日本語字幕:手書き風丸ゴシック体下、根本理恵/ビスタ・サイズ(1.85上映)/ドルビーデジタル
(日R-18指定、韓18指定)
ある夜、森の中に建つ家の中で男女の惨殺死体を発見した男は、その場から逃げ出す謎の実物を追い、道路へ出てトンネルに入ったところでクルマに跳ねられ頭部に重傷を負って病院に収容される。14日後、瀕死の重傷からどうにか意識を取り戻した男は、警察を呼んでくれと訴える。 |
韓国らしい、ものスゴイ強烈な物語。雰囲気としては「オールド・ボーイ」(Oldboy・2003・韓)に通じるところもある。そしてまた「アザーズ」(The Others・2001・米/西/仏)のアレハンドロ・アメナバールのようでもある。 映画としては非常に分かりにくく、その日いったい何が起こったのかこそがこの映画のテーマであり、なぜそうなったのか、そこに至るまでにどんなことがあったのかが、ミステリアスに、オカルティックに描かれている。が、実際の話の構造はそれほど複雑ではない。主人公の記憶が断片的でまた混乱していることから、時間軸がメチャクチャになっているからなのだ。さらに、きわめて主観的な記憶だということだ。それで、観客は混乱する。 見て気分の良いものではないが、えっ、さっきの話はこういうことだったの?という、何か新鮮な驚きがある。心地よい「だまされた」感がある。それは、この映画が謎解きではなく、主人公の記憶の来し方をたどる旅のようなものになっているからだろう。つまり、ある人間の心情・経験を追体験する感覚だ。その意味では「アイデンティティー」(Identity・2003・米)にも近いと言えるかもしれない。 世界的な名作、黒澤明監督の「羅生門」(1950・日)とは正反対の手法。複数の人々がそれぞれに都合の良い話をして真実が浮かんでくるのではなくて、1人の主人公が主観的に同じ話を何度も反すうし、次第に真実が浮かび上がってくるという手法。おそらく監督で脚本家のソン・イルゴンは「羅生門」を強く意識していたのではないだろうか。そんな気がする。 韓国版は日本公開版より8分ほど短いが、おそらくそれは過激な残酷描写(殺害シーン)と、かなりギリギリのベッド・シーンだろう。韓国映画と思えないほどベッド・シーンは過激だ。過激でないと殺害の残酷さとつり合わないのだ。どちらかを切ることはできず、切るなら両方だろう。 主人公カン・ミンを演じる韓国イケメン俳優は、カム・ウソンという人。めちゃくちゃハンサムだし、この落ち着いた感じはベテランなんだろうと思いきや、期待の若手俳優なのだとか。35歳だけど。 オール・ヌードで過激なベッド・シーンを演じているのは、カン・ギョンホンという女優さん。公式サイトによれば本作が映画デビュー作なんだとか。これまではTVで活躍していたらしい。もちろん美人で、まさかこの人があんな過激なシーンを演じるとはって感じ。どこかで見たことある感じなんだけどなあ。しかも御局さまみたいなどっしりとした演技で、この人もベテランっぽい。 アメリカの人には、日本映画の時間軸の描き方は分かりにくいらしい。どこが回想で、どこが現在進行形なのか分かりにくいというのだ。その分かりにくい時間軸の描き方に慣れているはずの日本人観客が見ても、この映画の時間軸の描き方はわからない。回想の中で回想して、さらに過去に戻ったり、現在進行と思っていたらいきなりそこから現在へと戻ったり……自分の記憶の混乱なので、しようがないといえばしようがないのだが。 よく理解できなかったのは、主人公の子供の時のこと。いったい誰が親で、どうつながっていて、どうなっていたのか。よくこの形でまとめたものだと感心する。監督はかなり頭のいい人だと思う。凡人がついて行くのはかなりしんどい。 それにしても、クモの森の伝説は悲しい。この映画のための作り事なのか、実際に韓国で言い伝えられていることなのか。ちょっと気になった。それとタイトルに付け足されている「懺悔」はイカンだろう。予告編を見た時からなんとなく結末が予想できてしまったが、まさかそのとおりとは……。ただの「スパイダー・フォレスト」か「蜘蛛の森」でいいのに。映画中盤で蜘蛛の森の伝説が語られ、なるほどあと感心したのに。「懺悔」はないだろう「懺悔」は。デリカシーが全く感じられない。事件の謎の答えをタイトルに入れてしまった「乙女座殺人事件」(January Man・1989・米)よりはまだましだけど。……なぜかallcinemaでは劇場未公開となっている。ボクは劇場で見たんだけど……。 公開2日目の初回、銀座の劇場は40分前についたら劇場はまだ真っ暗。もうお昼が近いってのに。オヤジが1人入口で待っていた。30分前で中高年が5人。うちオバサン1人。15分前くらいにやっと開場。ちょっと遅いんじゃないの。この時点で12〜13人。30代くらいの女性が1人。 指定席はなく、カーテンも無し。1.85比率で最初から開いていた。最終的に177席に40〜50人ほどの入り。韓流ブームはここだけ関係ないかのよう。カム・ウソンはものすごいハンサムだってのに。カン・ギョンホンだって美人で脱いでいるのに。ああ、もったいない。楽しい映画ではないけれど、観客の感情操作は見習うべきところがたくさんある。 |