日本語字幕:手書き風書体下、鎌田邦子/ビスタ・サイズ/ドルビーデジタル
(米R指定)
凶悪な死刑囚リー・レイ(レイ・リオッタ)は薬殺による死刑に処せられることになったが、死体置き場で目覚める。そこには警務署長とハート・マーサ製薬会社の幹部がいた。新薬の医学プロジェクトに協力すれば死刑を免除するという。その新薬とは神経薬理学者のマイケル・コープランド(ウィレム・デフォー)が開発した激しい気性を押さえる薬“アナグレス”で、それを定期的に無期限で摂取することが義務づけられていた。最初全く効かないかに見えた“アナグレス”だったが、投与量を3倍にするとリーに変化が表れ始めた。 |
IMDbでは投票数わずかに354票で、しかも6.2点という凡庸な評価。しかしボクははまった。まさにストライク・ゾーン。いかにも映画らしい構成。豪華な出演陣。そして意外な展開と、大どんでん返し。えっ、そうなっちゃうの? 驚いたなあ。まさにショック。タイトルと予告編から想像されるB級的なものとは違って、強烈なバイオレンスとドラマがてんこ盛りで、ハラハラトドキドキ。ボクはたっぶり堪能することができた。これぞ映画だなあと。 とにかくストーリー展開がいい。ボクはヒッチコック的だと思ったのだが、最初は囚人もののようなアバン・タイトルで、この期に及んでまだ悪態をつきまくる凶暴な死刑囚が処刑されるところを克明に描いていく。そして一瞬、死刑囚の不幸な子供時代がフラッシュバックする。犯罪モノの映画のような印象だ。しかし、これが一転して医療モノというか、近未来モノのような雰囲気になって、それが今度はロシア・マフィアの殺し屋が追ってきてアクションモノのようになって、さらに人間ドラマ的展開を見せる……そして恐れていた破綻が訪れ、大どんでん返し。参った。こうくるとはなあ。 全編に、何か良くないことが起きそうな緊張感がずっと漂っている。いつ薬が切れて、主人公自身もキレて、一切を台無しにしてしまうのではないかという不安。観客はずっとそれにさらされる。 薬によって新しい人生を始めた男の生活と、薬を開発した博士の生活が平行して描かれ、観客は次第に両者に感情移入していく。だから破綻が恐ろしくなる。うまい。 解くに素晴らしいのは、信じられないほど凶悪でけだもののような男を演じたレイ・リオッタ。特殊メイクと嫌らしいヒゲ、入れ墨などによって、最初は本当に刑務所にいそうな粗暴犯にしか見えない。迫真の演技だ。しかし後半は薬の力でおとなしくなり、全く別人の優しい男へと変っていくところなど素晴らしい説得力。虫ずが走るほどだったのに、だんだん好意を持ってしまうのだ。もちろん、そうならないとこの物語は成立しない。レイ・リオッタの演技に成否がかかっているといっても過言ではない。「乱気流/タービュランス」(Turbulence・1997・米)や「不法侵入」(Unlawful Entry・1992・米)の狂気と、「コリーナ、コリーナ」(Corrina, Corrina・1994・米)や「アンフォゲタブル」(Unforgetable・1996・米)のいい人ぶりが共存したキャラクター。すごい役者さんだなあ。 薬を開発した博士に、「ストリート・オブ・ファイヤー」(Streets of Fire・1984・米)の悪役レーベンで注目を集め、話題となったリアルなベトナム戦争を描いた「プラトーン」(Platoon・1986・米)のいい軍曹で一気にメジャーな存在となったウィレム・デフォー。エキセントリックな捜査官を演じた「処刑人」(The Boondock Saints・1999・米)のキレた演技など最高だったもんなあ。もちろん「スパイダーマン」(Spider-man・2002・米)でも異様な感じが素晴らしかったが、一見していい人なのか悪い人なのかわからないところがいい。存在感があり過ぎなのだ。今後も期待したい。 主人公を影から支える重要な役に、「ガールファイト」(Girlfight・2000・米)でタフな少女ボクサー役でデビューしたミシェル・ロドリゲス。あれ以来、「バイオハザード」(Resident Evil・2001・独/英/米)とか「S.W.A.T.」(S.W.A.T.・2003・米)とか強い女の役が多いのだが、本作では芯は強いがとても女らしい役を自然に演じていてグッド。洗車される車の中でのキス・シーンなんかとても初々しくて素晴らしい。こんな役もこなせるとは。 製薬会社の上級副社長には、ショッキングな名作「クライング・ゲーム」(The Crying Game・1992・英)でIRAのテロリストを演じたスティーヴン・レイ。いかにも腹芸が得意といった感じの小悪党をリアルに演じている。いまひとつ彼の魅力を活かした良い作品に恵まれないようで、パッとしない印象があるのが残念。本作でもそこそこの印象にとどまっている。 博士の助手で、ひそかにつき合っているという美女には、「最終絶叫計画2」(Scary Movie 2・2001・米)や「アイ・アム・サム」(I am Sam・2001・米)のビッグ・ボーイ・レストランのウエイトレスを演じた、キャサリーン・ロバートソン。愛人関係をクールに演じているが、彼女の存在が後で効いてくる。 とらえ方の問題ではあるが、このテーマは死刑廃止論にもかかわってくることだと思う。もっと大げさに言えば、人間論というか、性善説、性悪説も考えさせずにはおかない。といって堅いお話かといえばそうではなく、M92の2挺拳銃で麻薬ディーラーを襲撃したり、M92シルバーにサイレンサーを付けたロシア・マフィアの殺し屋が襲いかかってきたり、チャンスさえあればレイが研究所から逃げ出そうとするので、アクション・シーンも多い。だからまったく飽きさせない。 IMDbによるとブラジル公開版は90分だそうで、アメリカ公開版がどれかは不明だが、日本公開版より15分も短くては、せっかくの良い細かなエピソードがすべて削除されていると想像され、それでは正しく評価できないのでないかと思う。90分版は全く違った作品と言ってもいいのではないだろうか。 公開11日目のレイト・ショー、20分前に着いたら新宿の劇場はまだ閉まっていた。15分前くらいにようやく開場。入場プレゼントがあって、マンナンライフの「快肝ウコン粒」の試供品をもらった。薬つながりだろうか。入場したらすでに1人いたのには驚いたが、この時点では男性3人。 最終的に300席に15人くらい。いくらレイト・ショーでもこれは悲しい。いい出来の映画なのに。20代後半から30代前半くらいの男性が中心。若い女性は4人ほど。中高年がパラリと。 惜しいことに4/1までの2週間上映。これはいかにももったいない。もっと多くの人に知ってもらって、多くの人に見て欲しい作品だったのに、残念。 |