日本語字幕:手書き書体下、松浦美奈/シネスコ・サイズ(テクノビジョン)/ドルビーデジタル、dts、SDDS
(仏U、米R、日R-15指定)
第1次世界大戦末期の1917年、フランス、ソンムの戦場で5人の兵士が故意に負傷して前線からの離脱を計ったとして処刑されることになったが、どこの部隊も直接手を下そうとしなかった。結局、最前線のフランス軍とドイツ軍の間にある中間地帯に放り出されることになった。やがて終戦になり、その5人の中の1人、マネク(ギャスバー・ウリエル)の幼なじみでフィアンセの、マチルド(オドレイ・トトゥ)のもとに戦死の知らせが届く。しかしマチルドはマネクが死んでいないと直感し、マネク探しの長い旅に出ることになる。 |
参った。完璧にボクのストライク・ゾーン。押井監督の「イノセンス」と一緒。はまってしまった。これはすごい。素晴らしいビジュアル、ストーリーの面白さ、切ない哀愁を帯びた音楽、悲惨な話なのに希望を感じさせる構成・演出……。2時間13分がちっとも長くないし、不思議な大人のおとぎ話を堪能できる。1,800円払って見る価値がある。いや、劇場で観ておかないと損をする。この迫力、感動、音響、緻密な絵……どれも大きなスクリーンでないと魅力が半減してしまう。このファンタジーと呼んでも良い世界にどっぷり漬かるには劇場で観るしかない。戦場の音はそれだけで恐怖を感じさせるようにリアルに作られている。うーん、とにかくスゴイ。 現在進行形の世界はセピア調の色彩で、暖かみと古さを感じさせる色設計。一方、過去の話として出てくる戦場は青身を帯びたクールな色調。そして、話は黒澤明監督の「羅生門」(1950・日)のように、複数の人物が、それぞれの立場で1つの事件の目撃証言をして行くというもの。 1人の話を聞いただけでは、実際に何が起こったのかよくわからない。しかし、色んな人から話を聞いて行くうちに矛盾が生じ、かえって混乱して行くが、やがてキーとなる人物が現れてついに真実が明らかになる。この過程自体が1つのロード・ムービーのようになっていて、楽しめるのだ。まさに多様な人物が登場する。しかもそこに魅力的な配役がなされているのだ。まさにオールスター状態。 たとえば、処刑された5人の中の1人の恋人で、娼婦となって復讐をしていく女、ティナに「TAXi」シリーズの美女、マリオン・コティヤール。5人の中の1人で子種のない男の妻、エロディになんとジョディ・フォスター。流ちょうなフランス語を披露していた。単なるゲスト出演というより、結構重要な役でしかもちょっと汚れ役。主役を張れる人がチョイ役で、顔見せではなく存在感を持って出演しているのだからスゴイ。 さらに、戦場で5人の兵士の処分を押し付けられる将校に、ジャン・レノと並ぶ味の濃い俳優、チェッキー・カリョ。短い時間だったが、本当に存在感のある人。しっかり印象に残った。 もちろん重要なキャラクターである、育ての親のおじさんには、ジュネ組とも言うべきドミニク・ピノン。実は彼を筆頭にジュネ組俳優はいっぱい出ている。ほとんど「アメリ」(Le Fabuleux Destin D'amelie Poulain・2001・仏)にも出ていたのではないだろうか。総出演という感じだ。 ジャン=ピエール・ジュネ監督は、戦場をとてもリアルに描いている。銃声は乾いていて甲高く、大きく、まがまがしい感じ。爆撃による爆発も地を揺るがすような恐ろしさを轟かせている。どちらの音も聞いているだけで怖い。おそらく、戦場の恐ろしさを観客に伝えようと意図されたものだろう。サラウンドで銃弾が飛び交い、爆発が起こるリアルな戦場の雰囲気は、できるだけデジタル音響設備を備えたいい劇場で鑑賞したい。 当然銃器類もリアルだ。冒頭、5人の1人がハエだかゴキブリだかを潰すのに使う拳銃が、たぶんスペインのルビー。フランス軍の将校用に多数発注されたピストルのはずだが、なぜか一兵卒が持っている。そして暴発し大変なことになる。兵士達が持っている小銃はレベル1907/15ライフル。独特のスタイルで、3連発という他にあまり例を見ないもの。さらに将校が持っているリボルーはレベルMle1892のようだった。これはシリンダーを右にスウィング・アウトするという変わり種。たぶんこれを使っていたと思う。いずれも瞬間で、確実ではないのだけれど。 これらクラッシック・ガンを、ちょっとのシーンのために集めたという事実だけでも気合いの入れ方がわかるというもの。他のもっと手に入れやすい銃という選択もあったはずだ。 さらに戦場ばかりでなく、1920年ころのフランス・パリなどもみごとに映像化されている。ただ田舎の風景は1920年代も現代もあまりかわらないというのが、逆にすごいのだけれど。 公開初日の初回、銀座の劇場は55分前でオヤジ2人の20代くらい1人の合計3人。45分前になると15人ほどになり、若い人が増えてきた。やはり「アメリ」効果だろうか。中高年は1/3ほどになってしまった。さらに若い女性が増えて、30分前に開場。 初回のみレディース・シート以外、全席自由。見やすい2階席もOK。2階席の後列11席×1列がぴあ席に充てられていた。もちろん初回は自由。 10分前くらいから劇場案内が映写され、携帯手電話は電源を切るように案内が出たが、その絵が出てているところで平気でメールを打っているヤツが……。消すヤツなんか1人もいない。やれやれ。文字より具体的な絵でアピールした方が良いかも。もっと徹底を。この時点で2階席には30人くらい。 最終的に2階席は3.5割ほどの入り。この出来の良さにこの入りは少なすぎる。満席になってもいい映画だと思うんだけどなあ。 それにしても、ジュネ監督は何か足の悪い人というのにこだわりがあるのだろうか。必ず自分の作品には足の悪い人が出てくるような気がするのはボクだけ? フリークスへのこだわりだったっけ。今回はオドレイ・トトゥ演じる主人公が足を引きずっていた。 |