃくし始める。 |
長い。2時間を超えていないのに、かなり長く感じる。映画の完成度としては悪くないと思うが、とにかく暗たんたる思いで劇場を後にすることになる。このやりきれなさは何なんだろう。見たくないことをこれでもかとしつこく見せ続けられたせいだろうか。 見たくないことというのは、残酷なシーンのことではない。残酷なシーンはあるが、こちらは他の感情的修羅場シーンよりもそっけなく、リアリティも希薄で、むしろ物足りないくらい。不倫だ別居だ、お受験だ、何だかんだ……そこが異常に細かく描かれている。そのため、せっかくのミステリー部分が希薄。いったいミステリーにしたかったのか、ドロドロの人間ドラマを描きたかったのか、判然としなかった。 たとえば冷えきった関係を続ける役所広司と薬師丸ひろ子の仮面夫婦のケンカシーンは、役者がうまくまた演出も適切なため、ものすごいリアリティがある。リアリティがありすぎるほどで、これを長時間は見たくない。「犬も食わない」ってヤツで。それに物語の進行上、ここでは夫婦間が冷えきっていることを観客に示せばいいだけだから、これでもかと見せる必要はなかったのではないだろうか。というか見たくない。 もちろんドラマという要素は絶対に欠かせないもので、それが陳腐では作品全体が台無しになってしまう。しかし今回のようにバランスを崩してしまうと、本来描かれるべきミステリーが薄れ、メインとなるべきであった異常な形に歪んでしまった「お受験」という事件に直接関わるドラマがその陰に隠れてしまう。とにかく不倫の話にしか見えないから、見終わってもこの夫婦はその後どうなるんだろうという感慨しか残らない。さらに言えば、主人公であるだろう役所広司が夫婦問題ではあまりにダメおやじで、ちっとも感情移入できない。 そして……たぶんサービスなのだろうが、不倫相手となる眞野裕子が胸を二度も露出している。しかし映画の展開上、必然性が感じられなかった。正直、得したとは思ったけど。たぶんハダカはもろ刃の剣なのだ。扱いがとても難しい。たとえば深作欣二監督の「忠臣蔵外伝 四谷怪談」(1994)で高岡早紀の大きな胸が出た瞬間、それまで積み上げてきた全てが一気に吹っ飛んでしまって、観客はもうエロのスイッチが入ってそれしか印象に残らなくなってしまった。あれと一緒で、本作でも眞野裕子の胸が出た瞬間、ミステリーとか謎解きなんてものは吹っ飛んで、胸と不倫しか印象に残らなくなってしまう。 一方、どうにも中途半端に感じたのは、証拠隠滅のために指紋を消し、歯型を取れないように歯を破壊し、顔が判別できないように潰すのだが、仮面夫婦のケンカシーンと対照的なほどリアリティがなくそっけない。まるでキレイごと。ビニールを掛けて石で潰すのに、高い方の鼻が無傷で口だけがダメージを受けるなんて。しかもきれいに口紅を塗ったような出血……って死後時間が経っているんだから血は流れないのではないかと思うが。 良いなと思ったのは、今に横たわった死体を移動させる時、頭から流れた血が固まって髪が床に張り付いていてバリバリと音を立てるところ。思わずゾッとした。こんな調子で他でも死をリアルに描いてくれれば良かったのに。ただ、なぜ死体を湖に捨てるのかには疑問が残った。焼いてしまった方が証拠が残らない気がしたのだが。 役所広司はもうとてつもなくうまい。もう名優だと思う。自然に役になり切っている。無理に力が入っていないところが良い。そして「野生の証明」(1978)とか「セーラー服と機関銃」(1981)「探偵物語」(1983)とかでの美少女のイメージが強い女優さんが、冷えた夫婦関係をこんなにもリアルに演じているというギャップが大きく、驚かされた。もう40歳こえてるし、印象は昔のままなのにもうすっかり熟女なんだなあと。そして、いいのは杉田かおる。とにかく自然で、いい具合に力が抜けてて、本当にいそうな感じがあって、TVのバラエティ番組に出ている彼女からは想像もできないほど。さすが女優。 それにしても、なぜこのタイトル? 東野圭吾の原作小説「レイクサイド」のままでいいんじゃないの。ミステリーの要素も薄まっているわけだし……。あえて殺人事件と付け加えて逆を狙った? 公開2日目の初回、銀座の劇場は40分前についたらロビーまでは入れたがまだ開いていなかった。待っていたのは中年が5人くらい。うち女性は20代後半くらいの人が1人。35分前に開場し、初回のみ全席自由。30分前になって8〜9人になり、オバサンが増えてきて大きな声で話し始めた。うーん、うるさい。 15分前に30人くらいになった。中心は20代〜30代〜中年で、高年齢者は少なかった。男性の方が多く、女性は1/3くらい。その後カップルやオジサンが来て、最終的には183席に50人くらいに。オヤジが増えたせいで、女性は1/4くらいに。 それにしても、この音の悪さはなんだろう。高音がシャリつき、低音でスピーカーがヒビる。特に右側面中頃のスピーカーの音が割れていたから、映画のサウンドトラックではなく、劇場のスピーカーがいかれていたのかもしれない。結構これって雰囲気を壊すので、早急に直してもらいたい。これでお金を取っているのだから。 予告では「戦国自衛隊」や「宇宙戦争」「レイ」「プリティ・プリンセス」なんががあったが、それに混ぜてR-15の映画で子供アニメの予告をするのはどうなんだろう。効果あるンだろうか。ボクにはよくわからなかった。 |