2005年5月15日(日)「バタフライ・エフェクト」

THE BUTTERFLY EFFECT・2003・米・1時間54分(IMDbでは113分、ディレクターズカットは120分)

日本語字幕:細丸ゴシック体下、関 美冬/ビスタ・サイズ/ドルビーデジタル、dts、SDDS(IMDbではドルビーEX 6.1、dts-ES、SDDS)

(米R指定、日PG-12指定)


http://www.butterflyeffect.jp/
(全国の劇場案内もあり。音に注意)

父が精神異常で入院し、看護婦の母アンドレア(メローラ・ウォルターズ)によって育てられたエヴァン(アシュトン・カッチャー)は、7歳の時、近所の兄妹のトミー(ウィリアム・スコット)とケイリー(エイミー・スマート)を紹介され、母が出かける時いつも預けられるようになった。しかし兄妹の父ジョージ(エリック・ストルツ)は、昼間から酒を飲み、最近買ったビデオで映画を作りたいといって、エヴァンとケイリーを地下に連れ込み裸になれという。エヴァンは記憶がなくなり気が付くとケイリーが泣きじゃくっていた。同じように記憶が飛ぶことが度重なり、父と同じようになるのではないかと心配した母はエヴァンを精神科医に見せる。すると医師は脳などに異常はないので、日記をつけさせるようにアドバイスする。

74点

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 凄いドラマ。ショッキングな話で、あまり楽しいものでもないが、感動する。チラシに「切ないハッピーエンド」とあったが、まさにその通り。これは辛い。

 ただ、微妙なところで常に最悪のシナリオを予想してしまい、今進んでいる物語を堪能できないところがあった。つまりSF的な話ではなくて、文学的に「実はこれはすべて主人公の脳の中だけで起こっていたことだった」という「夢落ち」的なもので終わってしまうのではないかという危惧だ。

 というのも、物語の開巻そうそう、紙が破れて散るとそれが蝶になり、やがてその羽ばたく蝶がCTスキャン画像のようなものの脳に重なっていくからだ。脳の中だけの話というのを暗示しているのだと思ってしまった。

 日本映画だったら、たぶん間違いなく脳内での話にしているのではないだろうか。さすがハリウッド、そうはしなかった。この不思議な現象こそ本当に起こったことだというわけだ。えらい。これでこそ世界の夢工場。映画は壮大なファンタジーなのだ。

 といっても、コップの中の嵐でも「アイデンティティー」(Identity・2003・米)のようなおもしろい映画もあるわけで、一概にそれが良くないとは決めつけられないのだが。ただ、ありえないようなことが頭の中で起こっていたのと、実際に起こっていたのとでは、まったく意味が変わってくる。とにかく良かったって思ったのは間違いない。

 ちなみにチラシによれば“バタフライ・エフェクト”とは、「ある場所で蝶が羽ばたくと、地球の反対側で竜巻が起こる」という、飛躍しすぎていてまったくわけのわからない理論。いわゆるカオス理論なんだそうだ。しかし、風が吹く→ホコリが舞い上がる→それが目に入る→失明する人が増える→アンマさんが増える→アンマさんは三味線を弾く→三味線を作るために猫が減る→猫が減ると鼠が増える→鼠が増えると桶をかじる→みんなが桶を買い替える→桶屋がもうかる、くらいは説明してもらわないとわからない。解説によると、初期条件のわずかな違いが、将来の結果に大きな差を生み出す、とあった。途中の説明がないとなあ……。

 時間の壁を乗り越える表現がすごい。まず日記の文字が振動を始める。やがてそれが周りの風景につたわり、振動が歪みになって、ついにはワープするように時間を超える。なかなかの迫力だ。ただ表現は別として、時の乗り越え方でいえば、泣けるラブ・ストーリー「ある日どこかで」(Somewhere in Time・1980・米)にかなり似ている。

 本作に似ているといわれるSFアクション「リバース」(Retroactive・1997・米)は、超能力ではなくタイムマシンで時間をさかのぼる。そして、さかのぼるたびに状況が悪くなる。同じように過去を変えようとするわけだが印象は全く違う。アクションがメインか時を乗り越えることがメインかというような違い。そしてどちらが面白かったかといえば、ボクは「リバース」の方を上げるが。

 本作はアシュトン・カッチャーが脚本を読んで感激し、自らエグゼクティブ・プロデューサーを買って出たという。アシュトン・カッチャーは人気ばかりが先行し(といっても、あまり日本人好みの顔とは思えないが)、前作の「ジャスト・マリッジ」(Just Marred・2003・米)はIMDbで5.1という低評価、さんざんだったわけで、どうにか名誉挽回できるものを探していたのだろう。そういえば「ドリヴン」(Driven・2001・米)のキップ・パルデューは日本でファンクラブを作って盛り上げようとしていたが、どうなったんだろう。その後トンとはなしを聞かなくなってしまったけど。

 ヒロインはつい最近、大統領暗殺の陰謀を描いたアクション「プラインド・ホライゾン」(Blind Hirizon・2004・米)で主人公を助ける看護婦役で好印象を残した美女エイミー・スマート。本作でも同じ女性の色んなパターンを演じ分けて見せ、強く印象に残る。やはりうまい人だったのだ。

 脚本と監督を協同で担当しているのが、エリック・プレスとJ・マッキー・グラバーの2人。まず2人で脚本を仕上げ、自分たちが監督もするという条件も協同で書いている。評判が良かったことから「バタフライ・エフェクト2」も2007年に作られるらしい。

 公開2日目の初回、銀座の劇場は前売り券があっても当日券との交換が必要で、建物の外のボックス・オフィスの前に40分前に着いたところオヤジが1人。ときどき見かける、貧乏揺すりが特徴の人だった。

 30分前、8人くらいになった。20代くらいの男性が1人、中年の女性が1人、あとは中高年。窓口が開き、建物の中へ。25分前にやっと開場し、中へ入った時で30人くらい。下は中学生くらいからいたが、中心は中高年。女性は3〜4人。

 最終的には指定席なしの千鳥配列435席に50人くらい。女性はやや増えて1/4くらいか。アメリカでの評判の割に入りが良くない。広告もそこそこやっていたと思うが、ハッキリ言ってアシュトン・カッチャーは前作がビドかったこともあってか、まったく人気がないと、そういうことらしい。

 カーテンのある劇場で、左右に開いて始まった。いい。

 「リチャード・ニクソン暗殺を企てた男」の予告があったが、英語のナレーションがわざとらしい超低音で、マジで笑ってしまった。やりすぎじゃないかなあ。それにしても、「ミリオン・ダラー・ベイビー」は予告だけで泣ける。本編を見たらどうなってしまうんだろう。


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