2005年1月29日(土)「オペラ座の怪人」

THE PHANTOM OF THE OPERA・2004・米/英・2時間23分

日本語字幕:手書き風書体下、戸田奈津子/シネスコ・サイズ(マスク、with Panavision、ARRI)/ドルビーデジタル、dts、SDDS

(米PG-13指定)

http://www.opera-movie.jp/
(とにかく重くて遅い。全国劇場案内もあり。音に注意)

1919年パリ。今は閉鎖されたオペに劇場で、劇場にある値打ち物のオークションが始まった。そこを訪れた車いすの老人は、猿のおもちゃを競り落とすと、1870年の事件を思い返す……。その年、劇場のオーナーが替わり、プリマドンナとして君臨していたカルロッタ(ミニー・ドライバー)が歌を披露していると巻き上げてあった背景幕が落下し騒然となる。その場にいた人々は皆、ファントムの仕業に違いないと噂した。命に別状なかったものの腹を立てたカルロッタは出て行ってしまう。代役として指名されたのは無名の新人クリスティーナ(エミー・ロッサム)だった。

70点

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 長い、眠い、退屈……寝た。たぶんこれはオペラ好きでないとつまらない。ボクはミュージカル好きだが、セリフまでが歌で歌われてしまうとダメだ。ノレなかった。以前「トラヴィアータ/1985・椿姫」(La Traviata・1982・伊)を見た時もダメだった。寝てしまった。そういう素養がないのだ。

 ただ、豪華な舞台装置、絢爛たる舞台衣装は素晴らしい。見るべきはそこと、鮮やかなSFX、主演女優さんがきれいなところか。

 印象としては映画というより、舞台のポップオペラを撮影したような感じ。舞台版「オペラ座の怪人」が好きな人はOKなのかもしれない。だからこれはあくまで舞台の手法であって、この手の映画には向かないのではないか。ボクが知る数少ない映画の中で言えば、成功例は「シェルブールの雨傘」(Les Parapluies de Cherbourg・1963・仏)くらい。これも恋愛物だから成立したのであって、ホラーとかミステリーでは成立しないと思う。たぶん映画好きには辛い。2時間23分はあまりにも長く、それは苦痛に近い。

 映画的にはロン・チェイニーが主演した1925年版の「オペラ座の怪人」(サイレント)にまったく及ばない気がする。幽霊が出るという噂、不審な事故の連続、仮面の男、まるで骸骨のような恐ろしい容貌、ひた向きな想いと悲しい結末……どれをとってもロン・チェイニー版が良いというか好きだ。その印象が強かったこともあって、アンドリュー・ロイド=ウェーバーのオリジナル舞台版をそのまま映画化したジョエル・シューマッカー版は映画として見られなかった。

 特にラスト、追っ手がそこまで迫っているというのに、対決状態にある子爵とファントムはのんびりと緩いテンポの歌を歌っているのだ。緊張感も現実感も全く無し。早く逃げりゃ良いじゃない。歌と口の動きもあってないし。

 舞台なら、いくつもの約束事(ルール)があって、舞台の上は別空間で特殊なところという前提が観客にもあるから、芝居が始まる前に「壁は見えませんが、あることになっています」と宣言されれば、想像で補って見ることができる。ところが活動写真である映画は、「写真」がベースだからリアルが基準。ちゃんと観客を納得(了承)させてからでないとあまりにリアルから外れることには付いて行かない。「ドッグヴィル」(Dogville・2003・デンマーク他)が映画として凡人にはつまらなかった(IMDbでは8.1という高得点)のと同様。

 また映画の場合、アップやロングといったカットのバリエーション、編集によるつなぎの間、すなわちリズムといった手法があるにも関わらず、セリフまでを歌うことによって多くのカットは引きぎみとなり、カットのリズムも歌のテンポに大きく制限されてしまう。つまり長回しだけで取ったような単調なものになっているのだ。長い、眠い、退屈と感じたのはだからではないだろうか。

 さらに、ファントムの醜いメイクがありま怖くない。マスクで常に隠さなければならないほど酷いとは思えないのだ。自ら映画のセリフの中でも言っているが「鼻は無くただ穴が開いているだけ」という状態で、骸骨の生焼けという山上たつひこ「喜劇新思想体系」の人外魔境のようなヤツなのだ。だから1925年版の「オペラ座の怪人」のような顔でなければならない。あのマスクを取った時のショック。それだからこそファントムの悲しみがよくわかり、ラスト・シーンは泣けるのだ。それが、「ドラキュリア」(Dracula 2000・2000・米)とか「トゥームレーダー2」(Lala Croft Tomb Raider: The Cradle of Life・2003・米)の2枚目ジェラード・バトラーがちょっとだけお岩さんメイクをしてもなあ……。

 監督のジョエル・シューマッカーという人はうまいのかヘタなのかよくわからない。良い作品もあれば、酷い作品もある。「9デイズ」(2002)とか「タイガーランド」(2000)とかという退屈な作品があるかと思えば、「ロストボーイ」(1987)とか「フラットライナーズ」(1990)なんていうSFチックなホラーというかスリラーがあって、「依頼人」(1994)とか「評決の時」(1996)なんていう社会派ドラマもあって、そうかと思うと「バットマン・フォーエヴァー」(1995)で「バットマン&ロビン/Mr.フリーズの逆襲」(1997)だったりするのだ。いったいこの人はなんだ。いわゆる職人監督というやつか。

 美しい女優さんはエミー・ロッサム。クリント・イーストウッド監督の「ミスティック・リバー」(Mystic River・2003・米)でショーン・ペンの被害者となる娘を演じ、ディザスター映画「デイ・アフター・トゥモロー」(The Day After Tomorrow・2004・米)ではジェイク・ギレンホールの恋人を演じた人。とにかくきれいだ。これからどんどん伸びて行きそうな予感。

 意外だったのはミニー・ドライバーで、「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」(Good Wil Hunting・1997・米)とか「フラッド」(Hard Rain・1998・米)の行動派のイメージのある人が、いやな御局さまを演じるとは。実声がどうかわからないけど、歌っているし。

 公開初日の初回、新宿の劇場は45分前に着いたら、4館共通の窓口が開いておらずそちらに10人ほど。上映劇場前は0人。40分前くらいに窓口が開いたのか、10人くらいに。男女比は3対7で女性が多く、ほとんど20〜30代。30分前に開場した時点で30人くらい。

 指定席は無く、初日プレゼントはあり。歌詞付きのポストカードだった。次第に中高年も増え、それでも全体の2割程度。老若を問わずカップルが目立っていた。最終的には406席の7割ほどが埋まったが、これは多いのか少ないのか。それより見終わってみんな納得したのかなあ。疑問。

 とにかく上映が始まるまで流れるBGMの音質最低。ガリガリ雑音が入り不快なことこの上ない。本編は別なアンプとスピーカーを使っているらしく、そこそこの音だったが……お客に聞かせる音じゃないと思うが。

 「宇宙戦争」の予告編が少し進歩した。なんでもこの予告編はスピルバーグ本人が監督しているのだとか。その意味で必見。


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